22) 冷たい計算
熱狂が、冷める。
開拓の炎が、消える。
代わりに――
冷たく、合理的な恐怖。
アマンダは、輝く岩の前に立つ。
頭が、猛烈に回る。
可能性を、計算し続ける。
「誰を頼ればいい?」
(誰を…信じられる?)
人間?
欲が深い。
誘惑に、弱すぎる。
一つのヒント。
余計な視線。
それだけで――
アイアンヘイヴン中に、噂が広がる。
フェニックス・ギルド?
表向きは、中立を装う。
でも、こんな誘惑?
(絶対に、耐えられない。)
アマンダは排除される。
洞窟は、「国有化」されるだけ。
エルフ?
ミスリルを、星の贈り物と呼ぶ。
聖なる金属。
秘密を守る、かもしれない。
でも――
帝国の「下賤な」オリハルク。
混ぜるなんて、絶対に許さない。
彼らの道は、美しい。
完璧な、アーティファクト。
一つだけ作る。
軍用の見えない鎧?
量産なんて、ありえない。
ドワーフ?
(…興味深い。)
世界最高の冶金術師。
鉱石の価値を、理解する。
職人の秘密を、死守する。
でも、頑固だ。
清廉すぎる。
世界を、白か黒かでしか見ない。
「出自不明の人間の小娘」。
ミスリルを見つけたと知ったら?
開拓者の権利を、主張する。
追い出すかもしれない。
いや、もっと悪い――
法外な対価を要求。
洞窟のすべてを、奪うかもしれない。
(誰も…信じられない。)
アマンダの目が、ミスリルを捉える。
心が、冷たく締まる。
(この鍵は、私だけで回す。)
洞窟の静寂が、彼女の決意を試す。
誰も、信じられない。
あの種族も。
この種族も。
採掘を外注?
(死の危険が、待ってるだけ。)
絶望が、忍び寄る。
その瞬間――
ランタンの光。
ミスリルの壁に、彼女の影。
アマンダの目が、止まる。
そして、閃く。
「逆から考えすぎてた。」
唇に、笑みが広がる。
ゆっくり。狡猾に。
(ミスリルを、運び出す?)
今は、必要ない。
必要なのは――
情報だ。
情報を、運び出す。
採掘団を雇う?
目立つコンベアを組む?
(注目を集めるだけ。)
そんな、愚かな真似はしない。
彼女は、別の道を選ぶ。
ハンマーとノミ。
慎重に、動く。
小さな、特徴的な試料。
数個、削り取る。
純粋なミスリルの欠片。
そして、最重要な一つ――
ミスリルが、細い糸のように。
普通の岩と、絡み合う鉱石。
(これなら…)
加工品じゃない。
鉱脈そのものの、証拠だ。
斥候の武器。
最も地味。
だが、確実。
記憶。
そして、スケッチ。
何時間も。
地形の目印。
洞窟の構造。
鉱脈の位置。
克明に、描き出す。
紙には、頼らない。
(信じられるのは、自分だけ。)
夜明け。
町へ戻る。
アマンダは、汚れている。
疲れ果てている。
だが、目だけは――
燃えるように、輝く。
ギルド? 行かない。
商人? 相手にしない。
彼女の足が向かうのは――
テンギの住む地区。
テンギ。
高尚な理念? 興味ない。
政治? 名声? どうでもいい。
彼らが求めるのは、二つ。
複雑な技術的課題。
そして、気前のいい、匿名の報酬。
その場所――
機械油の匂い。
町で一番汚い居酒屋。
「油まみれの歯車」。
そこで、彼女は見つけた。
雇ったのは、鉱夫じゃない。
機械技師だ。
みすぼらしい金塊。
(一応、持ち帰った。)
一回限りの、高額報酬。
煤にまみれた腕。
天才の輝きを宿す目。
抜け目のないテンギが、匿名依頼を引き受ける。
課題は、シンプル。
普通の岩に偽装できる。
コンパクトな、手持ちのドリル。
ダイヤモンドコーティング付き。
一人で使える。
爆音なし。
大人数の作業なし。
注目を集めず――
ミスリルを、少しずつ、採掘する装置。
(これで…始まる。)
アマンダの唇が、わずかに上がる。
テンギの目が、挑戦に光る。
居酒屋の喧騒が、彼女の策を隠す。
テンギが、依頼に取り掛かる。
アマンダは、図書館へ。
研究に戻る。
今度は、目的が明確だ。
抽象的な知識? いらない。
ターゲットは、一人の職人。
追い詰められた者。
ギルドの枠組みから、外れた者。
落ちぶれた元鍛冶師。
免許を失った、隠居の錬金術師。
金だけじゃない。
伝説の素材。
それを与える。
再起のチャンスを、差し出す。
忠誠を、買う。
(偉大な種族? もう頼らない。)
自分で、作る。
アウトローのチーム。
慎重に、選ぶ。
一人ひとりが、歯車。
全体の計画を知らない。
ただ、自分の役割を――
完璧に、こなす。
彼女の手には、鍵。
(あとは…)
静かに。
誰にも気づかれず。
その鍵が開く、扉を築く。
最初のステップ。
何トンもの鉱石じゃない。
一つだけ。
完璧な道具。
静かな、個人的な――
金の…いや、ミスリルの熱狂。
そのための、道具だ。
図書館の静寂が、彼女の策を包む。
ミスリルの輝きが、彼女の未来を照らす。




