31) 「失われた家族、残された魂」
レオ、年の割に手際いい。
部屋、素早く片付ける。
ドワーフ、グイッと起こす。
無理やり、水を何杯も。
トーグリン、壁に寄りかかる。
髪、ビショビショ。
手、ガタガタ震える。
だが、なんとか――
いつもの彼、戻りつつある。
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アマンダ、気づく。
酒の酔い、じゃない。
疲れ、でもない。
トーグリンの目。
普段、炎と怒りに燃える。
今、深い空っぽさ。
焼き尽くされたみたい。
(エリス、最初に来たときの目。)
同じだ。
「トーグリン。」
アマンダ、そっと隣にしゃがむ。
静かに、切り出す。
「どうしたの? これ、ただの飲みすぎじゃないよね。」
彼、目を合わせない。
ぶっきらぼう、手を振る。
「ほっとけ、ガキ。疲れただけだ。仕事が…キツかったんだよ。」
「嘘つかないで。」
アマンダ、キッパリ。
だが、いつもの冷たさ、ない。
「あなたの目、ちゃんと見てるよ。それ、仕事の疲れなんかじゃない。」
トーグリン、立ち上がろうとする。
足、フラッと崩れる。
ドサッ、床に座り込む。
でっかい体、急に縮こまる。
小さく見える。
重いもの、背負ってるみたい。
顔、両手で覆う。
肩、ビクビク震え出す。
「奴ら…奴ら、めっちゃお前に似てたんだ…」
声、くぐもる。
ガラガラ、壊れてる。
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アマンダ、ピタッと固まる。
ドアのとこ、レオ。
息、止めたみたい。
動かない。
「俺には…家族がいた。」
トーグリン、ポツリ。
言葉、古い傷から流れ出す血。
決して癒えない。
「妻のグロルダ。笑い声、洞窟の奥まで響く。エコー起こすくらい元気だった。そんで、娘…俺の小さなナドラ。17歳くらい…人間の歳で言やあな。落ち着きなくて、好奇心旺盛。いつも炉のそば、ウロチョロ。質問ばっか…お前みたいにな。」
汚れた袖、ゴシゴシ顔を拭う。
「遠くの鉱山、仕事してた。帰ったら…俺らの小屋、燃えカスと灰。匂い…神々よ、あの匂い…」
声、ガクッと途切れる。
「遊牧民だ。隣の奴ら、言うには『赤茶のローブ』の部隊、通りかかった。なんの理由もなく。見せしめのためだけに。」
トーグリン、黙る。
静寂。
重い、途切れ途切れの吐息だけ。
「見つけたよ…燃えた抱擁の中で。グロルダ、ナドラを庇って…でも、ダメだった。」
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アマンダ、ピクリとも動かず。
パズルのピース、カチリ。
(彼の追放…ただの「異端」じゃない。)
ドワーフにとって、家族、何より大事。
心折れ、酒に溺れるドワーフ。
家を守れなかったドワーフ――
恥そのもの。
追放、アイデアのせいじゃない。
彼が「ドワーフ」じゃなくなったから。
「酒飲んで、忘れたかった。夢で、彼女たちの顔、見ないようにしたかった。」
トーグリン、囁く。
「そしたら…お前が現れた。ナドラと同じ目。あの、頑固な目。無茶な頼み事持ってくる。お前見て、思ったんだ…」
初めて、アマンダを見上げる。
目、底なしの痛み。
妙に優しい光、揺れる。
「もし、ナドラが生きてたら…きっと、お前みたいだった。怖いもんなしでさ。俺は…俺は、せめてお前に、力貸さなきゃって。」
重い、でも清々しい静けさ。
部屋に漂う。
アマンダ、ドワーフを見つめる。
でっかい体。
だが、仕事じゃない。
深い悲しみ、打ちのめす。
彼女の心――
計算と意志、ガチガチに守られた。
ふっと、揺れる。
(似てる。)
トーグリン、この残酷な世界に家族、奪われた。
アマンダも、すべて失う。
冷たい世界、放り込まれた。
ゆっくり、手を伸ばす。
彼のゴツゴツした、でかい手。
小さな手、そっと置く。
「彼女たち、絶対あなたを誇りに思うよ。」
静か、でも心から。
「あなたは、誰もできなかったものを作った。折れなかった。痛みを、すごいものに変えたんだ。」
トーグリン、じっと見る。
シワと傷、頬。
一筋、透明な涙。
スーッ、滑り落ちる。
灰と絶望、洗い流すみたい。
「ありがとう、子よ。」
声、ガラガラ。
「さあ…お前の鎧、持ってけ。行けよ。お前には変えるべき世界がある。俺は…頭ん中、片付けなきゃな。」
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アマンダ、コクン、頷く。
立ち上がる。
レオ、チラッと見る。
少年の目、新しい理解。
もっと深い。
(見たんだ。)
ただの主と職人、じゃない。
悲しみに砕かれても、戦い続ける力。
二人の人間。
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二人は小屋を出る。
手に、二つの包み。
「透明になる鎧」、じゃない。
二人共通の悲しみ。
そこから鍛えた希望、詰まってる。
アマンダ、ハッと気づく。
チーム、ただの道具、じゃない。
人間でできてる。
それが、彼女を――
めっちゃ脆く。
でも、信じられないくらい強く。
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