52) 「守護者アマンダ、王宮デビューで心臓が暴走中!」
くそっ……何だよ、これ……マジでやばい……。
アマンダの頭の中は、もう思考がぐちゃぐちゃに暴れ回っていた。
豪華すぎる料理が並ぶテーブルに座っているというのに、その一皿一皿が前世の一年分の奨学金なんか軽く超えてるレベルだ。
金色のグローブをはめた指が、ナイフの柄をぎゅっと握りしめる。
金属がきしむ音が、かすかに響いた。
昨日まで……昨日まで俺は山田ライトだった。
法学部でガリ勉してた、検事になるのが夢のただの大学生。
国家試験、寮の借金、刑法の講義で寝ないように必死だった普通の奴。
なのに今は……。
視線が、隣に座っているランデルに滑る。
あの完璧な横顔。
自信たっぷりの姿勢。
ワイングラスを優雅に持つ指先まで、全部が絵になる。
(……今、俺はこの物語のキャラと一緒に飯食ってる。しかも作者に開始前で速攻で殺されたモブキャラと一緒に!! あははははは!!)
喉の奥で、狂ったような笑いが込み上げてきた。
笑うか泣くか、もうわかんない。
必死に堪えているけど、頭が爆発しそうで……
思わず片手でこめかみをぐりぐり押さえた。
(マジで何これ……現実かよ……? 異世界転生って、こんなに頭おかしくなるもんなの……?)
心臓がバクバク鳴っている。
笑いたいのに、涙まで出てきそうで。
指先が震えて、ナイフが小刻みにテーブルを叩く音がする。
(落ち着け俺……いや、私……? くそ、もう性別すらわけわかんねえ……!)
ランデルが、ふとこちらを見た。
黄金の髪が揺れて、深紅の瞳が静かにアマンダを捉える。
「……どうした、アマンダ? 顔色が悪いぞ」
(うわ、声かけられた! どうしよう、なんて返せばいいんだよ!?)
「い、いえ……ちょっと、頭が……」
声が震えている。
やばい、バレるバレるバレる!
(この人、本編開始前に死ぬ予定のキャラなんだよな……? ってことは、私も巻き込まれて死ぬフラグじゃ……? マジで死ぬの!? 死にたくねえええええ!!)
笑いが止まらなくて、涙がこぼれそうになる。
この状況、全部があまりにもバカバカしくて、でもリアルすぎて。
(……はは、転生したのに、最初から死にそうなの、笑えるわ)
アマンダは必死に笑顔を作った。
ナイフを置く。
手が震えて、カチャリと音が響いた。
生き延びてやる。
このクソ展開、絶対にひっくり返してやるからな……!
その動きは、ランデルに見逃されなかった。
彼はすぐに身を寄せてきた。
アマンダの耳元へ、そっと唇を近づける。
吐息がマスクの上から頬の皮膚を撫でた瞬間、ビクッと体が跳ねた。
「……お具合でも悪いのか?」
囁きは、本当に心配そうな響きだった。
そして、一拍置いて。
声のトーンが、ぐっと低く、熱を孕んで変わる。
「ヘルメットを外した君は……信じられないほど美しい。だから外したくなかったんだろう? もう、被らないでくれ」
(は!?)
アマンダの脳が、真っ白になった。
美、しい……?
マジで言ってんの!?
この人、目おかしくなった!?
それともこの世界の貴族って、こんな顔が好みなのかよ!?
ゆっくりと首を巡らせる。
マスクの奥、赤い瞳が信じられないって感じで見開かれていた。
ランデルは、まるで当然のように微笑んでいる。
その視線が揺るがないからこそ、余計に息が詰まる。
彼はアマンダの疑問を読み取ったみたいに、くすりと笑った。
そして大広間へ視線を滑らせた。
「気づいたかい? みんな、君を見てるよ」
(え……?)
無理やり視線を逸らして、テーブルを見回す。
……マジだった。
誰もが、チラチラとこっちを見ている。
タイウィンは氷みたいな目で値踏みするように。
エレオノーラは柔らかい好奇心を浮かべて。
周囲の貴族たちは、怯えと憧れと噂話の欲望をゴチャ混ぜにして。
そしてロクサーナ――
ロクサーナだけは、まるで超難問の数式を見つけた数学オタクみたいに、目をキラキラさせてこっちを凝視している。
(うわ、やばい……めっちゃ見られてる……!)
気まずさが、どんどん膨らんでいく。
まるで霧みたいに体を縛りつけて、動けなくなる。
(どうしよう……こんなの、想定外すぎるって……!)
頬が熱い。
耳まで真っ赤になってるのが自分でもわかる。
ランデルの吐息が、まだ耳たぶに残ってるみたいで。
心臓がバクバク暴れ出した。
(落ち着け俺……いや私! こんなところでデレるわけにいかねえだろ! こいつ、本編開始前に死ぬキャラなんだぞ!?)
でも、視線が離せない。
ランデルは、静かに、でも確かに。
微笑んだまま、アマンダだけを見つづけていた。
ランデルは、アマンダの反応をじっと見つめながら、また身を寄せた。
耳元に届く囁きは、今度は悪戯っぽい笑みを孕んでいる。
「照れるなよ。君の美しさは……妹のロクサーナと同格だ。これ以上の褒め言葉は、この館では存在しない」
(えぇぇぇ!? ロクサーナと同格!? マジで言ってんの!?)
テーブルの反対側――
ロクサーナが、ピクリと眉を上げた。
完璧な耳が、名前を拾ったらしい。
紅い唇に、興味津々な微笑みが浮かぶ。
「兄さん」
甘く澄んだ声が、ぴしりと空気を裂いた。
数人の貴族がビクッと肩を震わせる。
「私の名前が聞こえたわ。もしかして、私の欠点をゲストの方に暴露中?」
ランデルは動じない。
背もたれにゆったりと体を預けて、妹の視線を真正面から受け止めた。
「逆だよ、妹。ゲストの輝きを君と比べてみたんだ。……正直、予想以上に難しい比較だった」
――シーン。
大広間が、息を呑んだ。
寡黙で知られるランデル・アイヒェンヴァルトが、堂々と、優雅に――
謎の守護者を、アイヒェンヴァルトが誇る美と知の女王と同列に置いた。
(うわ、マジで言った……! みんな固まってる……!)
ロクサーナが、くすくすと笑い出す。
クリスタルの鈴みたいな、軽やかな音。
でもその奥に、ゲームを楽しむ猫みたいな愉悦が覗いている。
「まあ、なんて大胆な褒め言葉なの、兄さん」
「守護者様、あなたは本当に天上の魅力をお持ちなのね。私たちの堅物兄をここまで夢中にさせるなんて」
彼女の瞳が、キラリと光った。
「――ぜひ、もっと近くでお話ししたいわ」
マスクの下で、頬が燃えるように熱い。
視線が、またランデルと絡まる。
彼の瞳には、冗談もおべっかも一滴もなかった。
ただ、揺るぎない確信と……それ以上の何か。
胸の奥をざわつかせる、あの熱いものだけ。
(昨日まで刑法典だったのに……今日はいきなり宮廷劇で王子様に口説かれてるって……)
(俺、頭おかしくなったのか? それとも人類史上最長の悪夢にハマってるのか?)
……でも。
……でも、だんだん。
(目覚めたくなくなってきた……)
この狂った世界で、こんなにドキドキしてる自分が、めちゃくちゃ気持ち悪くて、でもめちゃくちゃ気持ちいい。
心臓が、馬鹿みたいに高鳴る。
(やばい……本当にやばい……)
マスク越しでも、きっと耳まで真っ赤だ。
ランデルの視線が、まだ離れない。
静かに、でも確かに――俺だけを見てる。
(……このまま、夢でもいいかもな)
アマンダは小さく息を吐いた。
震える指でグラスを握り直す。
覚悟を決めるみたいに。
(……よし。だったら、このクソ展開、楽しんでやるよ)
唇の端が、誰にも見えないところで、ほんの少しだけ上がった。
ふぅ……第○章を読んでくれてありがとう!
私、アマンダが異世界で王宮デビューしたり、ランデルに目をつけられたり、頭がぐちゃぐちゃになったりする様子、楽しんでもらえたかな?
読んでるだけで心臓バクバクした人、手を挙げて!(笑)
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コメントも大歓迎!「ここが面白かった!」「キャラの反応がツボだった!」「章の構成が読みやすかった」など、なんでもシェアしてくれると嬉しいな。
あなたの感想が、私(作者)とアマンダの次の活躍に直結するんだから!
次の章も、王宮でのドキドキ、ランデルとのやり取り、そしてちょっと危険な展開……全部楽しみにしててね!
では、また次回の章で会おう!




