表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/78

42) 「帰還と再会」

馬車がガタリと最後の角を曲がる。

陽光が降り注ぐ広場。

公爵宮殿が目の前にそびえる。


白い石の宮殿。

豪華さより厳格さ。

深い威厳が漂う。


黄金の門が軋みながら開く。

その瞬間、アマンダの視線が動く。

群衆を滑るように。

そして、ピタリと止まる。


正面の入口。

高いアーチの影。

三つの人影が立つ。


*(——あの人!)*


アマンダの血が凍る。

黄金の鎧の下、心臓がドクンと鳴る。

先頭に立つのは、タイヴィン・フォン・アイヒェンヴァルド公爵。

背筋はピンと伸び、まるで鉄の柱。


皺だらけの顔。

まるで花崗岩を削った仮面。

厳しい気候と責任に刻まれた痕。


*(『クロニクル』で知ってる。あの運命——)*


息子の死の報せから一週間後。

心臓発作が彼を襲う。

その影が、アマンダの目に映る。

誰もが見えないもの。


*(でも、違う。あの重荷が彼を潰さなかった理由——)*


息子が生きて帰ってきた。

それだけだ。


公爵の鋼のような瞳。

ランデルをじっと見つめる。

その眼差しに、露なんて生ぬるいものはない。


*(ああ、あれは——)*


鉄の意志で抑え込まれた、嵐のような安堵。

その瞳の中で、感情が渦巻く。

アマンダは息を吞む。


*(この瞬間、すべてが変わる!)*

1

タイヴィン公爵の隣。

震える指でハンカチを握りしめる女。

エレオノーラ公爵夫人だ。


かつての美貌の名残。

今、その顔には静かな哀しみ。

そして、果てしない優しさ。


*(『クロニクル』の運命——)*


公爵領の崩壊。

西からの猛攻。

侵略者の刃に、彼女は命を落とすはずだった。


だが、今。

彼女の頬を伝うのは涙。

無音の涙。

絶望じゃない。

喜びの涙だ。


*(生きてる……!)*


そして、最後のひとり。

アマンダの息が止まる。


ロクサーナ。

ランデルの妹。

『破砕のクロニクル』のメインヒロイン。


「天女のような美貌」——本の言葉。

だが、現実はそれを超える。


金色の髪。

陽光を溶かしたような輝き。

完璧な顔立ち。

彫刻家が魂を込めた傑作のよう。


そして、目。

熟したチェリーの赤。

炎のような情熱。

鋭い知性。

原作の不屈の意志が宿る。


*(生きてる……みんな、生きてる……!)*


アマンダの心が叫ぶ。

めまいが襲う。

衝撃が彼女を飲み込む。


*(私がやった。私が運命を変えた!)*


*(こいつらは、ただのキャラじゃない!)*


息をしてる。

生きてる。

本物の命だ!

2

ランデルが馬車を降りる。

広場が歓声で沸き立つ。

新たな熱狂が空を揺らす。


疲れ切った体。

包帯に巻かれた傷。

それでも、彼の歩みは揺るがない。


家族のもとへ。

数歩進み、父の前で恭しく頭を下げる。


「父上」


その声、力強く響く。


タイヴィンは無言。

手を伸ばし、息子の肩を掴む。

力強い握り。


その仕草に、すべてが込められている。

厳格な男の、抑えた愛。


言葉はない。

ただ、握力が語る。


*(生きて帰った。それだけでいい)*


その瞬間、堰が切れる。


エレオノーラが泣き声を上げる。

ランデルに飛びつく。

両腕で首を抱きしめる。


顔にキスを浴せる。


「私の子! 私の愛しい子!」


涙で声が震える。

彼女は繰り返す。


ロクサーナが続く。

落ち着いた動き。

だが、赤い瞳に涙が光る。


兄を抱きしめる。

額を肩に押し当てる。


「バカ兄貴」


囁く声。

怒りと、果てしない安堵が混じる。


「二度と、こんな心配させるなよ」


広場の民衆、熱狂する。

彼らが見るのは、ただの帰還じゃない。


公爵家の再会。

領の平穏。

希望の柱そのもの。


アマンダは馬車の中。

誰にも見えない証人。


「悲劇の序章」が、救済の物語に変わる。

彼女はそれを目の当たりにする。


*(私が……私が変えたんだ)*


その瞬間、彼女は理解する。

背負ったものの重さ。

骨の髄まで響く。


救ったのは「物語」じゃない。


この人々だ。

彼らの愛。

彼らの涙。

彼らの未来。


*(絶対に、守る)*


彼女は誓う。

二度と、奪わせない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ