45) 「婚約者、突然の登場!ランデルの冷たい視線」
歓声の余韻が、まだ空気を震わせていた。
その時、鋭く、感情に溢れた声が玉座の間に響き渡る。
「ランデルー!」
全員が振り返った。
巨大な扉の枠に、一人の少女が立っていた。
呆然とする衛兵二人を、まるで空気のように押し退けて。
彼女の空色のシルクドレスは、くしゃっと乱れている。
鴉の羽のような黒髪は、優雅な髪型からいくつもほつれていた。
頬は、走ってきた熱で紅潮していた。
ユイ・ド・リンネ。
リンネ公爵の娘であり、ランデルの公式な婚約者。
タイヴィンが強力な家との同盟を固めるため、あの運命の旅の直前に決めた縁談だった。
(うわっ、めっちゃドラマチックな登場! この子、完全にヒロイン枠じゃん!)
アマンダの心が、思わずざわつく。
ユイは、何百もの視線をまるで気にも留めず、ホールをかき分けるように突進してきた。
そして、勢いそのままに――
ランデルに飛びついた!
両腕を彼の首に絡め、まるで子供のようにはしゃぐ。
「生きてた! やっぱり! 全部の神様に祈ったんだから!」
彼女の声は、震えながらも喜びに満ちていた。
ユイは彼の頬に顔を寄せ、熱っぽく、慌ただしく、キスを浴らせる。
(うわっ、うわっ! めっちゃ情熱的! 恋愛アニメのクライマックスかよ!)
アマンダは、隣で思わず固まった。
(でも、なんか……空気がヤバいぞ?)
ランデルの体が、瞬間的に石のように硬直する。
彼の唯一の腕は、ユイを抱き返すことなく、ただだらりと垂れ下がったままだった。
一瞬の静寂。
そして、彼はそっと、だがはっきりと、ユイの手首を掴んだ。
彼女の腕を首から外し、半歩後退する。
距離を作る、明確な仕草。
「ユイ。落ち着け。」
ランデルの声は、穏やかで、礼儀正しかった。
だが――空っぽだった。
まるで廃墟に響く反響のような、虚ろな音。
「相応しく振る舞え。」
(うっ、なんじゃこの冷たさ!? めっちゃ塩対応じゃん!)
アマンダの心が、思わずツッコミを入れる。
(いや、待てよ。この状況……めっちゃ波乱の予感しかしないんだけど!)
ユイの動きが、ピタリと止まった。
彼女の瞳が、わずかに揺れる。
まるで、信じられないものを見たかのように。
ホールの空気が、一気に重くなる。
物語は、ここから新たな嵐を呼び込む――。
◇◇◇
アマンダの心が、思わず跳ね上がった。
(え、ちょっと待って! この婚約者、めっちゃ出てきたんだけど!?)
彼女の驚きは、ヘルメットの下で危うく声になりそうだった。
「本」――あの断片的なストーリーの記憶に、こんなキャラの話なんて一ミリも出てこなかった。
(いや、マジで!? こんな重要なヒロイン、なんでスルーされてたの!?)
そして、ランデルの態度。
さっきまであんな熱い言葉でアマンダに語りかけてたのに。
今はまるで氷の彫刻。
(うわ、この冷たさ……なんかヤバいフラグ立ってる気がするんだけど!)
彼の振る舞いは、さっきの感動的なシーンとまるで別人だった。
ユイは一瞬、目を丸くする。
その菫色の大きな瞳に、傷ついた光がチラリと宿った。
(うっ、この子、めっちゃピュアなリアクション! なんか可哀想になってきた……)
だが、次の瞬間、彼女はパッと輝く笑顔を咲かせる。
まるで、さっきの気まずさなんて存在しなかったかのように。
ユイはアマンダに向き直り、軽やかに、でもどこか計算された優雅さで会釈した。
他の者たちの深い敬意とは、明らかに違う、軽やかな仕草。
「おお! あなたがあの『守護者』ですよね!」
彼女の声は、まるで鈴が鳴るようにキラキラと響く。
「走ってくる途中で全部聞いちゃいました! 私のランデルを救ってくれたんですよね!」
ユイは両手を胸の前でパチンと合わせ、まるで舞台女優のような大げさなポーズを取った。
「あなた、めっちゃヒーローじゃないですか! もう、感謝してもしきれないです!」
彼女の瞳が、キラキラと輝く。
「もしあなたがいなかったら、私……悲しみで死んじゃってたかも!」
(うわっ、なんこの甘ったるいセリフ! めっちゃ少女漫画のヒロイン感!)
ユイの言葉は、まるでキャンディの包み紙みたいにキラキラしてるけど、どこか安っぽい。
アマンダの心が、思わずツッコミを入れる。
(でもさ、この子……なんか企んでる? それともただ純粋なだけ? どっち!?)
ランデルは、ただ黙って立っていた。
彼の視線は、ユイの頭の上、どこか遠くの虚空を彷徨っている。
その表情には、何の感情も浮かんでいない。
まるで、目の前の騒ぎが彼とは無関係かのように。
(うっ、この沈黙……めっちゃ重い! 完全に恋愛フラグ折れそうな空気じゃん!)
ホールの空気が、微妙にピリつく。
物語は、ここからさらに複雑な糸を紡ぎ始める――。
◇◇◇
玉座の間の一角。
タイヴィンとロクサーヌは、それぞれの椅子から、まるで蛇のような冷徹な視線でその光景を見据えていた。
「ふん、愛らしいお義姉さんの出番ってわけね。」
ロクサーヌの声は、唇をほとんど動かさず、囁くように低く響く。
彼女の赤い瞳は、三人の姿――ランデル、ユイ、そしてアマンダ――を一瞬たりとも離さない。
「帰還した英雄に、さっそく自分の権利を主張しにきた。めっちゃ感動的じゃん。」
その言葉に、皮肉がたっぷり滲んでいた。
(うわ、この子、めっちゃ毒舌! 完全に状況をゲーム感覚で楽しんでる!)
タイヴィンは、顔を石像のように動かさず、同じく囁きで答えた。
「彼女は役割を果たしている。喜びに溢れる婚約者、愛する男を取り戻した姿――すべて、あるべき形だ。」
「あるべき形?」
ロクサーヌの唇が、嘲るように小さく歪んだ。
「父さん、兄貴の顔見てよ。あの目、完全にユイを鬱陶しいハエみたいに見てるよ。」
彼女の声に、鋭い愉悦が混じる。
「兄貴の新しい『鉄の視線』、そしてあの金色の存在――」
ロクサーヌの視線が、動かないアマンダの姿にチラリと流れた。
「その二つが、父さんの『あるべき形』をぶっ壊してる。」
タイヴィンの目が、一瞬、わずかに揺れる。
「彼女の存在は、確かに力の均衡を変える。だが、リンネとの盟約は揺らがない。」
彼の声は、鋭く切り裂くように断定的だった。
だが、その瞳の奥に、かすかな不安の影が宿っていた。
「ふーん、さてね。」
ロクサーヌはゆっくりと微笑む。
その笑みは、まるで獲物を前にした狩人の予感に満ちていた。
「どっちが勝つか――『必要性』か、それとも『理解を超えた力』か。楽しみだわ。」
(うわっ、この二人、めっちゃ策略巡らせてる! 完全に政治ドラマの裏側じゃん!)
アマンダは、遠くでその視線を感じつつ、内心でツッコミを入れる。
(でもさ、この空気……なんかヤバいフラグがバンバン立ってる気がする!)
その頃、ユイはアマンダからの反応がないことに、まったく動じていない様子だった。
(この子、めっちゃメンタル強いな! 無視されてもノーダメ!)
彼女はくるりとランデルに向き直り、キラキラした笑顔を振りまく。
「ねえ、愛しい人! 絶対疲れてるよね! ほら、行こうよ! 私が落ち着くハーブティー用意させるから――」
「ユイ。」
ランデルの声が、彼女の言葉をピタリと遮った。
彼の視線が、ようやくユイに向けられる。
だが、その声は、先ほどよりも硬く、鋭い。
「心配してくれて感謝する。だが、今はそんな時じゃない。」
彼は一瞬、言葉を切る。
「俺は父に、今回の全てを報告しなきゃいけない。そして――」
彼の視線が、そっとアマンダに流れた。
「我々の客は、休息が必要だ。雑談の相手をする時間じゃない。」
(うわっ、めっちゃキッパリ! この塩対応、完全にユイのテンション無視してる!)
ユイの笑顔が、一瞬、凍りつく。
ホールの空気が、さらにピリピリと張り詰めた。
◇◇◇
ユイは唇を軽く噛む。
だが、その笑顔は、びくともしない。
「もちろん、わかってるよ。」
彼女の声は、明るく、でもどこか無理やりな響きだった。
「でも、ね……後で、絶対話そう? 二人きりで?」
ランデルは、何も答えない。
ただ、視線をそっと逸らす。
その沈黙は、どんな言葉よりも雄弁だった。
(うわっ、この無言の圧! めっちゃ冷たく突き放してるじゃん!)
アマンダの心が、思わずツッコミを入れる。
ユイの頬が、ほんの一瞬、引きつった。
彼女の視線が、チラリとアマンダの黄金の鎧に滑る。
その菫色の瞳に、雷光のような――鋭い何か。
嫉妬? 恐怖? それとも不信?
一瞬の閃光は、すぐに彼女の笑顔の裏に隠された。
「そっか、君の望むようにね。」
ユイの声は、囁くように小さく、でもどこか震えていた。
彼女はもう一度、優雅な会釈をしてみせる。
だが、その動きは、どこかぎこちない。
そして、まるで逃げるように、ユイはホールから姿を消した。
彼女の背中が遠ざかる中、場に漂うのは気まずい空気。
そして、嵐の前触れのような、ピリピリした緊張感。
(うっ、なんこの雰囲気! 完全に恋愛ドラマのドロドロ展開の予感!)
アマンダは、この小さな舞台劇をじっと見つめていた。
さっきまでの重い責任感が、別の、もっと鋭い感覚に変わっていく。
――気づき。
彼女の存在は、ただ「盾」になっただけじゃない。
宮廷の静かな水面を、大きく揺さぶってしまったのだ。
(やばい、私……なんかめっちゃ複雑なゲームに巻き込まれてる!)
彼女の心が、ドクンと高鳴る。
ユイは、ライバル? それとも、ただの駒?
いや、もしかして――このゲームの女王?
(どっちだよ! 時間、早く答え出してくれ!)
アマンダの視線が、ホールの空気を切り裂く。
彼女はまだ知らない。
この物語が、これからどれだけ絡み合った糸を紡いでいくのか。
だが、一つだけ確かなこと。
彼女は、もうこのゲームの中心に立っている――。
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