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50) 公爵家ディナー、死ぬほど行きたくない

一日分のストレスが、ようやくじわじわと引いていく。


代わりにやってきたのは、心地いい疲労感。


アマンダはもう、あの信じられないほどふかふかのベッドにダイブしようとしていた――その瞬間。


コン、コン、コン。


丁寧だけど、どこか有無を言わさぬノックの音。


ビクッ。


体が跳ねる。


レオとトーグリムは瞬時に部屋の隅へと移動した。


再びヘルムを被ると、透明化装甲を起動。


ふたりは空気に溶けるように、完全に姿を消す。


「守護者様?」


扉の向こうから、侍女の声が響いた。


「タイヴィン・アイヒェンヴァルト公爵閣下が、お食事にご一緒いただきたく存じます、と」


――うわ。


心臓が、ドクンと落ちた。


公爵家の食卓。しかも家族全員と。


マジかよ……!


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」


声が裏返る。やばい、めっちゃ高くなってる。


「えっと……少し、お時間ください! 十五分で!」


「かしこまりました」


侍女の足音が遠ざかっていく。


音が完全に消えた瞬間――


アマンダはパニックモード全開になった。


「夕食!? テーブル!? あの人たち全員と!?」


部屋の中をぐるぐる歩き回りながら、半狂乱でささやく。


「どうしようどうしようどうしよう!?」


空気の中から、レオの落ち着いた声が聞こえてきた。


「落ち着いてください、守護者様。ただの夕食ですよ」


「ただの夕食ぉ!?」


思わず叫びそうになって、慌てて口を押さえる。


「レオ、これマジでただの夕食じゃないから!」


アマンダは声を震わせた。


「ヘルム被ったまま行ったら超失礼じゃん! 『あいつ、俺たちを見下してる』って思われるに決まってる! 異種族扱い確定!」


でも、取ったら……取ったら……


顔、見られちゃうよ……!


普通の日本人顔バレちゃうよ!


「『どこの国?』『なんでそんな顔?』って絶対聞かれる! 設定崩壊エンドじゃん!」


もう終わりだよ、この異世界生活……!


(やばい、やばい、やばい……! どうすんの私!? マジで詰んでるんだけど!?)


心臓がバクバクうるさい。


冷や汗が止まらない。


頭の中、真っ白。


(十五分……十五分しかない……!)


(どうやってこの地獄を切り抜ければいいの!?)


もう一つの隅から、ぶっきらぼうな低音が響いた。


「顔が眩しすぎて、凡人には直視できないってことにすりゃいいんじゃねぇか?

 『これが我が神聖なる性質の一部なり』とか言っときゃいい」


「トーグリム、それ頭おかしい!!」


アマンダは即座に切り捨てながら、部屋をぐるぐる回り続ける。


「それだけじゃないんだから!

 テーブルマナー!!」


彼女の声が一段高くなる。


「アニメで見たことあるもん!

 フォークにナイフにスプーンが億個並んでるやつ!

 どれがどれだよ!?

 絶対恥かきたくない……特に……」


言葉を詰まらせ、顔が引きつった。


「……特に?」


レオの静かな声。


アマンダは立ち止まり、深い息を吐く。


「ロクサーナの前で……」


声が震えた。


「あの本に書いてあったロクサーナは、こんなんじゃないはずだった。

 冷静で、計算高くて、でも……毒蛇みたいな女じゃなかった。

 なんであんな風に変わっちゃったの?」


目を伏せる。


「私を見る目が、まるで新しい実験材料を見つけた科学者みたい。

 解剖して内臓並べたいって目だよ……?

 あの人と一緒に食事とか、神経が三倍どころか十倍すり減る……!」


部屋に、重い沈黙が落ちた。


これはもう、単なる夕食の危機じゃなかった。


しばらくして。


「……スプーンは」


トーグリムが、ちょっと考え込むように呟いた。


「簡単だ。

 皿から一番遠いヤツから順に使っていけばいい」


「ほ、本当!?」


アマンダの目がキラッと光る。


「七割くらいの確率でな」


即座に付け加えるドワーフ。


「逆かもしれん。

 スプーンは専門外だ。

 俺はハンマーと金床の方が得意でね」


「うわあああああ!!」


アマンダ、再び崩れ落ちそうになる。


「大惨事確定じゃん!

 とにかく、ヘルム外せない理由を今すぐ考えなきゃ……!

 納得してもらえるやつを!」


「顔を見せるのは禁忌だ、みたいな誓いを立てたことにすりゃいいんじゃね?」


レオが真面目な顔(見えないけど)で提案した。


「レオ、それはトーグリムのより三倍バカな提案だから!!」


アマンダ、絶叫寸前。


両手で頭を抱える。


(十五分……もう十三……いや十二分しかない……!)


(マジで詰んだ、私の異世界ライフ、本当にここで終わるの!?)


心臓がバクバク鳴り続ける。


冷や汗が背中を伝った。


――このままじゃ、本当にダメだ。


アマンダは必死に頭を振り絞った。


何か……何か、完璧な言い訳を……!


すると。


突然、部屋の隅から――


トーグリムが、ニヤリと笑ったような気配がした。


「おいおい、守護者様よ」


低い、どこか楽しそうな声。


「そんなにビビってると、本当にバレちまうぜ?」


「……え?」


アマンダが顔を上げる。


「実はな、俺たちにも考えがある」


今度はレオの声。


落ち着いた、しかしどこか企むような響き。


「守護者様がヘルムを外せない、完璧な理由を――」


二人の透明な影が、ゆっくりと近づいてきた。


「――今から、作ってやるよ」


アマンダの目が、ぱっと見開かれる。


「え……作るって……どうやって!?」


残り時間、十一分。


公爵家の晩餐まで、あと少し。


――地獄の十五分間は、まだ終わっていなかった。


まだ三人で言い合ってる最中。


アマンダがピタリと動きを止めた。


視線が、自分の黄金の手袋に釘付けになる。


――あ。


頭の奥で、何かがカチリと音を立てた。


絶望的で、でもめっちゃヤバくて、でも……これしかないってヤツが。


「……いい」


静かに呟く。


声に、鋼が宿った。


「ヘルムは外さない。

 でも、言い訳もしない」


アマンダはゆっくりと顔を上げた。


「私って『守護者』でしょ?

 謎だらけで、超強いし、自分の儀式とか守ってるってことにする。

 説明を求めてきたって、絶対にしない」


深呼吸。


「マナーだって……私は私のやり方で食べる。

 それが気に入らないってんなら、『失われた古の文化』ってことにしちゃえばいい」


部屋に一瞬の静寂。


そして――


「おおっ! それだ!!」


トーグリムがドスンと拳を握った。

(音だけでわかる)


「図太さは第二の幸せだ。

 一番は良い合金だがな!」


「さすが守護者様」


レオの声も、どこか笑ってる。


「もうすでに大芝居をやってのけたんです。

 今度はただの夕食ですよ」


ただの夕食、か。


アマンダは心の中で繰り返しながら、ドアに手をかける。


ドクン、ドクン、ドクン。


心臓が暴れてる。


でも、もう後戻りできない。


私は守護者。


今から演じるのは、これまでで一番難しい役――


「自分自身」だ。


神と見る者、

脅威と見る者、

そして誰かにとってはそれ以上の何か。


そして、すべてを冷徹に見透かすようなロクサーナ・アイヒェンヴァルトの視線の下で。


アマンダは黄金の手袋を握りしめた。


静かにドアを開ける。


さあ、ディナーショーの開幕だ。


(死ぬほど緊張してるけどな!!)


◇◇◇


廊下の向こうから、暖かなランプの光と、かすかな銀食器の音が漏れてきた。


公爵家の晩餐室は、もうすぐそこ。


アマンダは黄金のブーツで大理石の床を踏みしめる。


もし少しでも「続きが気になる」と思ってもらえたら、

ブックマークや評価をしてくれると、とても励みになります。


更新のやる気がぐんと上がるので、ぜひよろしくお願いします。

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