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24) 奇跡の工房


数週間。

緊張感が、張り詰める。

アマンダは、影のよう。

ギルドでは、気まぐれな助言者。

トルグリンの小屋では――

本物の奇跡が、生まれる。


彼女は、彼を試す。

最初は、簡単な依頼。

刃を研ぐ。

錠を直す。

次に、ミスリルの欠片。

普通の鋼に、混ぜる。


ドワーフは、ぶつぶつ文句。

不機嫌に、唸る。

だが、その仕事――

宝石職人の、精密さ。

彼の目に、炎が宿る。

長い年月、くすぶっていた。

あの、炎だ。


質問は、しない。

余計な詮索、なし。

(これが…最高の推薦状。)

アマンダの心が、頷く。


そして、ついに。

その日が、来る。

最後の鉱石の束。

埃まみれの袋。

ただの原料じゃない。

洞窟から、持ち出した――

ミスリルの全在庫。


ドスン。

重い音。

作業台に、ぶちまける。


トルグリンが、口笛を吹く。

宝物に、手を這わせる。

「これ…全部か?」


「全部。」

アマンダの声、落ち着いている。

だが、内心――

締め付けられる、鼓動。

「これで、足りる?」


トルグリンの目が、ミスリルに注ぐ。

工房の静寂が、未来を待つ。


トルグリンが、目を閉じる。

ぶつぶつ、呟く。

指が、動く。

見えない板を、数えるように。

「貴族用のフルアーマー…裏地、篭手、完全な兜付きで…」


目を開ける。

「三セット。多くてな。」

(一切の無駄なく、失敗なしで…やれたらの話だ。)


三セット。

軍じゃない。

部隊でもない。

三人分。


アマンダの心臓、沈む。

一瞬だけ。

だが、すぐに――

頭が、回る。

新しい可能性。

三人の暗殺者。

三人の、姿の見えない指揮官。

三人の、幽霊。


「それで十分。」

きっぱり、言う。

「よく聞いて、トルグリン。伝統的な鎧の知識は、全部忘れて。」


一呼吸。

覚悟を、決める。

彼女の手。

ミスリルの輝きに、比べ――

くすんだ、緑がかった光沢。

オリハルク。

ギルドのラボから、盗んだ試料。

小さな、インゴット。


それを、置く。

白く輝くミスリルの、隣に。

そのコントラスト――

衝撃的だ。


「ただの鎧じゃない。」

声が、落ちる。

途方もない大胆さ。

囁きに、変わる。

「欲しいのは、合金。」

(この二つを…合わせたもの。)


トルグリンの目が、燃える。

工房の空気が、震える。

禁断の未来が、動き出す。


トルグリンが、二つの金属を見つめる。

最初、困惑。

次に――

高まる、恐怖。


「お前…頭イカれたか、小娘?」

息を、吐く。

「これは…帝国のオリハルクだぞ! そしてミスリル!」

(こいつらを、混ぜる?)

「無理だ! その構造…まるで氷と炎だ!」

「これは…異端だ! 俺だって…」


首を振る。

だが、視線は――

インゴットから、離れない。


「混ぜられる。」

アマンダが、切り返す。

ルビーの瞳。

別の世界の、知識。

確信が、宿る。

「鍵を見つけるだけ。配合。温度。触媒。」

(それさえあれば…)

「世界がまだ見たことのない、金属が生まれる。」

「光を、完全に通す金属。」


小屋に、静寂。

墓のような、重さ。

トルグリンが、凍りつく。

長年の鍛冶炉。

磨かれた頭脳が、動く。

古代の教条。

狂気的な挑戦。

ぶつかり合う。


「見えない…鎧?」

言葉が、漏れる。

神の名を、口にするような――

畏怖の、囁き。

「でも…何のために? 隠れるためか?」


「勝つためよ。」

アマンダの声、冷たい。

「想像して、トルグリン。」

見えない一撃。

防げない戦略。

戦場の真っただ中。

軍を率いる将軍。

矢にも、視線にも、無敵。


「あなたが作るのは、ただの鎧じゃない。」

彼女の目が、燃える。

「神話だ。あなたのクランも、帝国も超える――伝説。」


トルグリンの手が、震える。

工房の空気が、熱を帯びる。

禁断の挑戦が、火花を散らす。


トルグリンの目。

恐怖と、好奇心。

職人魂が、燃える。

誰も成し遂げたことのない偉業。

その誘惑が、せめぎ合う。


「これは…無理だ。」

弱々しく、抗う。

だが、手は――

すでに、インゴットに伸びる。

重量を、確かめる。

構造を、感じ取る。


「可能よ。」

アマンダの声、揺るがない。

彼の傷だらけの、ゴツい手。

その上に、彼女の手。

ミスリルのように、冷たい。

「そして、あなたがそれを証明する。」

(まずは…)

「小さく始めましょう。鎧じゃない。…釘を。」

「たった一本の釘を。」

「それが、あなたの目の前で消えたなら…次に進むわ。」


一歩、下がる。

伝説の二つの金属。

彼の運命。

大陸全体の、未来。

その選択を、委ねる。


「三日後に戻る。」

彼女の目が、彼を射抜く。

「決めて、トルグリン師匠。」

「このまま、鍋の修理屋で終わる?」

「それとも、生まれた時のあなた――」

「不可能を、創る者になる?」


彼女は、出て行く。

埃まみれの小屋。

トルグリンを、残す。

作業台の中心。

二つの金属。

世界を、ひっくり返す力。


その第一歩――

笑えるほど、小さい。

たった、一本の釘。


工房の静寂が、運命を待つ。

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― 新着の感想 ―
うーん(///∇///)うまい♡ ヒロインが怖じける職人に…… >『「あなたが作るのは、ただの鎧じゃない。」 彼女の目が、燃える。 「神話だ。あなたのクランも、帝国も超える――伝説。」 』 …
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