28) 無の鎧(むのよろい)
アマンダ、倉庫を後にする。
レオとエリスを残し、別の衝動に突き動かされる。
胸、期待で高鳴る。
背筋、凍えるような恐怖。
(失敗は許されない。)
トーグリンの小屋へ急ぐ。
十分な時間が過ぎた。
ドワーフがしくじれば――
彼女の壮大な計画、始まる前に崩れる。
---
工房。
空気、熱せられた金属とオゾンの匂い。
濃密で、息が詰まる。
トーグリン、金床の前に立つ。
だが、作業はしていない。
ただ、テーブルの上を見つめる。
粗い布で覆われた――何か。
その姿勢、疲れじゃない。
畏怖だ。
アマンダが入る。
トーグリン、一言も発しない。
ゆっくり、儀式のよう。
布を剥がす。
アマンダ、凍りつく。
息、止まる。
---
テーブルの上。
ただの鎧じゃない。
「沈黙」の化身が横たわる。
騎士の重厚な鎧じゃない。
無数の板、組み合わさる。
未来の昆虫の外骨格か――
コミックの鉄のスーツのよう。
板、滑らかじゃない。
光を吸い込むマットな質感。
深い、ほぼ黒に近い真珠色。
奥に、ほのかな白い輝き。
(ミスリルとオリハルクの合金だ。)
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構造、傑作だ。
**胴体**:
体に密着。
重なり合う板。
驚異的な動きの自由度。
余分なリベット、突起、一つもない。
**兜**:
細く、流線型。
眼孔の気配すらない。
ただの滑らかな、盲目なマスク。
**手袋とブーツ**:
分割構造。
拳と足裏、目立たない強化パッド。
だが、形だけじゃない。
真の価値――
その「特性」にある。
「見せて。」
アマンダ、息を吐く。
声、かすかに震える。
トーグリン、無言。
テーブルの上のロウソクを取る。
点灯された炎。
胸当てに近づける。
炎、映る…いや、映らない。
光、マットな表面に飲み込まれる。
反射、一つもない。
次、兜にロウソクを近づける。
アマンダ、目を見張る。
壁を背景に、鎧の輪郭が揺らぐ。
歪む。
透明じゃない。
…「はっきりしない」存在。
視線、滑る。
焦点、合わせられない。
「陽光の下なら…効果はもっと強い。夜はさらに!」
トーグリン、ようやく声を絞り出す。
「透明じゃない。目に『つまらない』ものだ。脳が石や壁と同じように見ることを拒む。こいつは…『無』だ。」
アマンダ、ゆっくり手を伸ばす。
まるで恐れるように。
肩当てに触れる。
金属、驚くほど温かい。
…軽い。
まるで重さがない。
「俺…合金に月光石の欠片を少し混ぜたんだ。」
トーグリン、呟く。
自分の作品を、迷信深い恐怖の目で見つめる。
「あれが…光の魔術を乱す。歪める。これは隠れるんじゃない。…現実からの『拒絶』だ。」
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アマンダの頭、情景が浮かぶ。
彼女、この鎧をまとう。
交渉の場に立つ。
敵、目の前に華奢な少女を見るだけ。
だが、三歩先に立つ二つの影――
その輪郭、空気に溶ける。
敵、見ない。
彼女、手を振る。
敵の側近、倒れる。
彼女、旗手に目をやる。
旗竿、断ち切られる。
恐怖。
理解できない力。
絶対的で、身をすくませる恐怖。
アマンダ、マントを脱ぐ。
「これを着るの手伝って。」
装着、数分かかる。
板、カチリと音を立てる。
まるで生き物の甲殻。
湿った響き。
兜、頭に下ろされる。
外の世界、消えない。
逆だ。
マスクの内側、周囲の空間を強化した映像。
完璧に透き通ったガラス越しみたい。
アマンダ、部屋の隅へ。
埃まみれの古い鏡。
近づく。
鏡の中――「無」。
歪んだ、ぼやけたシルエット。
幽霊のような輪郭。
人型の黒い穴。
彼女だけに見えるルビー色の瞳。
闇の中で二つの炭、燃える。
絶対の虚無、唯一の基準点。
頭、動かす。
鏡の姿、揺らぐ。
ぼやけた染みに変わる。
「完璧。」
アマンダ、囁く。
兜に抑えられた声、闇そのもの。
(ルビコンを越えた。)
もうアマンダじゃない。
ライトでもない。
王や皇帝より恐れられる存在。
影で囁かれる噂。
名を持たぬもの。
兜、外す。
本物の顔――脆い。
裸のよう。
「あと二つ作って。」
アマンダ、トーグリンに言う。
声、いつもの調子。
「誰にも…一言も言うな。」
トーグリン、黙って頷く。
鏡の前の空間、さっきまで「無」がいた。
そこから目を離せない。
---
アマンダ、小屋を出る。
ドワーフを彼の「異端」と二人きりに。
彼女の手、「武器」。
(あとは、それに耐える者。狂わずにいられる者。)
見つけるだけ。
だが、時間――
急速に溶けていく。
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