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43)黄金の守護者、広場に現る

ランドールはようやく家族の腕から解放された。


温かい、感謝に満ちた視線が、馬車へとすっと飛ぶ。


無言。


閉ざされた馬車の扉を、じっと見つめる。


(まるで、念の力で彼女を呼び出すみたいだな……)


――馬車の中。


アマンダは凍りついていた。


心臓がドクドクと暴れる。


周りの音が、全部かき消される。


窓の小さな隙間から、無数の顔。


何百、何千の視線が彼女を刺す。


好奇心にギラつく目。


期待で輝く目。


公爵家の面々、エリートたち、群衆……。


(こんな、こんな目に……! ああ、神様! なんでこんなことに!?)


(バカ! 馬鹿! 森で消えればよかった!)


ランドールの視線が、彼女に気づく。


アマンダは必死で首を振った。


(このサイン、わかってよ……!)


けれど、彼の顔に笑みが浮かぶ。


嘲るようなものじゃない。


温かくて、どこか優しい笑みだった。


(……やっぱり、彼女もちゃんと感情持ってるんだな。ふふっ)


ランドールの頭に、そんな考えが浮かんだ。


馬車の外で、彼は誰も急かさなかった。


静かに、ただ静かに――。


◇◇◇


ランドールはゆっくりと馬車に近づく。


扉をすっと開けると、まるで舞うように中へ飛び乗った。


「……」


群衆の視線が、釘付けになる。


扉が閉まる。


外の騒音が、ぴたりと消えた。


「君を一人で、あいつらに紹介なんて……考えられない」


その声は穏やかで、でも、なぜか切実だった。


彼は金色に輝く――動かぬ彼女の姿を見つめる。


(僕に、二度目の人生をくれた君を……知られないままにはできない――)


「君の名前を。いや、君の称号を、みんなに知ってほしい」


アマンダは黙ったまま。


冷たい金属の太ももを、手袋の手でぎゅっと握りしめた。


「お願いただ」


命令じゃない。


懇願だった。


「外に出てくれ。少しだけでいい。一緒にいてくれ」


その声の奥にある――誠実さ。必死さ。


彼女の体の震えが、わずかに収まった。


小さく、ただ一度だけ頷く。


(……ほんのわずか。でも、十分だ)


◇◇◇


ランドールは再び馬車から降りる。


振り返り、礼儀正しく、騎士のように頭を下げて手を差し伸べた。


群衆の息が止まった。


エレオノラ公爵夫人は手を口に当てる。


タイウィンは眉をひそめ、鋭い視線をさらに研ぎ澄ます。


ロクサナは冷たく、分析的にその光景を眺めていた。


重苦しい静寂。


そして――


馬車の闇の中から、彼女がゆっくりと姿を現した。


最初に現れたのは、金色のブーツの先だけ。


次の瞬間、眩い光を放つ鎧に包まれた全身が、闇の中から浮かび上がる。


まるで天から舞い降りたかのように――。


彼女はゆっくりと地面に降り立った。


時間が止まったように。


その手は、ランドールの腕にそっと――羽のように軽く触れるだけだった。


太陽の光が鎧を直撃する。


一瞬で世界が白く染まった。


「うわぁ……!」


広場にいた数千の人々が、息を呑む。


伝説が、現実に降りてきた――そんな光景だった。


◇◇◇


ランドールは彼女の手を離さず、家族の元へ歩き出す。


アマンダにとって、一歩一歩が試練だった。


数千の視線が突き刺さり、皮膚が焼けるように感じる。


でも、彼の手だけが、唯一の支え――。


海のような好奇心に沈まない錨だった。


三人の前で立ち止まる。


ランドールは背筋を伸ばし、澄みきった声で告げた。


その声は家族だけでなく、広場にいる全員――この領地すべてに届くようだった。


「父上。母上。姉上」


その声は、凍りついた広場を震わせた。


「そして、俺の愛する領民たちよ。


俺が今ここに生きていることよりも、もっと大切なことを伝えなければならない。


誰に命を救われたのか――それを」


彼は振り返り、アマンダを見つめる。


その瞳は、まるで聖女を見つめるかのような、深い畏敬に満ちていた。


「この方……いや、この存在を、どの歴史書も記していない。名前は秘されしもの。


だが、称号こそが、俺の知る最大の真実だ」


深呼吸を一つ。


「彼女こそ、古代の森の守護者――最後の至高魔導士。


その力は、我々の理解を超えている」


一瞬の沈黙。


言葉を心に刻むために。


「帝国の〈紅の爪〉は、俺の死をすでに祝っていた。


毒を塗られた刃が、俺の胸を突き刺そうとしたその瞬間――


彼女が現れた。


一言も発さず、ただ手を振るだけで、暗殺者どもを灰に変えた。


それは魔法ではない。自然そのものの意志――命を守るために立ち上がった、大いなる意志だ」


ランドールは広場を見渡す。


「だから俺は生きている。


俺が死ねば、アイヒェンヴァルト公爵家も滅んでいただろう。


つまり、俺たち全員、この未来そのものを、彼女に救われたのだ」


深く、深く頭を下げる。


「我らの未来を救った偉大なる守護者――グラン・プロテクターに、感謝を」


その瞬間、広場が爆発した。


「――おおおおおおっ!!」


歓声、涙、祈り、感嘆。


誰もが膝をつき、誰もが天を仰ぐ。


黄金の守護者は、ただ静かに、そこに立っていた。


世界が息を止めたかのように――。


◇◇◇


ランドールの演説が終わった瞬間、広場を包んだ静寂は――耳をつんざくほどだった。


だが、その静けさは突如破られた。


叫び声ではない。


次第に高まる、畏敬に満ちたざわめき。


人々の視線は、金色の姿を捉えていた。


恐怖ではない。


驚嘆。


希望に輝く瞳。


そこに立つのは、魔女でもなく――神の遣い。守護者だ。


タイウィンは鋼のような視線を、アマンダから一瞬も外さず、ゆっくりと頭を下げた。


深い敬意を込めて。


エレオノラは優雅に、しかし心からの礼を捧げる。


頬を伝う涙は、もはや息子のためだけではない。


彼を救ったこの女性のためにも流れていた。


ロクサナ――


赤い瞳でアマンダを見据える。


恐れは微塵もない。


燃える好奇心と――王国の運命をひっくり返すほどの力を持つ存在への新たな尊敬がそこにあった。


アマンダは立ったまま、胸を締め付けるパニックが、波が引くように消えていくのを感じた。


代わりに芽生えたのは、奇妙で初めての感覚。


自分はもう、ただの影ではない――


巨大な何かの一部だ。


この民全体の希望の象徴の一部になった――という圧倒的な自覚。


ランドールの視線が、彼女を包む。


果てしない感謝。


揺るぎない確信。


その目が告げていた――


どんなに危険な道でも、君は正しい選択をした。


そして今、君には仲間がいる。


味方がいる。

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