77) 血の記憶
重い扉が背後で閉まる。
ドン。
石柱の間から漏れていたざわめきが、ぴたりと消えた。
静寂。
靴底が石を削る音だけ。
胸の奥で、心臓が暴れる。
機械の駆動音が混じっても、鼓動は止まらない。
《……私、何やってるんだ?》
怒りの鎧が割れた。
氷のような後悔が突き刺さる。
足は勝手に動く。
螺旋階段を下る。
王座の間から遠ざかる。
あの顔から。
ランデルの顔から。
恐怖じゃなかった。
裏切りで傷ついた顔だった。
私が、わざとやった。
残酷に。
《これでいい。これで安全だよ、ランデル》
嘘だ。
心臓が叫ぶ。
逃げてる。
彼の温もりから。
彼の信じる目から。
ただのアマンダでいられる未来から。
あの森で初めて彼を救った日から、もう戻れないのに。
古い回廊に出た。
湿気と冷気。
先祖が積んだ粗い石壁。
灯りはまばら。
靴音が反響する。
やっと立ち止まれた。
壁に背中を預ける。
マスクの下で目を閉じる。
怒りが引いた。
残ったのは虚無と、冷たい計算。
皇帝への宣戦布告。
あれは狂気の賭けだった。
帝都の正統性ごと賭けた。
カシウス五世はもう無視できない。
殺すか、神にするか。
どっちも地獄だ。
でも、それは明日の話。
今、目の前にいる脅威がある。
グル=ナダルの騎馬軍団。
壁から体を離す。
歩き出す。
記憶を掘り返す。
あの小説。
山田ライ太だった頃、死ぬ前に読んだやつ。
検察の待機中に流し読みしただけ。
ストーリーなんて曖昧だ。
覚えてるのは、結末だけ。
最悪だった。
ランデルは森で死んだ。
暗殺者たちに。
老公爵はショックで死に。
タイウィンもすぐ後を追った。
領地は崩壊。
そこにグル=ナダルが雪崩れ込んだ。
無慈悲な鉄騎。
でも今は違う。
ランデルは生きてる。
タイウィンはまだ戦える。
私がいる。
歴史は逸脱した。
記憶が、原作の先へ飛び越える。
ファンたちが作った二次創作の世界へ。
動画。
比較表。
掲示板の無限論争。
『最強キャラランキング』
『ロクサーナvsグル=ナダル 、どっちが勝つ?』
立ち止まった。
石床に灯りが揺れる。
頭に響く。
血の汗。
アケル・ハン。
原作ではほぼ出てこない。
ただの災害だった。
でもファンが神にした。
俺が暇つぶしに見てたランキング。
筋力・速度・戦術・カリスマ。
ほぼ全部トップ。
皇帝カッシウスにだけ純粋な膂力で負ける。
剣聖ロクサーナにだけ剣技で負ける。
でも総合戦闘力と戦略知性はぶっちぎり。
巨躯。
獣の毛皮と鋼の鎧。
氷河みたいな目。
戦場を自分の体のように感じる。
散らばった部族を一つにまとめ上げた鋼の意志。
「マジかよ……」
機械の声が空しく響く。
野蛮人じゃない。
軍事の天才だ。
軍隊だ。
血と規律で鍛え上げられた。
そして私が、王座の間で大見得切った。
「森の先遣隊、私が片付ける」
あいつらのエリート斥候だぞ。
背中に冷たい汗。
さっきまでの威勢が子供じみて見える。
もう退けない。
帝国のスパイが見てる。
やるしかない。
しかも「古の存在」らしく。
圧倒的に。
恐怖を植え付けるほどに。
拳が鳴る。
ウィーン。
サーボが低く唸る。
恐怖が結晶化する。
決意に変わる。
いいだろう。
古の存在を演じてやる。
伝説を求めるなら、与えてやる。
暗い通路の先。
内庭へ続く出口。
そこからランガルの森へ。
もう数日で血に染まる森。
ランデルの痛みなんて、もう考えない。
あれは木の枝だ。
嵐に比べたら。
頭の中は戦術。
地形。
プロの兵士が本気で震える演出。
マスクの下。
硬い笑みが浮かぶ。
嬉しくない。
冷たい笑み。
肉の心臓だけじゃない。
鋼の体がある。
そして、剣じゃなくて情報と計算で戦争をやってきた世界の頭脳がある。
「いいぜ、アケル・ハン」
夜へ踏み出す。
「遊ぼうか」
「お前の伝説と、私の伝説」
「どっちが怖いか、試してみよう」
私の心が囁く。
怖がらせてやる。
お前たちのシャーマンが見たこともない悪夢を、な。
皆さん、こんにちは!
今回の章で第一部、完結です!
アマンダが完全に覚醒して「伝説」になる直前の、最後の人間らしい揺らぎを全力で書きました。
次回から第二部、スタートします。
準備はバッチリなので、遅くとも3日後、早ければ明後日には次話上げます!
あと、超大事なお知らせ。
今回の章から文体を「2025年スマホ最強仕様」に完全刷新しました。
・短い行
・空行たっぷり
・《》で内心
・擬音ドン!独立
・インフォダンプも徹底的に呼吸させる
これ、どうですか?
「めっちゃ読みやすくなった!神!」って人も
「前のゆったり長文の方が好きだった……」って人もいると思うので、
感想欄に一言でいいから教えてください!
「このスタイル続けて!」
or
「前のスタイルに戻して……」
即反映します。読者さんの声が命です!
『TS美少女に転生した元社畜、原作滅亡ルートをぶっ壊して最強ハーレム国家を作る! ~政治経済チートで王様も勇者も全部俺のもの~』
いつも読んでくれて本当にありがとう。
次部はもっとぶっ壊れます。
アケル・ハンとのガチ決戦、帝国の裏切り、アマンダが完全に人間を捨てる瞬間まで全部ぶち込みます。
それでは、また数日後。
森に鉄の雨が降る日に会いましょう!
──作者より
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感想・ネタバレ・たまに先行ネタ投下してます
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