21) 過去の記憶、未来の鍵
ヒステリーが、ようやく収まる。
目の前のミスリル。
戦略的資源。
アマンダの胸に、畏怖の念が押し寄せる。
(これを…どう使う?)
頭の中で、すでに場面が浮かぶ。
ランデル公爵の前に立つ。
ミスリルの欠片を差し出す。
自身の価値を証明する。
未来の同盟の、証。
だが――その時。
思考が、突き刺す。
記憶だ。
「クロニクル」の本じゃない。
かつての人生。
夜遅く。
モニターの光。
ファン掲示板。
「破られた天蓋のクロニクル」。
ピン留めされた、スキャンダラスなスレッド。
「独占! カゲヤマ先生の泥酔配信記録! ネタバレ喋りまくり!」
ファンは激怒していた。
結末を台無しにされた、と。
「しかし、当時のライトは違っていた。」
検事の目で、読み込む。
矛盾を探す。ヒントを探す。
カゲヤマの酔っ払った呟き。
「強すぎるラスボス」「つまんない悪役」。
グダグダ語る中で、飛び出した一言。
誰もが「戯言」と切り捨てた、狂った言葉。
「――なあ、知ってる? ロクサーヌ…あの…第五巻の錬金術女王…もっと早く全部解決できたんだよ! 俺、ヒント入れてたもん…ミスリルと…オリハルク…この配合で混ぜたら…え? 何? 言っちゃダメ? だって…それでできるんだよ! どこにもないような鎧! 見えないんだよ! 昼も夜も! 敵に見えない最強の鎧! アハハハ!」
(…見えない鎧?)
アマンダの心が、凍りつく。
(ミスリルと…オリハルク?)
記憶が、雷のように閃く。
(そんなもの…この世界に、存在するのか!?)
彼女の手が、ミスリルの欠片を握りしめる。
洞窟の闇が、彼女の鼓動を響かせる。
あの時。
そんな言葉に、意味なんてなかった。
酔っ払いの戯言。
ゲームバランスの、言い訳。
でも今――
ミスリルの鉱脈が、輝く。
洞窟の静寂。完全な闇。
その一言が、爆弾だ。
アマンダの心を、吹き飛ばす。
最初、凍りついた。
(…何?)
そして、胸の奥。
新しい音が、迸る。
ヒステリックな笑いじゃない。
嗚咽。勝利の叫び。
純粋な、狂気。
「アハハハハハハ!」
笑い声が、洞窟に轟く。
ミスリルの脈に、反響する。
「そうだよおおお! そうだ、くそくらえ! なんでダメなんだよぉ?!」
彼女は頭を抱える。
(自分の狂気…信じられない!)
オリハルク。
帝国の呪われた合金。
ファントム腐食。
彼女が「天才的に解決する」と豪語したヤツ。
(まだ根拠ゼロなのに!)
図書館で、必死に調べた。
安定剤の配合を、追い求めた金属。
この世界の、二大金属学の謎。
二つの伝説の合金。
そして――
泥酔したカゲヤマが、ポロッと漏らした。
「それらを混ぜたら、ありえないものが生まれる。」
見えない鎧。
(そんな…バカな…!)
アマンダの目が、ミスリルを捉える。
心臓が、爆発するように鳴る。
(これが…私の切り札!?)
洞窟の闇が、彼女の狂気を飲み込む。
見えない鎧。
昼も夜も、決して見えない。
完璧なスパイ。
つかみどころのない暗殺者。
幽霊のように戦場を率いる将軍。
そのための、鎧。
(これは…優位性じゃない。)
圧倒的だ。
絶対無敵の、チートコード。
そんな鎧をまとった軍。
一人の兵も失わず、どんな戦争も勝つ。
一分前。
壮大だった計画。
ランデル公爵を救う。
その後ろ盾を得る。
今――
みすぼらしい、子供の遊びだ。
(強い者の庇護? そんなもの、必要ない!)
自分で、すべてを凌駕する。
力そのものを、生み出せるのだから。
アマンダは、深く息を吸う。
狂ったように、鼓動する心。
抑えようとする。
幸福。恐怖。期待。
頬を、涙が伝う。
「よし…」
震える声。
ミスリルを、見つめる。
囁く。
「大きく賭けるよ。」
(まず…オリハルクの安定剤。)
(それから…君たち二人で、何ができる?)
(見てやる…!)
洞窟の闇が、彼女の決意を照らす。
ミスリルの輝きが、未来を切り開く。
アマンダは顔を拭う。
涙の跡が、消える。
その表情――
狂信的な決意に、固まる。
もう、単なる目標じゃない。
戦争の法則。魔法の法則。
すべてを、ひっくり返す。
使命が、そこにあった。
(最初のステップ…)
配合を見つけるだけじゃない。
誰よりも先に。
ミスリルとオリハルク。
その融合を、誰も知らないうちに。
鍵を、握る。
聖なる遺物のように。
ミスリルの欠片を、慎重に隠す。
金?
(そんなゴミ、興味ない。)
彼女が成し遂げる未来に比べれば。
無価値だ。
洞窟を出る。
その瞬間――
彼女は、もう別人だった。
相談役じゃない。
逃亡者でもない。
物語の読者でも、ない。
ありえない未来の鍵。
それを、握る者。
(そして…)
彼女は、その鍵を回す。
決意が、闇を切り裂く。
みんな、こんにちは!数日間、姿を消してごめんね。実は、ちょっとした冒険に出かけていたんだ。ゲームの世界で新しい戦略を試したり、キッチンで「見えない鎧」ならぬ、見えない料理を作ったりしていたよ。
でも、もう戻ってきた。アマンダの狂気の挑戦を一緒に追いかける準備はできている。次の章も楽しみにしていてね!




