27) 投資か救済か
アマンダ、二人を連れて行く。
ギルドの領地の外れ。
廃倉庫。
空気、埃と金属の匂い。
そこに、妙な静電気の気配。
「ここが君たちの新しい住処だ。」
アマンダの声、静か。
「宮殿じゃないけど、安全だよ。」
(安全――巨大な錠前と残留魔術の守り。)
彼女、それを口にしない。
レオ、黙って倉庫を見回す。
エリス、無表情。
木箱に腰を下ろす。
「力って約束したよな。」
レオの声、空腹と疲れで尖る。
「それも嘘か?」
「力は清潔さから始まる。」
アマンダ、落ち着いた口調。
嘲りはない。
「その服、君たちを晒す。恐怖と貧困の匂いがする。」
彼女、簡素だが丈夫な布の服を指す。
二組。
「着替えなさい。古いのは燃やして。」
レオ、拳を握る。
でも、すぐ肩を落とす。
(分かった。)
屈辱じゃない。
最初の教えだ。
影は匂ってはいけない。
レオ、自分で着替える。
エリスにも優しく服を着せる。
ボロ布、炎に投じる。
一瞬、立ち止まる。
くすぶる布を見つめる。
(過去を葬る。)
それがアマンダの狙いだ。
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二人、食事をする。
レオ、貪るように。
エリス、機械的に。
アマンダ、黙って見つめる。
「なんで俺たちなんだ?」
レオ、突然、皿から目を離さず。
「なんで助けるんだ?」
「助けてるんじゃない。投資してるの。」
アマンダ、正直に答える。
「それより、君たちが答えて。なんでついてきた?」
沈黙。
長く、重い。
レオ、口を開く。
最初、短い言葉。
やがて、言葉が溢れる。
襲撃の話じゃない。
母の話。
母、台所のナイフを握る。
深紅のローブの戦士に立ち向かう。
自分たちを隠す時間を作るため。
怒りを爆発させ、飛びかかる。
エリス、言うことを聞かず。
物置の隙間から――それを見ていた。
「全部見てたんだ。」
レオ、囁く。
「それ以来…彼女はここにいない。」
自分のこめかみを指す。
「俺一人になった。守るべきだったのに…できなかった。」
アマンダ、黙って聞く。
慰めない。
(彼の痛み、鋼を鍛える原料だ。)
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レオ、言葉を尽くす。
疲れ果てる。
アマンダ、立ち上がる。
「今、君たちは清められた。過去から。匂いから。幻想から。」
彼女の声、静かで鋭い。
「私が与える力は、母を蘇らせない。でも、あんなことが二度と起こらないようにする。始めよう。」
一本のロウソク。
火が灯る。
「消えることは、体から始まるんじゃない。」
アマンダ、二人を見つめる。
「君たちがこの世界にどれだけ『存在』しているか。どれだけ…目立つか。」
特定の姿勢を指示。
「今はただ座ってるだけ。壁の一部になる感覚を掴んで。影の中の影。動かないで。注意を引かないで。息さえ静かに。」
一時間。
二時間。
説教なし。
時折、修正するだけ。
「レオ、肩に力が入ってる。怒りがバレるよ。」
「エリス…いいね。」
(嘘だ。)
エリスは「いい」んじゃない。
空っぽだ。
でも、アマンダ、気づく。
レオが咳をした時。
エリスの指、微かに動く。
(火花だ。)
今はそれで十分。
「もういい。」
アマンダ、声を切る。
レオの目、空腹以上のもの。
貪欲な好奇心、宿り始める。
(理解し始めたな。)
エリス、ゆっくりレオを見上げる。
その日、初めて。
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アマンダ、出ていく。
微かに息を吐く。
二人には見えない。
彼女の手、ポケットの中でミスリルの欠片を握りしめる。
授業の厳しさ、考えてない。
折れた魂を鍛える。
公爵の運命を変える武器に。
(そして、ひょっとしたら私の運命も。)
どれだけの時間があるか――それだけを考えていた。




