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38) 森の守護者の噂

バグローサン・ホール。

大気は重い。

濃密。

乳香と冷たい石。

権力の匂い。


巨大なアーチ。

薄闇へ伸びる。

壁のモザイク。

帝国の征服がきらめく。


中央に黒曜石の台座。

そびえる。

その上に玉座。

山水晶の一枚岩。

夕暮れの光を閉じ込めたよう。


玉座に腰かける。

アエテリス・カッシウス五世皇帝。

気だるい優雅さ。

若い。

三十歳を少し超えただけ。


溶けた金の髪。

雑に、だが完璧に結い上げ。

戦神の彫像のような顔立ち。

洗練され、危険な美しさ。

高い頬骨。

まっすぐな鼻。

退屈そうな微笑みの唇。


だが、すべてが色褪せる。

彼の目の前で。

新鮮な血の色。

鮮烈で、突き刺す瞳。

温かみがない。

千年生きた老人の明晰さ。

冷たく、すべてを見通す洞察力。


(…この男、化け物だ。)


玉座の足元。

顧問や将軍たち。

豪華で厳格な軍服。

猟犬の群れのよう。


その脇、離れて立つ。

レディ・ヴィオレッタ。

貴重な護符のよう。

アメジストのドレス。

身体にぴったり。

高慢そのものの化身。


黒髪、複雑に編み上げ。

髪飾りで固定。

白い肌。

毒々しいスミレ色の瞳。

鋭い美しさ。

毒々しく、誰もが認める。


(…近づきたくないな。)


壮麗な光景の中心。

汚れた土色のマントの男。

冷たい大理石の床。

膝をつき、震える。


報告の声。

裏切りの震え。

荘厳な静寂を裂く。

途切れ途切れ。

「…そして、そのとき、彼女が現れたのです、陛下!」

「黄金の鎧をまとって!」

「ただ…手を振っただけ!」

「言葉も、巻物もなしに!」

「『紅の爪』のリーダーが…バタリと死にました!」

「それから…炎が…天から白い炎が…!」


「何!? 貴様、何だと!?」

レディ・ヴィオレッタの声。

鞭のように空気を切り裂く。

一歩踏み出す。

完璧な顔。

純粋な憤怒に歪む。


その怒り。

晴れた日の雷鳴。

彼女を一層、魅惑的に。


「そんな力、存在するはずがない!」

声が低くなる。

毒蛇のよう。

握り潰した拳。

空気が震える。

オゾンの匂い。

「私が帝国の至高の魔導師だ!」

「魔術の限界は私が知ってる!」

「そんなことを成すには、儀式、魔力の結晶、アーティファクトが必要!」

「貴様、無能を隠すために嘘をついてるな!」


スパイの震え。

今や痙攣。

額を床に押し付ける。

這うように縮こまる。


「命にかけて誓います、奥様!」

「私は見たんです!」

「彼女は自らを…森の守護者と名乗った!」


(…森の守護者?)

ホールに、凍るような静寂。


皇帝の手が上がる。

滑らか。

威厳に満ちた仕草。

たった一つ。


レディ・ヴィオレッタ、口を閉ざす。

即座に。

だが、胸はまだ怒りで上下する。


「『守護者』、か…」

カッシウスが呟く。

思索に沈む声。

ビロードのよう。

静かだが、ホール全体を満たす。

響き渡る。

「面白いな。」

「大陸全土から迷信を根絶してきたのに、こんな場所で芽吹くとは。」

「続けなさい。」


スパイ、声を絞り出す。

「彼女は…侯爵の馬車に乗り込んだんです、陛下。」

「彼は彼女に…まるで畏敬の念を抱くように接していました。」


ホールにざわめき。

経済顧問、太った男。

金糸の刺繍の豪華な上着。

驚きの声。

「ランデルが生きているだと!?」

「それは…北部の弱体化の計算をすべて崩すぞ!」


「魔術だろうが何だろうが、」

白髪の将軍。

傷だらけの顔をしかめる。

唸る。

「もしあやつがそんな同盟者を手に入れたなら、力の均衡が変わる。」

「我々は動かねばならん!」


「動く?」

ヴィオレッタ、自制を取り戻す。

鋭く切り返す。

唇に軽蔑の笑み。

「森の妖精ごときを相手に?」

「馬鹿げてるわ。」

「どうせドワーフかテンゴウから盗んだ知られざる技術よ。」

「あるいは、もっとありそうなのは――」


毒々しい視線。

スパイに突き刺さる。

「この虫が、命乞いのためにでっち上げた話!」


(…でっち上げ? いや、あの力は本物だった…。)

スパイの心、震える。


血のような赤い瞳。

ざわめく声を聞く。

皇帝、頭をゆっくり見渡す。

うつむく者たち。


玉座から立ち上がる。

音もなく。

信じられない優雅さ。


「好きに議論を続けなさい。」

声が響く。

全員、瞬時に黙る。

「君たちの推測など、風に揺れる木の葉のざわめき。」

「私が必要なのは事実だ。」


視線、レディ・ヴィオレッタへ。

「君の自信が揺らいでいるな、ヴィオレッタ。」

「それが見える。」

「そしてそれは…どんな軍事作戦よりも、面白い。」


目が滑る。

震えるスパイへ。

「この穢物を私の視界から排除しろ。」


衛兵、即座に動く。

哀れな男、ホールから引きずり出される。


「侯爵ランデルは生きている。」

カッシウス、臣下たちへ淡々と告げる。

「そして、彼に新たな…『友』ができた。」

「ただのまやかしかもしれない。」

「あるいは、それ以上の何か。」


唇に退屈そうな微笑。

だが、瞳に光る。

冷たく、獰猛な興味。


「もしこれが本当に、我々の知らぬ力だとしたら…」

「狩りが始まる。」

「今回の獲物は、ただの反逆の侯爵ではない。」

「最高の鷹を放て。」

「この『黄金の守護者』について、すべて知りたい。」

「彼女が何者か。何なのか。」

「そして、彼女の忠誠の代償が何か。」


(…狩り、か。)

ホールに、重い静寂が落ちる。

もし少しでも「続きが気になる」と思ってもらえたら、

ブックマークや評価をしてくれると、とても励みになります。


更新のやる気がぐんと上がるので、ぜひよろしくお願いします。

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