30) 「沈黙の鍛冶師」
トーグリンの二週間、沈黙。
アマンダの頭上に、重い雲。
疑念、内側から蝕む。
(もし彼が…至宝を手に、帝国やクランに逃げたら?)
その朝、アマンダ、レオに言う。
「今日、君は私と一緒に行く。」
声、いつもと違う。
緊張、震える。
エリス、倉庫に残す。
(自立への一歩だ。)
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小屋までの道、永遠。
アマンダ、早すぎる足取り。
レオ、ついていくのがやっと。
彼女、ノックなし。
ドア、勢いよく開ける。
工房、空っぽ。
作業台、冷えた坩堝、欠片、散乱。
ドワーフ、鎧の包み――
どこにもない。
「…いや…」
アマンダ、声が漏れる。
顔、真っ白。
「まさか、逃げた? くそ! くそくらえ!」
パニック。
抑え込んでいた感情、溢れる。
工房の1階、駆けずり回る。
道具、投げ散らす。
暗い隅、覗き込む。
息、乱れる。
目、純粋で動物的。
恐怖そのもの。
(計画、未来――すべて、崩れる。)
「ご主人様、落ち着いて…」
レオの声、静か。
だが、はっきり。
アマンダ、無視。
狂ったように探す。
「ご主人様!」
突然、レオ、一歩踏み出す。
彼女の手首、掴む。
乱暴じゃない。
確固、決然。
アマンダ、凍りつく。
ルビー色の目、大きく見開く。
レオを凝視。
「何? 『ご主人様』だと? そんな呼び方、求めてない!」
声、絶望と怒り。
高く、裏返る。
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
レオ、声も震える。
だが、鋼の強さ。
初めて、彼女に逆らう。
「あなたは俺たちに住む場所、食料、目的をくれた。あなたは俺たちのご主人様だ。でも今、まるで…子供のようにはしゃいでる! そんなんじゃ何も解決しない!」
レオの言葉、氷水のよう。
アマンダ、打たれる。
手、振りほどく。
ヒステリー、収まる。
代わり――冷たい怒り。
拳、握りしめる。
二階、居住スペースへ。
駆け上がる。
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光景、衝撃。
同時に、冷静にさせる。
トーグリン、床に倒れる。
乾いた吐瀉物、囲む。
傍ら、ずんぐりした陶器のマグ、木の小樽。
散乱。
空の酒瓶、ファンタジー版。
発酵しすぎたエールの匂い。
洗われていない虚弱の臭い。
部屋の隅。
布、丁寧に覆う。
二つの包み。
(あの鎧だ。)
アマンダ、近づく。
トーグリンの脇腹、力強く足で突く。
「トーグリン! いったい何だよ、この状況は!?」
ドワーフ、呻く。
濁った目、わずかに開く。
「…お、お前か…小娘…」
掠れた声、笑う。
「飲みすぎちまった…。当然だろ。こんな…これまでの人生で…こんな忌まわしくも美しいもん、作ったことねえ…。祝わずには…いられなかった…」
苦しげに、肘をつく。
鎧の包み、指差す。
「完成した…。持ってけ…。そして、俺を…静かに死なせてくれ…。俺は…禁忌に触れた…。それが…あまりにも壮大だった…」
アマンダ、トーグリンを見つめる。
怒り、ゆっくり溶ける。
代わり、奇妙な理解。
(裏切ったんじゃない。)
彼、発見の重さに耐えきれなかった。
自身の天才、押しつぶした。
深く、息を吸う。
レオに振り返る。
彼、敬意を保つ。
だが、緊張の面持ち。
「彼を助けて。身なりを整えて。水を探してきて。」
レオ、頷く。
無駄な言葉、なし。
動き始める。
その目、従順さ以上。
新しい何か――
責任感、宿る。
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アマンダ、包みに近づく。
そっと、触れる。
(ここにある。)
彼女の武器。
彼女の力。
その瞬間、気づく。
もう一つ。
ひょっとすると、劣らない価値。
初めての、脆い――
だが、本物の忠誠。
恐怖からじゃない。
彼女の弱さ、さらした一瞬。
レオが止めた、決意。
そこから生まれた。
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