49) 透明の鎧と神々の演技
けたたましい音が、暗闇をぶち破った。まるで雷鳴――いや、ただのくしゃみだった。続いて、鈍い衝突音が響く。「アイタッ! 痛ぇ!」とくぐもった叫び声。そして、ドワーフ語で繰り出される、抑えきれない罵詈雑言の嵐。
目の前に――まるで虚空から現れたかのように――二つの人影が浮かび上がった。
◇◇◇
光を吸い込むような、深淵の色の鎧。それが彼らの姿だった。二人はヘルメットを脱いだ。
一人目はレオ。くしゃくしゃの黒髪と、キラキラした賢そうな瞳を持つ青年だ。かつてアマンダが路地裏で拾った、貧しい孤児の掏摸。あの時、彼女は自分の「とんでもない計画」を託せる相手を探していた。そして、レオこそがその運命の相手だった。
もう一人はトルグリム。赤々とした髭と、熟れすぎたジャガイモみたいな鼻を持つ、ずんぐりしたドワーフだ。伝説の――だが、ボロボロの――鍛冶師。アマンダが押し付けた、ミスリルとオリハルクの設計図から生まれたのは、ただ頑丈なだけの鎧じゃない。透明になる鎧だった。
トルグリムは額をさすりながら――見えないドアの枠に頭をぶつけたらしい――アマンダを睨んだ。その目は、まるで彼女が世界中の演技大会で優勝し、同時に「バカっぽさ賞」を総なめにしたような表情だった。
「ハハッ! お、お前なぁ……!」
トルグリムの低音が、笑いを堪えるように震えた。
「マジかよ! 何!? 何だこの状況!? 『あなたを惚れさせようなんて思ってないから!』だって!?」
彼はアマンダの声をわざと甲高く真似し、腹を抱えて笑い出した。
「おお、偉大なる守護者様! 一振りで敵をぶっ倒す最強の魔法使い! なのに、顔真っ赤にして、ビビった猫みたいに飛び退くんだもんな! ハハハハ!」
◇◇◇
レオは必死で真顔を保とうとしていたが、その瞳はもう笑いでキラキラしていた。
「いや、マジで最高でしたよ、姫様。」
彼はクスクス笑いを堪えながら言った。
「あの雑草の袋をアイツに渡したとき、俺、笑いすぎて死ぬかと思ったっす。」
アマンダは、もう今日一日で感情のジェットコースターに乗りすぎていた。力なく近くの椅子にドサッと崩れ落ちる。彼女の金色のヘルメットが、ゴトンッと床に落ちた。
「二人とも、黙れって……!」
彼女はうめくように言った。両手でこめかみをグリグリこすりながら、その素顔――そう、ただの日本の女の子そのものの顔――は、恥ずかしさで真っ赤に染まっていた。
(こんなの、恥ずかしすぎるって! 最悪!)
◇◇◇
トルグリムはようやく笑いを抑え、ドカッと宝箱の上に腰を下ろした。ボロボロの服のポケットから、使い古した水筒を取り出す。
「ハハ、わーった、わーった。」
彼はニヤニヤしながら言った。
「でもよ、『守護者』様よ――」
その名前を、わざと大げさに、ちょっとバカにした感じで強調する。
「お前、自分で自分の伝説、ちょっと信じちゃってたろ? 『紅の爪団』相手にあの芝居……いや、マジで神がかってたぜ。」
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レオは**必死で真顔**を保とうとしていたけど、その**瞳はもう笑いでキラキラ**してる。
「いや、マジで最高でしたよ、姫様。」
彼は**クスクス笑いを堪えながら**言う。
「あの雑草の袋をアイツに渡したとき、俺、笑いすぎて死ぬかと思ったっす。」
アマンダは、もう今日一日で**感情のジェットコースター**に乗りすぎた。**力なく近くの椅子**に**ドサッ**と崩れ落ちる。彼女の**金色のヘルメット**が、**ゴトンッ**と床に落ちた。
「二人とも、黙れって……!」
彼女は**うめくように**言う。**両手でこめかみをグリグリ**こする。
その**素顔**――そう、**ただの日本の女の子**そのものの顔――は、**恥ずかしさで真っ赤**に染まってる。
> (こんなの、恥ずかしすぎるって! 最悪!)
トルグリムはようやく笑いを抑えて、**ドカッ**と**宝箱の上**に腰を下ろす。**ボロボロの服のポケット**から、**使い古した水筒**を取り出した。
「ハハ、わーった、わーった。」
彼は**ニヤニヤしながら**言う。
「でもよ、『守護者』様よ――」
その名前を、**わざと大げさに、ちょっとバカにした感じ**で強調する。
「お前、自分で自分の伝説、ちょっと信じちゃってたろ? 『紅の爪団』相手にあの芝居……いや、**マジで神がかってた**ぜ。」
鮮烈な記憶――森の裁き
ズッ……!
◇◇◇
陽光が木々の隙間を縫い、金色の輝きを投げかける。
アマンダはそこに立っていた。
彼女の黄金の鎧は、まるで神々の加護を受けたかのように眩しく燃えていた。
目の前には、獣のような目をした傭兵団。
その中心で、ランデルが血まみれで膝をついていた。
彼の瞳は、希望と恐怖で揺れていた。
アマンダは動かなかった。
ただ、ゆっくりと――荘厳に、悲劇の女神のように――手を上げた。
「汝らの欲が、この森を汚した。」
彼女の声は、ヘルメット越しに歪み、低く響いた。
「消えなさい。」
その瞬間、アマンダの手が優雅に、だが断固として振り下ろされた。
――シュッ!
傭兵団の頭領、巨漢の男が、突然ピタリと動きを止めた。
その首筋に、まるで縫い目のような細い赤い線が浮かぶ。
そして、音もなく、ドサッと倒れ伏した。
光の閃光も、魔法の轟音も、何もなかった。
ただ、死が虚空から訪れた。
他の傭兵たちは、恐怖に顔を歪めて後ずさった。
(何!? 何だこれ!? — 彼らの心はパニックに支配されていた。)
アマンダは微動だにしない。
上げた手は、まるで至高の巫女が裁きを下す杖のようだった。
◇◇◇
だが、誰も知らなかった。
彼女の背後――森の影で、二つの影が動いていたことを。
レオとトルグリム。
黒い鎧に身を包み、光を飲み込む透明の刃を手に、二人の暗殺者は木々の間を幽霊のように滑っていた。
彼らの刃は、ミスリルとオリハルクの合金で鍛えられた、目に見えぬ死の道具。
その一撃は、外科医のメスよりも正確だった。
アマンダの「振り」は魔法なんかじゃなかった。
それは信号。
「次はこのヤツ」と命じる、暗黙の命令だった。
彼女の一振りごとに、傭兵たちは次々と倒れた。
まるで、彼女一人が全てを瞬殺しているかのような、完璧な幻想だった。
◇◇◇
ゴクッ!
トルグリムが水筒を煽り、豪快に息を吐いた。
「ハハハハ! あのキャプテン、めっちゃイキってたよな!」
彼は腹を抱えて笑い、指でナイフを振り下ろすジェスチャーをした。
「で、お前がさ、『はい、死にな!』って感じで手振ったら、俺、その瞬間にアイツの首の動脈を……チョイッ!って!」
トルグリムは大笑いし、膝を叩いた。
「んで、みんながさ、『うわっ! 魔法だ!』ってパニック! 俺たち、透明の鎧着てたのに、笑いすぎてバレそうだったぜ!」
(この野郎、ほんと口悪いな……! — アマンダは内心で毒づいた。)
彼女の顔は、恥ずかしさでまだ真っ赤だった。
レオは、さすがに空気を読んで、静かに頷いた。
「完璧にハマりましたよ、姫様。」
彼の声は落ち着いていたが、目はまだ笑っていた。
「あの傭兵ども、ビビって羊の群れみたいに逃げ出した。ロジック? そんなの考える余裕もなかった。あいつら、金色の『神像』と即死の恐怖を見て、頭真っ白だったんです。」
◇◇◇
アマンダは二人を見つめた。
最初は恥ずかしさで顔が燃えるようだったが、だんだん――ほんの少し――疲れた笑みが浮かんでくる。
(そう、全部ハッタリだった。めっちゃリスキーな賭け。)
でも、成功した。
ランデルの命を救った。
そして今、こうして――この世界の最強の貴族の「巣窟」にまで潜り込んだ。
「はぁ……」
アマンダは大きく息を吐いた。
「まあ、芝居はバッチリだったよね。」
彼女の目は、急に真剣になった。
「でもさ……もう後戻りはできない。ここまで来ちゃった。私、今、本物の『守護者』なんだ。」
(やると決めたら、徹底的にやるしかない!)
「この役、完璧に演じ切るよ。」
◇◇◇
トルグリムが、ニヤッと笑って鼻でフンっとやった。
「おお、気合入ってんな! なら、派手にやろうぜ!」
彼はボロボロの手袋をパタパタ振って、まるで貴族のお嬢様のマネをした。
「王子様やら、ライバルの花嫁候補やら、そーいうゴージャスな感じでさ! ただよ、次に顔真っ赤にするときは、事前に言えよ? 俺、透明の鎧でコケて、全部バレちまうからな!」
「うっ……!」
アマンダの顔が、また一瞬で真っ赤になった。
「もう、黙れってば!」
◇◇◇
レオは、クスクスと静かに笑った。
目の前には、ビビりまくりの「女神」、元スリ、酔っ払いのドワーフ――こんなヘンテコな三人組。
なのに、こいつらが、なんと一つの公国を丸ごと騙しちまった。
(マジで、ヤバいことになってきたな……)
そして、もっとヤバいのは――この無茶な冒険、まだ始まったばかりってことだった。




