5) 覚醒
ハーフイヤーが過ぎちまった。
この世界の太陽、めっちゃ肌を焼くんだよね。
アマンダは手の甲で額をゴシッと拭って、汗をパッと飛ばした。
そして、ニヤッと笑う。
日焼けのおかげで、農民らしからぬ白い肌が隠れたんだ。
昔はただの飾りだった手。
今じゃ、労働の価値をバッチリ知ってる。
手のひらにはゴツいたこ。
指は力強く、そしてめっちゃしなやかだ。
埃っぽい交易村の通りを、アマンダはズンズン歩いていた。
手にはリンゴの籠。
腹ペコだから?
んなわけない。
これは――完璧なカモフラージュだ。
どこでも行けて、なんでも聞ける。
元・検事補佐の頭脳は、情報をガツガツ吸い込む。
値段、噂、借金の絡み合い、そして隠れたバトル。
全部、頭の中でキッチリ整理。
この世界、まるで一生続く裁判みたいだ。
そしてアマンダは、転生したその瞬間から――
この「裁判」をガンガン進めているんだ!
いきなり――。
静かな空気の中で、ビンビンに研ぎ澄まされたアマンダの耳が、切ねえ泣き声をキャッチした。
鍛冶屋の近く。
人がワラワラ集まってる。
真ん中にいたのは、村じゃ知らねえ奴がいねえ老木こりのオルデン。
そして、怒りで顔を真っ赤にした、ガタイのでけえ製材所のボス――ガートだ。
「泥棒! このジジイ! 俺の金どこやった!?」
ガートがゴツい指を突きつけ、ぶっ壊れた鉋機を指してガナった。
「誓って、ガート、俺、ただ直そうとしただけで……そしたらぶっ壊れちまって……金なんかとってねえよ!」
オルデンの声は、ポプラの葉っぱみてえにガタガタ震えてた。
群衆がザワザワ。
強い奴の味方につく。
――あれだ、群れのルール。
原始的で、めっちゃ不公平。
そのとき。
静寂をブチ抜く声が響いた。
クリアで、ビクともしねえ声。
静かな中でガチで磨いた、低くて、ドッシリした声。
「彼、ホントのこと言ってるよ。」
みんな、ビックリしたみたいに彼女をガン見した。
金髪で、華奢。
リンゴの籠を持った少女。
ガートが「フン!」って鼻で笑う。
「アマンダ? ママんとこ帰れよ、ガキ。お前の出番じゃねえって。」
アマンダはズイッと一歩前へ出た。
古い血みたいな赤い目が、壊れた鉋機、ガートの顔、そしてビビってるオルデンをサクッと見回す。
彼女が見てるのは――ただのケンカじゃねえ。
これは「事件」だ。
「この鉋機、中心軸がすり減ってぶっ壊れたんだ。」
アマンダの声が響く。
まるで裁判の判決みたいに、ズシンと重い声。
彼女はヒビを指さした。
「ほら、見なよ。金属、クタクタになってる。
オルデンが最後のトドメ刺しただけ。
彼、悪くねえって。」
ガート、彼女のキレッキレな言葉に一瞬、ガチで固まった。
でもすぐ、胸を張ってガッと息を吸い込む。
「じゃ、金はどこだ!? 五枚の銀貨!」
「金? 取ってねえって。」
アマンダ、即座にバッサリ言い切る。
目がすげえ重い。
グサッと刺すみたいだ。
偽証者をガン詰めする検事の目――そのままだ。
「だってさ、お前、昨日、賭けサイコロで全部スッちまったろ。
日没後、製粉所の納屋裏で。
バッチリ見ちゃったんだから。」
シーン……って、墓場みたいな静けさ。
ガートの顔、真っ白。
ヤバいレベルで。
こんなの、想定外だ。
誰かに見られてるなんて、ありえねえ。
ましてや、熱病後に何か知らんけど賢くなった、
この静かなガキがブッコんでくるなんて、ありえねえ!
「て、てめえ…嘘つきやがる!」
ガート、なんとか絞り出すけど、
目にビビった獣の恐怖がモロバレだ。
「古い神々が聞いてるぜ、ガート。」
アマンダの声、囁きまでスッと落ちた。
でも、みんなにバッチリ聞こえた。
「お前の斧にかけて、俺が嘘ついてるって誓うか?
偽りの誓いは、鉄が火でガチ焼きするって話だぜ。」
彼女は、自分が何を言ってるか、ちゃんと分かっていた。
この村の迷信、全部頭に入れてた。
それが、彼女の武器だ。
ガート、とうとう折れた。
ブツブツ呪いの言葉を吐きながら、後ずさり。
話は、黙ってまとまった。
オルデンが鉋機を直す。
ガートは借金の話を忘れる。
この世界じゃ、脆くて、場違いな「真実」が、一瞬、勝ったのだ。
夜。帰り道。
村の長老が、アマンダを追いかけてきた。
顔は、マジで真剣だ。
「アマンダ。」
長老が口を開く。
「熱病以来…お前、変わったな。
目が、なんか、めっちゃ見えてる。
見えすぎてる。」
アマンダの胸、なんかキュッとなった。
怖さじゃない。
新しい「事件」前の、いつもの緊張感。
「問題が起きた。
家畜の盗難だ。
隣の村に続く足跡がある……
でも、なんか単純じゃねえ。
お前の才能、必要だ。
あの目が必要だ。」
彼女は黙って頷いた。
心臓――いや、心臓じゃない。
もっと深いところ、ヤマダ・ライトの魂が、ドクドクと高鳴った。
興奮だ。
複雑な事件を解き明かす、あのゾクゾクする興奮。
正義の味。
かつて彼が生き、死に、転生する前、5年間学び続けた、そのための味だ。
「明日、見てくるよ、長老。」
彼女はシンプルに言った。
家に向かって歩き出す。
風が金髪をバサバサ揺らす。
彼女はアマンダ、エレナの娘。
でも、この華奢な体の奥には、ヤマダ・ライトの鋼みたいな意志と頭脳が詰まっていた。
彼女はただ生き延びただけじゃない。
戦場を見つけたんだ。
妙で、ばかばかしくて、でも、彼女だけの戦場。
戦いたいって欲。
剣じゃなく、言葉と観察力で。
ファンタジー世界の片隅で、スカート履いた検事。
運命の皮肉はめっちゃ苦くて、でも、どこか甘い。
「いいぜ、世界。」
彼女は思った。
久しぶりに、唇にうっすら笑みが浮かぶ。
「見せてみろよ、どんなもんか。」
その瞬間。
どこか遠く、別の場所で、誰かも同じ言葉を口にした。
この未知なる物語の旅路に、
「ブックマーク」という道標を頂けますと幸いです。
そして、もしその旅が少しでも貴方の心に響いたなら、
「5点評価」という最大の賛辞を賜りたく。
何卒、宜しくお願い申し上げます。
……次の章へ、ほんの少しだけの間。
どうか、そのままでいてください。
すぐに、約10分後にお届けします。




