第12話 道具を作って納品しよう!!
「んしょっと――」
内職部屋で、黙々と作業をこなす。
生成した【テイム鎖】。
普通のサイズよりもかなり小型化してある。
それを一束にして、魔力の紐で括る。
簡単に外れずバラけないことを確認し、浅い木箱に収めた。
「――ご主人様。これで納品する分、計100個が終わりました」
しばらくして、ルミアが声をかけてくれる。
それでふと我に返り、改めて木箱の中を見た。
掌サイズで纏められた【テイム鎖】。
それが縦×横に5個ずつ、計25個が綺麗に並んでいる。
そして同じように25個の【テイム鎖】が入った木箱が、他にも3箱揃っていた。
「そっか。終わったか。ふぅ~……」
手の甲で額の汗を拭う。
単純作業から解放されると、急に喉の渇きを覚える。
……結構な時間、集中してたんだな。
「お疲れ様でした。……こちらお飲み物です。肩もお揉みしますね?」
ちょうど欲しかった飲み物を用意してくれていたらしい。
凄く気が利く。
本当、ルミアには頭が上がらない。
手渡された果実水を一口飲む。
甘味と酸味のバランスが良く、疲労した身体にスゥっと染み渡ってきた。
「んしょっ、んしょっ……」
「あぁ~ありがとう、凄く気持ち良いよ」
ルミアは甲斐甲斐しく俺のケアをしてくれる。
肩揉みの力加減も絶妙だ。
褒めると、ルミアは嬉しそうな声で応じる。
俺にもっと気持ち良くなってもらおうとしてか、肩揉みにさらに熱を入れ始めた。
……うわっ、あの、ルミアさん?
胸ッ、あの、背中に、当たってるんですけど……。
とても柔らかい感触がフニフニと、背中に何度も押し当てられる。
シルヴィーほどは大きくなく、かといってベルほど小さいわけでもない。
そんな至高の膨らみが当たっていると思うと、嫌でも意識してしまう。
「――っし! ありがとう、おかげで随分楽になったよ。早速納品に行こうか」
パッと立ち上がり、出来たばかりの箱を【闇次元】の中へと収納した。
「わかりました。ではすぐに“馬車”の方、準備しますね。シルヴィーにも声をかけてきます」
ルミアも食い下がったりはせず、パタパタと内職部屋を出て行った。
ふぅ~危ない危ない。
あのまま続いてたら、絶対ルミアにもたれかかって寝てた。
あんな至福の胸あったら、そりゃ頭を置きたくなるって……。
外に出ると、既に馬車が家の前に用意されていた。
シルヴィーをテイムしに行った際、借りたあの馬車である。
護衛二人をセットで売ったらかなり儲けることができたので、思い切ってそのまま返さず買い取ったのだ。
みんなで気軽に遠出できる足ができたので、購入してよかったと思っている。
「よいしょっと――」
御者席へと乗り込むと、少し遅れてシルヴィーがやってきた。
「お、お待たせして申し訳ありません、主様!」
恐縮しているシルヴィーに問題ないと応じ、乗るように促す。
シルヴィーはいそいそと荷車へと乗り込んだ。
「じゃあ、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませご主人様。シルヴィーも、行ってらっしゃい」
ルミアの見送りに手を振り返して、馬車を出発させた。
◇ ◇ ◇ ◇
しばらくトコトコ馬を走らせ、目的の店に到着する。
奴隷テイマーを客としている、中規模の道具店だ。
荷台の中で【闇次元】を発動する。
納品する用の【テイム鎖】を取り出した。
奴隷テイマー業界では、【闇魔法】を見せ合う習慣はあまりないらしい。
他の奴隷テイマーが俺の目の前で【闇魔法】を使うところを見たことが無かった。
なので念のため、こうして商品を届ける直前に出すようにしている。
半分の二箱をシルヴィーに持ってもらい、一緒に入店した。
まだ開店前で客はおらず、中はシーンと静まり返っている。
店内は広く、奴隷テイマー用の商品で棚が埋め尽くされていた。
定番の【テイム鎖】は当然として。
玄人向けの【テイム縄】もしっかり仕入れられている。
品揃えが豊富なだけではなく、ちゃんと常連のことも考えられた経営だと感じた。
「――あっ、リュートさん!!」
奥から、元気の良い声が出迎えてくれた。
シルヴィーとそう歳の変わらない少女がこちらに気づき、パタパタとカウンターから出てきてくれる。
ここの店主の妹、ハレちゃんだ。
「うっす、ハレちゃん。【テイム鎖】の納品。……あと、後ろの子はシルヴィー。この子も、これから納品を任せることがあるから」
「こ、こんにちは。ワタシ、シルヴィーと申します」
シルヴィーは緊張したように頭を下げて挨拶する。
「こんにちは、シルヴィーさん! リュートさんとこの新しい奴隷さんね? よろしく、ハレです!」
ハレちゃんは屈託ない、晴れ晴れとしたような笑顔で応じる。
そしてルミアや、ベルに対してもそうだったように。
シルヴィーをマジマジと見つめていた。
……特におっぱいをガン見である。
「ウフフ。リュートさんの所の奴隷さんは、本当に皆可愛いし美少女さんだよね~! シルヴィーさんも凄く可愛い。あとおっぱいデカい」
「へっ!? っっ~~!!」
ハレちゃん……。
君は美少女を見ると、セクハラせずにはいられない病か何かなのかな?
……まあシルヴィーのおっぱいがデカいのは事実だけどね。
恥ずかしそうに真っ赤になって、後ろで縮こまってるシルヴィーは置いておいて。
「――はいはい、納品ね! お姉ちゃんから聞いてるよ。いつもありがとうリュートさん! ……うん、バッチリ!」
本当に見たのか怪しみたくなる速度で、ハレちゃんは検品を済ませる。
奥から書類と、報酬を持ってパタパタ戻ってきた。
『【クライヴ商会】は、以下の商品を間違いなく受領しました ハレ・クライヴ』と書かれた紙を受け取る。
報酬の金貨も、確かに10枚あった。
ありがたい。
主な収入は、間違いなくハントでの奴隷売却だ。
だがこの“【テイム鎖】納品”も、副収入として間違いなく大きな稼ぎとなっている。
おかげで懐に余裕が生まれて、ルミア達が冒険者業を頑張らなくても生活することができているのだ。
「……ほいっ、これ」
反対に。
『報酬をちゃんと受け取りました』という趣旨の受領書を書いて、ハレちゃんに手渡す。
「ありがとうございます。――いや~本当! リュートさん、いつも助かってますよ~!」
ゴマを擦るように近寄ってきて、ハレちゃんは俺の肩をモミモミと揉んでくる。
いかん……。
出る前に、ルミアにしてもらった肩揉みを思い出してしまった。
背中に当たる胸の感触が、嫌でも頭の中で再生される。
「定期的に、遅れず、欠陥品もなく。100個も【テイム鎖】をちゃんと納品してくれる奴隷テイマーなんてまず、いませんから」
そこはお世辞ではない、ちゃんと本音を言ってくれていることが伝わってきた。
「まあでも、それくらい普通じゃないの?」
「いやいやいや! 何をおっしゃるリュートさん!」
振り向くと、ハレちゃんの顔が大袈裟なくらいに驚いていた。
「“普通”ってのは『1日10個~15個くらい生成したら限界』、って人のことを言うんです! 毎回3桁の【テイム鎖】をちゃんと納品してケロっとしてる人のことを、世間で“普通”とは言いませんよ!」
えぇ~。
でも10個~15個は流石に盛ってるでしょ~。
奴隷テイマーは、何かと自分の実力を隠しがちだ。
他の奴が【闇魔法】を使ってるところなんて一度も見たことが無い。
同業他者は時にハントで助け合い、時に目当ての獲物を巡って出し抜き合う。
持ちつ持たれつな、大人の関係なのだ。
だから多分ハレちゃんの言うことも大袈裟で、実際は30~50個くらいだと見た。
つまり俺が1日100個の【テイム鎖】を生成できても、一般的な奴隷テイマーの2~3倍に収まる。
つまりほぼ誤差だ。
だがうんうんと頷いていると。
ハレちゃんとシルヴィーの、ジトっとした視線に射抜かれていたのだった。
……何ですか?
◇ ◇ ◇ ◇
「……まあ、それを除いても。本当に感謝はしてるんですよ? リュートさんは凄く腕のいい奴隷テイマーですから。リュートさんが作った【テイム鎖】を欲しいってお客さんはかなり多いんです」
そう言ってハレちゃんは【テイム鎖】の棚へと移動する。
ついていくと、そこには上から下までズラッと【テイム鎖】が陳列されていた。
「あっ、主様のお名前があります!」
シルヴィーが目敏く見つけて、その細く綺麗な指を差す。
一番上の列には“【奴隷テイマー:リュート製】”との説明書きがあった。
「そうだよ~シルヴィーさん。シルヴィーさんたちのご主人様――リュートさんの【テイム鎖】は、うちの看板商品だからね!」
「おぉ~!」
シルヴィーがキラキラした、混じり気ない尊敬の眼差しを向けてくる。
……まあ褒められて悪い気はしないけどね。
俺の作った【テイム鎖】の下段にも。
他の奴隷テイマーが納品したのだろう【テイム鎖】が飾られている。
だがやはり俺のやつが一番売れ行きは良いらしい。
……そりゃ売れて無ければ、定期的に100個も納品を求められることないからね。
「……ですが奴隷テイマーは。主様のように皆、【テイム鎖】を作れるのではないのです? 買われる理由がワタシ、よく分かってないのですが」
シルヴィーは奴隷になりたてだし、それはまあ当然の疑問だろう。
今後は奴隷テイマーの仕事を手伝ってもらうのだから、色々とレクチャーしておくのも必要か。
……そう思っていると、意外にもハレちゃんが講師役を務めてくれた。
「さっきの話にもあったようにですね、奴隷テイマーさんは【テイム鎖】を生成できる限界数が人によってまちまちです」
そこでハレちゃんはチラッと、からかう笑みで俺を見た。
「リュートさんみたく100個作ってもバテない、バカ魔力の人もいれば。1個~3個作ったらもう限界、って貧弱魔力の奴隷テイマーもいるんですよ」
「バカ魔力で悪かったね」
「ふふっ」
……こらっ、シルヴィー、クスクス笑わないの。
「――だから、生成自体はできたとしても。魔力を食うから、生成せずにお仕事したいって需要が出てくるんですねぇ~。そういう人たちが、他の奴隷テイマーが作った【テイム鎖】を買って、使うんですよ」
「はぁ~なるほどです!」
シルヴィーが真面目に聞く姿勢は、優秀でとても可愛げのある生徒そのものだった。
熱心に頷いているシルヴィーはとても可愛らしい。
……ただ、頷く拍子に揺れるおっぱいは凶器だから何とかして。
「……で、リュートさんは凄く優秀な奴隷テイマーですからね。性能も良いし、『普段は【テイム縄】しか使わないっ!!』って玄人さんでさえも。『ついでに』って買っていってくれるくらいなんです」
へぇ~それは知らなかった。
姉の方とは、いつも事務的な会話ばかりだからねぇ~。
「――要するに。店に置いてもらって、買ってもらえる“商品”になるには。実績を上げ続けないといけないってことだ」
「……なるほど、です」
俺の【テイム鎖】が置いてある棚。
その下段へと、どんどん視線を下げていく。
下に行くにつれ、商品スペース自体も小さくなっていた。
そりゃ売れる商品に、多くの場所を割きたいと思うのが店側の心理だろう。
そして全く売れない――つまり実力のない奴隷テイマーの作る【テイム鎖】は、ついに店に置かれなくなるのだ。
俺は、シルヴィーに言っているようで。
自分自身に言い聞かせているのかもしれない。
シルヴィーが増えて、養う奴隷も3人に増えた。
もちろん、これで増やすのをやめるつもりはない。
もっと頑張らないとな……。




