47) 毒の花と金の彫像(続き)
ランデルは、ホールの視線が再び自分たちに集まるのを感じ取った。
彼は父の方へ振り返る。
背筋がピンと伸びる。
長年の戦場で磨かれた、司令官の威厳。
だが今、そこには新たな鉄のような確信が宿っていた。
「父上。」
その声は、ホールのアーチ天井に響き渡る。
クリアで、力強い。
「許可をいただければ、
我々の客人を用意した部屋まで案内したい。
旅の疲れと……これまでの出来事の後、
彼女には休息が必要だ。
その後、すぐに戻り、詳細な報告をします。」
タイヴィンは、娘の毒々しくも鋭い言葉をまだ噛み砕いている。
唇を固く結び、短く頷く。
その沈黙は、どんな命令よりも雄弁だった。
(ふっ、父さん、完全に押されてるじゃん!)
ロクサーナの心は、ニヤリと笑う。
ランデルはアマンダの方へ向き直る。
ホールにいる全員が、再び息を呑む。
その一挙手一投足を見逃すまいと。
ユイに向けていたあの氷のような冷たい視線。
まるで存在しなかったかのように、溶け去っていた。
灰色の瞳。
普段は鋼のように冷たい。
だが今、そこには生き生きとした、
まるで優しい炎が灯っている。
彼は軽く、出口の方へ首を傾げる。
その仕草は、ただの礼儀じゃない。
深い、個人的な気遣いに満ちていた。
「守護者殿。
準備ができていれば……
どうぞ、道をご案内します。
塔の客室は、宮殿で最も静かな場所です。
そこから『永遠の森』が見える。
気に入ると思いますよ。」
その声は、彼女だけに向けたもの。
静かで、柔らか。
ロクサーナが言った、あの「気遣い」が、
確かにそこにあった。
(うわっ、お兄様、めっちゃ本気じゃん!
この空気、めっちゃやばいんだけど!)
ロクサーナの心は、まるで舞台のクライマックスに沸き立つ。
ランデルが一歩踏み出す。
アマンダは、一瞬、誰にも気づかれない逡巡の後、
彼の後に続く。
二人はゆっくりと、宮殿の奥へと続くアーチへ向かう。
その背中が遠ざかるにつれ、
ホールには抑えきれないざわめきが広がった。
(ふふっ、始まったね!
この氷、完全に割れちゃったよ!)
ロクサーナの瞳は、まるで嵐を予感する猫のように輝く。
守護者の金色の姿と後継者が視界から消えた瞬間、
玉座のホールは爆発した。
好奇心に駆られて戻ってきた者たちの囁き。
それが一瞬で、熱を帯びた議論へと変わる。
白髪の髭をたくわえた老貴族、フォン・ハッガート伯爵。
タイヴィンの古参の相談役だ。
彼は首を振って、隣の若きデ・ラニ侯爵に話しかける。
「見たかね?
ランデル卿のあの視線!
私はアイヒェンヴァルド家に四十年仕えてきた。
彼が赤子だった頃からだ。
どの高貴な令嬢にも、
ユイ殿にさえ、
あんな……敬意と温かさが混じった目、
一度も向けたことなかったぞ。」
デ・ラニ侯爵はニヤリと笑う。
鋭い洞察と賭け事への愛で知られた男だ。
レースの袖口を整えながら、軽やかに返す。
「敬意、ですって?
伯爵、ちょっと遠慮がちすぎません?
あれは、ただの救世主を見た目じゃない。
もっと……深いものだ。
ユイ殿はさっき、
わざわざ見せつけられたも同然のビンタをくらった。
しかも、手じゃなくて、
首の傾げ一つでね。」
そこへ、他の貴族たちが群がってくる。
その顔は、好奇心でキラキラ。
「何ですって?
後継者とあの……守護者の話?」
口を挟んだのはエロイザ夫人。
年配だが、影響力抜群の未亡人だ。
「信じられないわ。
彼女といるときのランデル卿、
まるで別人よ。
あの冷たい仮面、
何年も被ってたのに、
ポイっと脱ぎ捨てたみたい!」
「それに、彼女の隣に立つ姿、
気づきました?」
今度は背の低いバロン男爵が興奮気味に続ける。
「前に立つでもなく、
後ろに控えるでもなく。
隣だよ、隣!
まるで……対等か、
いや、それ以上の何かだ。」
(ふふっ、このざわめき!
完全に祭りじゃん!)
ロクサーナの耳は、遠くの囁きまで拾う。
彼女の心は、まるで火花を散らす花火のように弾ける。
(お兄様、ほんとやっちゃったね!
この空気、めっちゃ燃えてる!
さてさて、次はどうなるかな?)
デ・ラニ侯爵が声を潜めた。
周りの貴族たちが、無意識に身を寄せる。
「皆さん、冷静に考えましょう。
ランデル卿は、ただ生きて帰ってきたんじゃない。
信じられない力の生きた象徴を連れてきたんだ。
その力は、私たちの最精鋭の軍団すら霞ませる。
で、その力が、なんとなんと、
卿個人にめっちゃ好意的だって?」
彼は意味深に眉を上げる。
ニヤリとした笑みが、唇に浮かぶ。
「アイヒェンヴァルド家にとって、
いや、公国全体にとってさ。
リンネ家との同盟——確かに強力だけど、
所詮、人間味あふれるもの——
それと比べて、
森の意志そのものかもしれない存在との絆。
どっちが本当の価値があると思う?」
フォン・ハッガート伯爵が息を飲む。
侯爵の言わんとすることが、ようやく腑に落ちた瞬間だ。
「まさか……婚約破棄を、考えてるのか?
そんなの、ありえない!
デ・リンネ公爵が……」
「激怒するよ。」
侯爵が遮る。
当然だ、とでも言うように。
「公爵は、間違いなく軍を国境から引き揚げて、
鋼鉄の値段を吊り上げて、
皇帝の宮廷で大騒ぎを起こすだろう。」
彼は一拍置く。
その言葉が、皆の頭に染み込むのを待つ。
「でもさ、考えてみろよ。
彼女——あの金ピカの守護者が、
一振りで公爵の軍を灰にできるとしたら?
その怒りなんて、何の意味もない。
交易路?
彼女が森そのものを味方につけたら、
そんなの、ただの紙切れさ。」
エロイザ夫人が、目を輝かせる。
これから始まる陰謀のスリルに、興奮を隠せない。
彼女はコクコクと頷く。
「侯爵のおっしゃる通りよ。
もう、恋愛だの作法だのの話じゃないわ。
生き残りと、最大の栄光の問題。
ユイ殿は……可愛い子だけど、
過去の話。
この守護者は、未来よ。
未来が、もうドアを叩いてるの。
で、後継者——彼だけが、
その鍵を持ってるみたいね。」
「でも、タイヴィン公爵はどう思うんだ?」
バロン男爵が囁く。
その声、震える。
「彼は義務と約束の人だぞ。」
デ・ラニ侯爵は自信たっぷりに笑う。
「タイヴィン公爵は現実主義者だよ。
私たちと同じ絵を見て、
ただ、ちょっと時間が必要なだけ。
あの壮大な戦略を、頭の中で組み替えるためのね。
でも、間違いなくやるさ。
家のためだ。
いつだって、家のためだ。」
囁きが、さらに熱を帯びる。
マーブルの壁に、波のように反響する。
「犠牲が必要だ。」
「家の栄光のため。」
「高次の力の加護。」
「政治的な必然。」
そんな言葉が、渦を巻いて混ざり合う。
(うわっ、この熱気!
完全に祭りのクライマックスじゃん!)
ロクサーナの耳は、騒ぎを全部拾う。
彼女の心は、まるで嵐の頂点で踊る。
(父さん、感じてるよね?
この流れ、もう誰も止められないよ!)
一方、群衆から離れて。
玉座のそばで、タイヴィンは静かに立つ。
彼は振り返らない。
でも、すべての言葉が耳に届く。
視線は、息子と謎の救世主が消えたアーチへ。
娘の鋭い論理。
そして今、廷臣たちの囁き。
何年も、何十年も。
アイヒェンヴァルドの大公として、
彼はすべての流れを掌握してきた。
だが今、初めて。
その流れが、狂ったように加速している。
(この波を、率いるか。
それとも、呑まれるか。)
タイヴィンの胸で、静かな決意が燃える。
(私は、アイヒェンヴァルドだ。
波に呑まれるような男ではない。)
――次回へ続く――
最近、章の構成を少し変えて、
これまでよりも長めで、物語の流れを途切れさせずにお届けするようにしています。
皆さんにとって読みやすいですか?
それとも、以前のように短く区切った方が良いですか?
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