第11話 シスター奴隷が、思わぬ衝撃を受け続けた一日 ★
◇ ◇ Another view ◇ ◇
目的を達成し、青年たちは町へと戻ってきた。
そして【奴隷テイマーギルド】へと向かう青年とは別れ、女性陣は家へと向かう。
「着きましたよシルヴィー。ここが、私たちの暮らしているお家です」
ルミアに紹介され、シルヴィーは思わず二度見した。
「えっ、ここが?」
(広くて大きなお家です……。えっ、ワタシ、今日からここに住むのですか?)
町の中心部からは少し離れた場所にある。
だが外からでも分かるほどの敷地の広さ、建物の大きさだった。
外観も比較的綺麗な方で、シルヴィーはしばし圧倒される。
今まで転々としていた隠れ家、廃教会とは比べ物にならなかった。
「ここはご主人様が内職をされるお部屋で、こっちは資料室、ここは……」
ルミアが先導しながら、屋敷の中を案内してくれる。
シルヴィーは真面目に聞いていたが、部屋数が多すぎて途中で分からなくなった。
「ふふっ。今、全部覚えようとしなくても大丈夫ですよ? 毎日いれば、ちょっとずつでも自然に頭に入ってきますから」
混乱していたことを見透かされ、シルヴィーは恥ずかしくて顔が熱くなった。
だがルミアの優しさに触れ、内心でホッとする。
(ルミアちゃん、とっても良い子。同い年なはずなのに、ワタシよりもしっかりしてる。凄い……)
早くに家族を亡くしたシルヴィーに、その温かさがじんわりとしみ込んでくる。
ルミアを、包容力のある姉のような存在だと感じた。
各部屋の説明を終え、2階の奥へとやってくる。
そのうちの一つでルミアが立ち止まった。
「ここが、シルヴィーの部屋ですね。基本的に内装も自由です。好きに使っていいですから」
「えっ、一部屋丸ごと使っていいんです!? ――わぁ……!」
中を見て、シルヴィーは感嘆の声を上げる。
一人部屋というには、十分のスペースがある一室だった。
ベッド、クローゼット、ミニテーブルに椅子があっても、全く窮屈さを感じない。
ホコリ臭さもなく、人の手が行き届いていることを感じさせた。
窓からは明るい日差しが差し込んでいて、気分まで清々しくさせてくれる。
(ここも……隠れ教会とは大違いです。ジメジメして、暗くて、何にもなくて……)
そうした経験から、良くても倉庫や屋根裏部屋のような場所をあてがわれると想像していた。
奴隷の日常的な寝食の場に、良いイメージなど持っていなかったのである。
そのため。
シルヴィーは想像と、実際の待遇とのギャップに、大きく驚いていた。
「私の部屋はあそこで、ベルの部屋はここです。何かあったらいつでも来てくださいね」
「え、ええ。ありがとうですルミアちゃん」
そして当然、自分より先に奴隷になった美少女二人にも、個室が与えられている。
奴隷に対して、厚遇とも呼べる扱いだ。
シルヴィーは、自分を奴隷にした青年のことがよく分からなくなった。
◇ ◇ ◇ ◇
その後しばらく、シルヴィーは自分にあてがわれた部屋でボーっとしていた。
そこへノックの音がして、ベルが入室してくる。
「シルヴィーさん! お風呂の準備ができるまで、一緒に軽食を取りましょう!」
その手には編み籠があり、中には沢山のサンドイッチが入っていた。
「えっ!? け、軽食? あの、その……」
戸惑うシルヴィーをよそに、ベルは気にせず中に入ってくる。
「晩御飯まではまだもう少し時間がありますからね。今食べておかないとお腹空いちゃいますよ? ……あっ、ルミアさんのはもう渡してあるので、ささっ!」
ベルはそう言って一片を取り、自分の口へと運んでいく。
隣から美味しそうな咀嚼音が聞こえてきて、シルヴィーは思わず生唾を飲んだ。
するとお腹がきゅうと鳴って、空腹を自覚する。
顔から火が出るような恥ずかしさを感じた。
「……あの、その、じゃあ失礼して」
「ええ! どうぞどうぞっ!」
シルヴィーが手を伸ばすと、ベルはとても嬉しそうに編み籠を差し出す。
手前にあった一片を手に取った。
スライス肉、チーズ、そして鮮やかな黄緑の野菜が挟まっている。
思い切ってパクリと、一口食べてみる。
「――んっ! 美味しいっ!」
パンが柔らかいのはもちろんだが、中の具材の食感も良い。
肉とチーズの味が食欲をそそり、シャキシャキとした野菜が良いアクセントになっている。
全体の味もしつこくなくうまい具合に調和していて、とても食べやすかった。
「そうですか!? よかった~えへへ」
ベルが蕩けるようにフニャリと笑う。
シルヴィーはそれを見て、笑顔がとても似合う女の子だと思った。
(最初はクールでツンとした子だと思ってましたけど。綺麗だし、良く笑うし、素敵な子ですね……あれ?)
ふと気になって、編み籠の中を見た。
よく観察すると、サンドイッチの大きさが結構バラバラだった。
シルヴィーの視線の意味に気づいて、ベルは照れたように頭をかく。
「あっ、その、すいません……。いつも料理はルミアさんやマスターさんがやってくれるんで」
「これはつまり、ベルちゃんが……」
改めてサンドイッチを見返した。
確かに、大きさは殆どバラバラで、上手く切れているわけではない。
だが料理が不慣れというベルが。
自分のことを思って作ってくれた。
それもシルヴィーは最初、ベルのことをクールで冷たい女の子かと勝手に思っていたのである。
それが、自ら軽食を作って振る舞ってくれたのだ。
嬉しくないわけがない。
もう一つ手に取って、今度は大きくかぶりつく。
「もぐっ……もぐっ……うん。美味しい、です」
本心から出た言葉だった。
それはベルにも伝わったらしく、また眩しいような笑顔を向けてくれる。
「えへへ。いっぱい作りましたからね、沢山食べてください。――あっ、でもあんまり食べ過ぎると晩御飯食べられなくなって、ルミアさんに怒られますから、ほどほどに!」
「ふふっ。はい、了解です!」
シルヴィーはベルのおかげでとても久しぶりに、楽しい食事の時間を過ごせた気がした。
(こんな気持ちになれたのはいつ以来かしら。まさか絶望の人生の始まりだと思っていた奴隷になってすぐ、こんなに笑顔になれるなんて嘘みたい)
そしてシルヴィーは、良くも悪くもそのきっかけとなった“青年”について考える。
(ベルちゃんの言い方だと“あの方”も、奴隷のために料理を作っていらっしゃるみたい。それに奴隷が、勝手に食事を作って食べるのも許容してるのよね? ……変なお方)
シルヴィーは、ますます青年のことがよくわからなくなったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
呼びに来たルミアについていき、シルヴィーは風呂場へとやってきた。
「あの、ワタシが、お風呂に入っても、良いのです?」
異国人にありがちな、若干の片言で確認する。
「えっ? ……ふふっ、もちろんですよ。これから毎日入るんですから、今から遠慮してたらキリがありませんよ、シルヴィー」
ルミアに優しく諭され、シルヴィーはホッとする。
それと同時に、ワンテンポ遅れて耳を疑った。
(えっ!? 今ルミアちゃん『毎日入る』って言いませんでしたか!? お風呂に、毎日入れるってことですか、奴隷が!?)
シルヴィーの常識から照らし合わせて、そんな贅沢が許されるのかと思った。
だがベルがルミアの言葉に疑問を感じた様子も、訂正しようとすることもない。
(……本当に毎日入ってるんですね。そういえば、二人とも凄く清潔感ありますし、何なら肌も髪も艶があって綺麗ですもんね)
俄かには信じがたかったが、何となくしっくりくる部分もあったのだった。
脱衣所でシスター着を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になる。
同性だけしかいないとはいえ、流石にシルヴィーは少し恥ずかしかった。
ルミアとベルは慣れたように着替え、先に中へと入っていく。
その流れるような所作も、二人がお風呂に入る習慣があることを感じさせた。
「うわぁ……広い」
二人に続いて中に入ると、シルヴィーはまず浴室の広さに驚いた。
洗い場だけでも、自分があてがわれた個室以上の大きさがある。
また風呂自体も広々としていて、3人で入っても狭さを全く感じないだろうと思えた。
「ベル、ちゃんと洗ってから入ってくださいね?」
「うぅぅ~わかってますよルミアさん」
二人は洗い場に並んで、その傷一つない美しい身体をゴシゴシと洗っていた。
(ルミアちゃんもベルちゃんも、本当に宝石のように綺麗な身体してますね。……奴隷テイムって、傷がいくつもできるのが普通って聞いてましたけど。……偶然なはず、ありませんよね)
シルヴィーは自分の裸体を見て、ケガや外傷のないことをもう一度確認した。
そして自分がテイムされたときのことを反射的に思い出し、顔から火が出るような恥ずかしさに襲われる。
(あんな、あんな恥ずかしい格好にされて! そのうえで身動きできない、あられもない姿でテイムされて!! ……でも、ケガもかすり傷も、一つもない。やはり“あの方”、腕も凄く確か、なんでしょうね)
そうして一人色んなことを考えて悶々としつつ。
同性でもクラクラするような美少女二人に倣い、まずは身体を清めることにした。
「あっ、シルヴィー。石鹸は自由に使ってくださいね」
「えっ? あぁ……」
ルミアに言われ、長方形をした白い個体を手に取る。
(えっ、石鹸、自由に使っていいのですか!? これっ、かなりお高い高級品、ですよね!?)
だが自分が手にした物の他にも、ルミアやベルは別の石鹸を普通に使っている。
それだけでこの家の主人がどれほど懐が深い人物なのか、漠然とだが想像できた気がした。
少しもったいないような気もしたが、言われた通り石鹸を使って身体を洗っていく。
「んんっ、んしょっ……んっ」
白い泡が立ち、ヌルっとした感触が肌を滑っていく。
仄かで優しく、清潔感ある良い香りがした。
心まで洗われているようで、シルヴィーはとても気持ち良くなる。
「んんっ、あっ、んっ――」
滑りがいい泡の感触を楽しんで、マッサージのように身体のあちこちをそのまま触った。
胸やその谷間、太ももなど。
感じたことのない優しい刺激に思わず夢中になる。
あまりの気持ち良さで声が出始め、シルヴィーはハッとして何とかその先を自制することができた。
(あ、危なかったです。あのまま続けてたらワタシ、多分指が無意識に伸びちゃってました……)
その視線の先は自身の大きな胸、そして股の間へと向いている。
(うぅぅ~ワタシ、何てはしたないことを! っ~~!)
その先を想像し。
まだ湯舟に浸かってすらいないのに、茹で上がったように真っ赤になるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「はふぅ~気持ちいいですねぇ~」
身体を洗い終え、シルヴィーは二人と一緒に風呂へと入る。
やはり湯舟は広く、3人で入ってもまだまだ十分スペースがあった。
ベルに至ってはその細く魅力的な手足を伸ばして、優雅にくつろいでいる。
「ええ、本当に」
ルミアの言葉に心から同意し、シルヴィーは心地良さからホッとため息をつく。
身体の芯から温まり、全身が癒されているのが分かった。
こんなにも心から落ち着けるなんて。
しかも奴隷になった直後である。
シルヴィーはとても不思議な気分になった。
(そして……これが本当に、ただ奴隷が身体を洗って。綺麗にして。心もリフレッシュするだけの時間、なんですものね)
シルヴィーは最初、この後に、青年へ性的な奉仕をする時間が待っているのだと思っていた。
そのために身体を清めるのかと尋ねて、ルミアとベルに笑われて。
その勘違いを思い出し、今でも恥ずかしくて顔が熱くなる。
(奴隷なのに。異性の目を気にせず、身体も心も綺麗にできる場所と時間があるなんて……今までのワタシにはそんなもの、ありませんでした)
護衛を務めていた信者の男たちを思い出す。
物資はあまりなく、節約生活を強いられていた。
そのため水で身体を拭いて済ませる、なんてことも珍しくない。
それはシスターであるシルヴィーだって同じだった。
一人、誰にも見られないようにと時間と場所を選び。
シスター服を脱いで、急ぐように肌を拭っていく。
――それを、おそらくは何度も、彼らに盗み見られていた。
『シスターの身体、マジでエロすぎんだろ』
『それな。俺、非番の時、シスターの裸でこっそり一人……』
『うわっ、マジかよ! ……まっ、俺もだけどな!』
そんな下世話で卑猥な会話を、幾度となく耳にした。
……逃亡生活が続く中で、信者の男たちには娯楽やストレスのはけ口が無いことは理解できていたつもりである。
それでも。
自分が性的な衝動の処理に使われていると知り、とても気分が悪かった。
それでも、自分が守られている対象で。
またやめて欲しいと言っても、逆上されるかもしれない。
想像することすら恐ろしい事態になることが怖くて。
シルヴィーは自分だけが我慢すればいいと。
仲間のはずの信者たちとの間ですら、心を殺して生きていたのだ。
(でもここではワタシ……そんな心配、しなくていいんですよね?)
「? フフッ。どうかしましたか、シルヴィー」
「シルヴィーさん、無理せず先に上がってもいいんですよぉ~? のぼせたら大変ですからぁ~」
二人から、優しい眼差しが返ってくる。
急づくりで、その場しのぎで、こんな愛情を感じさせる顔は出来ない。
普段から、ルミアとベルが。
ここでの奴隷としての生活に、満足以上のものを感じている証だ。
シルヴィーはそう確信する。
(そしてルミアちゃんとベルちゃんに、“主人”はこんな素敵な表情をさせてるんです。ちょっと希望が持てました。……“主人”の奴隷として、少しだけ頑張ってみます)
シルヴィーはその後、すぐに。
この時の自分の、まだ芽生えたばかりの弱々しい覚悟を訂正することになる。
(愛する家族とお慕いする“あの方”のために。ワタシにできる限りのことを頑張りましょう)
と。
◇ ◇ Another view end ◇ ◇




