第13話 1対3で模擬戦をしてみよう! 前半戦
「シルヴィーは初めての模擬戦か」
「は、はい! よろしくお願いいたします!!」
緊張したようにシルヴィーは硬くなっていた。
ロッドを握る手にも随分と力が入っている。
「【テイム補助】を使うからケガはない。あくまで実戦的な訓練だから、気楽に行こうぜ」
「そうですよ、シルヴィー。肩の力を抜いてください」
「大丈夫、シルヴィーさん。一緒に頑張りましょう!」
俺たちの言葉を受け、シルヴィーも大分リラックスできたようだった。
「改めて模擬戦を始めて行こうか。……まずはステージを変えよう」
そうして庭の真ん中に、異次元空間への入口を出現させる。
先導するように、先の見えない黒い穴へと率先して入っていく。
中に進むと、さっきまであった庭の景色とは打って変わっていた。
ダンジョンに迷い込んだように、石壁が通路を幾重にも区切っている。
「ここは……?」
最初に転移してきたルミアが、物珍しそうに周囲をぐるりと見渡している。
「【闇次元】と【テイム補助】を応用・発展させた能力だ」
人が入れる異空間を生み出す。
俺だけの簡易ダンジョン生成みたいなものだ。
「へぇ~流石ですねマスターさんは」
「……凄い。【固有魔法】、みたいです」
すぐに後から追いついたベルとシルヴィーも、それぞれ感動したように声を出していた。
……そう思ってもらえると嬉しいよ。
試行錯誤して、かなり頑張った甲斐がある。
「まあ今はダンジョンの半階層分もない、極々簡単な空間だけどな」
それに俺や奴隷たち――ルミア・ベル・シルヴィーしか入れないという、とても低スペックなものである。
だが改良を続けて、近々ハントでも使える質にするつもりだ。
「――ルールは簡単。この簡易空間の中に、庭へと続く脱出口が一つある。そこから一人でも逃げ出せれれば、3人の勝ちだ」
ルミアたちがコクリと頷くところを見て、それぞれがちゃんと理解していることを確認する。
次に、手から“新作の魔道具”を出現させた。
もっと頑張ろうと決めたあの日。
閃きが降りてきて出来た、新しいテイム道具である。
「これは【テイム輪】」
銀色ブレスレット風の輪っかだ。
それが自然に宙を浮き、自律して動いている。
「これが、3人を追いかける。追尾の機能があるテイム道具だから、捕まらないように。誰も脱出できず、行動不能になったら3人の負けだ」
最初は人数分の3個。
時間経過で数が増えていくことを伝えた。
「それから、最後に。1対3、そして今回【テイム輪】の実験もかねてるから、戦力を公平にするためにちょっとハンデが欲しい」
そうして【テイム縄】、短めの【テイム鎖】を生成する。
「一人は腕を【テイム縄】で拘束状態から。別の一人は【テイム鎖】で脚枷を。最後の一人はフリー状態でいい」
もちろん、その分の“飴”も用意している。
“脱出できた場合の臨時お小遣いを3倍に増やす”というと、3人から喜びの声が上がった。
特にベルは前のめりになる。
真っ先に【テイム鎖】を手に取った。
「私が【テイム鎖】を担当しましょう。んっしょっと……」
自ら両足に、鉄製の枷をはめていく。
ベルはそこから試しにジャンプしたり、近くを歩いてみせた。
ジャラリと伸びた鎖は、長さがかなり短い。
これでベルは歩幅や走り幅が制限された状態となる。
「……では、私が【テイム縄】を装着しましょう」
ルミアが。
若干顔を赤らめながらも、魔力の縄を手に取った。
「あっ――」
すると【テイム縄】が反応し、瞬く間にルミアの上半身を拘束していった。
「んっ、んんっ……」
胸の上下を走るように縄が巻かれ、後ろ手に縛られている。
縄が肌に張り付くように服を押し込んでいた。
ルミアもそれを意識してか、顔がほんのり赤くなっている。
目が合うとさらに恥ずかしそうにして、ぷいっと顔を逸らされてしまう。
……既に可愛い過ぎるな。
「ベルちゃん、ルミアちゃん……」
唯一、自由状態でスタートできることとなったシルヴィー。
二人の制限された身動き状態を見て、並々ならぬ決意を固めたような表情になる。
“先輩二人が身体を張ってくれたのだから、一番自由な自分が何とか脱出しよう”。
そう顔に書いてあるくらい、わかりやすかった。
……まあ頑張れ。
3人に作戦会議の時間を設けさせた。
しばらく何かを話し合っていたようだが、俺は聞かないようにする。
話がまとまったらしく、準備OKとのこと。
3人をそれぞれ別の地点へと移動させ、バラバラの場所から始めさせる。
「――じゃあ行くぞ~」
天井へ向けて【闇弾】を放った。
模擬戦の始まりである。
◇ ◇ ◇ ◇
同時に3個の【テイム輪】を宙へと浮かせた。
フラフラと漂ったかと思うと、飛行モンスターのように素早く飛んでいく。
「お~し、行ってこい」
冒険者時代、古代遺跡のダンジョンに行ったことがある。
そこに、自律式で飛行する魔道具のモンスターがいたのだ。
それを参考にしており、自分なりには力作だと思っている。
『ベルがシルヴィーと無事、合流できればいいのですが……』
早速、脳内に映像が流れ込んでくる。
この簡易空間内の各所に配置した、【闇目】Ver.2からの情報だ。
シルヴィーテイム戦を踏まえて、その機能をアップデートしている。
ただし。
“映像情報を俺に送ってくれる機能”を追加すると、途端に俺の負担が増えるのだ。
なのでシルヴィーにやったような大量配置は無理だし、催眠機能は今回抜いてある。
「……なるほど。そういう作戦か」
ルミアの言葉から、3人の立てた戦略を大まかに把握する。
ルミアは単独で。
ベルはシルヴィーと合流し、二人で。
それぞれ二手に分かれるようにして、脱出を目指すようだ。
迷路・ダンジョン内で色んな要素を踏まえ、その時その時で迅速な判断が求められる。
総合的な実戦感覚を養うには、とても良い訓練になっているはずだ。
どちらが厄介か、より先に捕まえるべきか。
瞬時に考え、判断する。
「――ルミアの方が優先か」
純粋な近接戦闘の能力だけで言えば、ベルが一番だろう。
だが総合的な能力となると、やはりルミアが最も優れていた。
真っ先に捕まえておきたい。
またベルとシルヴィーが合流を目指しているなら、二人の方はまだ時間的猶予があるはずだ。
「【テイム輪】、全部あっちへ飛べ――」
そうして3個の【テイム輪】を、ルミアの方へと集中させた。
3個あるので人数比で1:2と分けて追跡させるのも一応は手である。
だが一気にルミアを無力化させたいがため、戦力を一点へ集めることに。
【闇目】から送られてくる情報をもとに推測し、ルミアの居場所へと急行させた。
『――っ!? 嘘ッ、私の方に3つが!?』
ルミアと、そして3つの浮遊する【テイム輪】が同時に【闇目】へと映る。
流石にルミアも驚いていた。
一気に全部から追われることになるとは思っていなかったらしい。
『くっ――【火球】!!』
後ろ手に拘束されていても、魔法は発動できる。
そうしてルミアは【テイム輪】へと火の魔法を放ってきた。
1つが被弾し、堪らず撃ち落とされる。
だがその間に、残る2個の【テイム輪】がルミアへと襲い掛かった。
『あっ――きゃっ!!』
カチャリカチャリと、連続した音を立てて。
【テイム輪】2個が、ルミアの右腕に装着された。
◇ ◇ ◇ ◇
手首、そして二の腕部分に装備されるようにして。
【テイム輪】が強制的にはめられている。
『んっ、んんっ、外れ、ないです!!』
ルミアは必死に【テイム輪】を外してみようと試みる。
だが元々後ろ手に拘束されているのも相まって、【テイム輪】は全く外れてくれない。
『それに、右腕が、何だか凄く重くなったみたい……』
【テイム輪】の効果を、ルミアは早速実感しているようだ。
【テイム輪】は【テイム鎖】や【テイム縄】と同様に。
対象をテイムして、奴隷化するのが主要な効果である。
だが【テイム輪】はそれだけにとどまらない。
四肢や胴体に装着されると、まるで重り付きの枷をはめられたように。
対象の行動へとデバフをかけられるのだ。
もちろん、【テイム輪】が装備されればされるほど、そのデバフ効果は積み重なっていく。
それによってテイムの成功率を上げてくれる、サポート道具にもなれるのだ。
そして――
『あっ、右腕が――っっ~~!!』
――ルミアの右腕に黒くテカテカと光る長手袋、【奴隷着】が強制装備されていた。
【テイム輪】が四肢・胴体のどこか1点に2つ以上はまると。
そのデバフが、一定以上の精神的・疲労ダメージを受けたとみなされる。
つまり【テイム輪】を同じ個所に2つ装備されることは。
【奴隷着】を着せられることと同義なのだ。
「これで右腕の魔法は封じた――はい、一定時間が経過ねぇ~」
再び3個の【テイム輪】を戦場に追加投入する。
変わらず全部、ルミアのいる方へと向かわせた。
『くっ、また――』
後ろ手に縛られた両腕。
その右腕が、ピチっとした黒光りする【奴隷着】になっている。
ルミアは構わず走り出した。
だが後ろ手に縛られた体勢が走りづらいのか、すぐに新たな3個の【テイム輪】に追いつかれてしまう。
『っ!! 【風刃】――あっ、しまった!?』
ルミアが魔法で迎撃を試みる。
だが右腕が【奴隷着】化していたことが、俺に有利に働いてくれた。
片腕は魔法が可能で、もう一方は封じられていて。
そしてさらに両腕は後ろ手に縛られている。
そんな特殊な状況で脳が魔法発動を上手く処理できなかったというように、ルミアの【風魔法】は不発となる。
『あっ、きゃっ――』
カチャカチャっと音を立て。
2個の【テイム輪】が、今度は左腕へと飛びついた。
手首、二の腕部分に怪しく光るリングが装着される。
そして2個の【テイム輪】装備によるデバフ効果は。
一定の精神的・疲労ダメージとみなされ、【奴隷着】へと強制着替えが行われた。
『っっ~~!!』
これで両腕の魔法が封じられた。
その隙を逃すまいと、3個目が襲い掛かる。
魔法が使えず迎撃もされなかった【テイム輪】は、その直径を広げて両脚に装着された。
『やっ、あんっ!』
ルミアの細く綺麗な両脚首が、銀色の輪っかで拘束された。
これでルミアは完全に身動きできなくなる。
そうしてなす術なく、その場にイモムシのごとく寝転がった。
「ルミアは捕獲っと――」
残り2人へと意識を素早く走らせた。




