第1話 【奴隷魔法】って、そんなに難しい?
「――話は以上だ。では実践に入ろう」
説明役のオッサンが、部下に何か指示を飛ばす。
走っていった部下は、複数の教官を連れて帰ってきた。
そしてさらにその後ろには、大勢の老若男女がいる。
その全員が、手枷をはめられていた。
「こいつらは我々が捕縛した、許しがたい犯罪者たちだ。【奴隷魔法】を習得した奴は1人につき一体、テイムで奴隷にして連れ帰るのを許可する。先着順だ」
そう聞いた瞬間、訓練場内にいた参加者たちの空気と目の色が変わる。
オッサンの合図があるや否や、【奴隷魔法】の教官たちへ我先にと群がっていった。
「はっはっは! 急げ急げぇ~! 毎回、最後の奴なんかはジジイかババアしか残ってないぞ~?」
オッサンは意地悪そうに笑っていた。
そうしてあとは高見の見物をするように、部下が用意したイスへと腰掛ける。
「まあどれだけ優秀な奴でも3時間はかかる。ゆっくりさせてもらうぜ」
「……あの、えっと、いいっすか?」
恐る恐る話しかけると、オッサンは奇妙な物でも見る目で睨んできた。
「あん? なんだお前。早く行かねえと、いつになっても【奴隷魔法】覚えらんねえぞ? 【奴隷テイマー】になりに来たんじゃねえのか?」
「あ、はい、もちろん。……ただその【奴隷魔法】覚えたんで、見てもらってもいっすか?」
そこで初めて、オッサンの顔が不審者を見るそれになる。
「はぁ? 何言ってんだお前。んなわけあるかよ。まだ理論の、基礎の基礎を話しただけじゃねえかよ。それで使えるようになる奴なんかいる訳――」
最初から嘘と決めつけた言い方だった。
仕方なしに、そのまま【奴隷魔法】を発動して見せる。
突き出した掌の先。
不吉なまっ黒い魔法陣が出現する。
そこから、魔力でできた黒い鎖が飛び出したのだった。
「なっ!?」
オッサンの顔が驚愕に染まる。
言葉が途切れた後も。
鎖はジャラジャラと音を鳴らし、魔法陣から出続けていた。
オッサンは信じられないというように、地面の鎖を拾う。
手の中で擦り合わせるようにして、その質感などを確かめていた。
「……た、確かに。【奴隷魔法】の、【テイム鎖】だ」
「でしょう?」
やっと信じてもらえた。
だが未だに自分の感覚を疑っているような、そんな仕草をしている。
……いや【奴隷魔法】って言っても、別に難しくなかったけどなぁ。
説明もメチャクチャわかりやすくて、イメージの例えだって適切だったし。
ズボラな俺でもすぐできるようになるくらいなんだ。
きっと他の人が不真面目で聞いてなかっただけでしょう。
「……まあ、いい。決まりは決まりだ。お前さんが【奴隷魔法】習得の1番乗りってことになる」
オッサンはそういって、犯罪者たちが座らされている場所を親指で示す。
「行きな。好きな奴を奴隷にして、連れていくがいい。――【奴隷テイマー】の世界へようこそ。可愛げのないクソ後輩が」
「うっす。どもっす」
◇ ◇ ◇ ◇
「えっ、お前、こんなに早く【奴隷魔法】を覚えたのか!?」
「……あっ、でもラーズさんの印がある。マジか……」
見張り役らしい男たちに、オッサンからもらった紙を渡す。
オッサンは“ラーズ”っていう名前らしい。
……そういえば講習の冒頭でも名乗ってたっけ。
俺もちゃんと話を聞いてなかったね、テヘッ。
「……えっと“リュート”っていうのかお前? ――じゃあリュート。好きな奴を選びな」
俺が選びやすいようにと、男たちが後ろに下がった。
大きな訓練場の隅。
“奴隷候補者ら”は、丸を作るようにして一まとめにされている。
老若男女、全部で何十人といるだろうか。
「ん~っと……」
ザっと流し見ていく。
皆が口に布を噛ませられ、揃ってうつむいていた。
自分に関心が向かないように、その時が来ないようにと祈るみたいに。
……いや、あのさ。
俺が選ばなくても、後から必ず他の奴らが来るんだって。
新人【奴隷テイマー】の数だけ、“奴隷候補者”も集められているはずだ。
つまり早いか遅いかの違いしかないのにね……。
「お?」
そんな希望がない顔ばかりの中で。
一人、とても可愛らしい少女を見つけた。
布で口枷を噛ませられていても、その整った容姿は一目でわかる。
まるで有象無象な雑草の中に、一輪の華憐な花が咲いているかのようだった。
幼さの残る小さな顔は、何かを諦めたかのように力無い。
だがその目には、本人も気づいていないかのような光が微かに残っていた。
「この子にしよう」
待機する見張りたちに伝える。
すると少女を立たせ、少し離れた場所へと移動した。
「じゃあ今から拘束を解くぞ」
改めて少女の姿を見る。
立ち上がった際、光り輝くような金の髪がサラサラと揺れていた。
布が取られて露わになった口元は、小ぶりでやはり可愛らしい。
服の上からでも、女性らしい二つの膨らみが見て取れた。
総じて、とても魅力的な見た目をしている。
一番最初でなければ、必ず他の【奴隷テイマー】に取られていただろうと断言できる容姿だった。
「……ルミアです」
手枷まで外された今でも。
少女――ルミアは名乗ること以外、無言でその場に突っ立っていた。
俺を見る目からは敵意も、嫌悪感も伝わってこない。
ただただ何かを諦めたかのような、諦観があるだけだった。
……まあ、しょうがない。
『“奴隷候補者”の中には抵抗する者もいる』と事前に聞いていただけに、むしろ無抵抗はありがたかった。
「――【テイム】」
さっさと終わらせようと、覚えたてホヤホヤの【奴隷魔法】を発動した。
【テイム鎖】が、ルミア目掛けて飛んでいく。
黒い鎖は、ルミアのしなやかな体へと絡みついていった。
全身が瞬く間に拘束され、胸元までグルグルと巻き付いていく。
無垢で穢れ無さそうな美少女が。
束縛されて、無抵抗な状態にされている。
そんな背徳的な光景は、異性の本能に強く働きかけて来た。
「んっ……あっ……」
鎖が同化しようとするように、収縮を繰り返す。
ギュッギュと縛りが強くなるたびに、ルミアの色っぽい声が漏れ出ていた。
そして鎖は。
ルミアとの一体化を済ませたというように、その体内へと沈み溶け込んでいく。
「あっ――」
ルミアの細く綺麗な手首に。
黒い紋様みたいな印が浮かび上がった。
【奴隷】の証、奴隷紋である。
無事に【奴隷魔法】、テイムが成功したようだ。




