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20) 洞窟の秘宝


洞窟の静寂が、耳を刺すようだった。

ランタンの光が闇を切り裂く。

ほのかな輝きが浮かび上がる。

黄色じゃない。銅でもない。銀でもない。

白だ。

遠い星の光のように、眩しく、冷たい白。


アマンダは凍りついた。

頭が、情報を拒絶していた。

(何…これ…?)

目を瞬かせる。一度。また一度。

幻だと、消えてほしいと願う。

だが、消えない。


岩壁から突き出ていた。

砂金じゃない。

月光色の石の脈だった。

凍てついた雷のように、岩を貫く。

内側から放つ、異世界の輝き。


喉から漏れたのは、短い音。

笑いか? 呻きか? わからない。

もう一度。

そして、止まらない。


アマンダの体が震えた。

ヒステリックな笑いが洞窟に響く。

涙が溢れる。腹が痛む。

ついに、彼女は膝をついた。


「ありえない…!」

笑い声の合間に、言葉が飛び出す。

声が震える。途切れる。

「こんな…こんなもの、ここにあるはずない…!」

(なのに、目の前にある!)


彼女の心が叫ぶ。

(これは…何!? 異世界の秘宝!?)

洞窟の闇が、彼女の笑い声を飲み込む。

それでも、月光色の輝きは消えない。



アマンダは知っていた。

覚えていた。

「クロニクル」。

ロクサーヌ姫がミスリルの鉱脈を見つけるのは、第三巻の終わり。

一年の放浪。

幾度もの敗北。

血と汗の果ての、運命の瞬間だった。


その発見はすべてを変えた。

どんな鋼も貫けない鎧。

ミスリルを聖なる金属と崇めるドワーフの山岳クラン。

ロクサーヌは彼らを味方につけた。

物語の、クライマックスで。


なのに…!

(今、ここに!?)

アマンダの心が叫ぶ。

物語の冒頭。

粗末な金だけのはずの洞窟。

ここに、ミスリルが!?


震える指が、鉱脈に伸びる。

触れた瞬間――

温かい。

陽に暖められた石じゃない。

まるで、生き物の体温だ。


「ミスリル…」

囁きが、洞窟の空気に溶ける。

その一言は、重い。

途方もない意味を帯びる。

そばに転がる金が、ただのガラクタに見えた。



ミスリル。

一オンスで、この洞窟の金全部を買える。

いや、それ以上だ。

オリハルコンより硬い。絹より軽い。

純銀より、魔法を導く。

鍛冶の聖杯。

神話の金属。ほとんど絶滅したとされる。


それが、今。

彼女の足元に。

(信じられない…)


ヒステリーが、ゆっくり収まる。

代わりに、背筋が凍る。

戦慄が、押し寄せる。

輝く鉱脈を、じっと見つめる。

アマンダの頭脳が、動き出す。

いつも通り、先を計算する。


「金なら兵を買える。ミスリルなら王国を手に入れられる。」

独り言が、ぽつりと漏れる。

(これで、すべてが変わる…)


だが、同時に。

恐ろしい危険だ。

情報が漏れたら――

大陸中の捕食者が、群がる。

帝国。ギルド。山岳クラン。傭兵団。

この岩を巡って、彼女は八つ裂きにされる。


ただ持ち去る? 無理だ。

必要なのは、計画。

複雑で、何重にも張り巡らされた。

絶対に、秘密の計画。

(どうする…どうすれば…)

洞窟の闇が、彼女の息を呑む。



アマンダは、ゆっくり立ち上がる。

笑い声は、とうに消えた。

代わりに、生まれたもの。

巨大で、すべてを飲み込む――

決意。


背囊に手を伸ばす。

金用の袋じゃない。

短剣だ。

金塊を切り出す? 違う。

細心の注意で、ミスリルの欠片を削る。

目立たない、小さな欠片。

(これで、最初のステップは十分だ。)


彼女が見つけたのは、富じゃない。

武器だ。

歴史を断ち切る、刃。

その切っ先を、最初に味わうのは――

帝国? 違う。

傲慢な使節ヴァリス? 違う。


薄暗闇の中。

彼女のルビーの瞳が、鋭く光る。


「ランデル公爵。」

欠片を隠しポケットにしまいながら、呟く。

(なんて素晴らしい試練だ…)

(お前の命に、ふさわしい報酬だ。)


洞窟の静寂が、彼女の決意を飲み込む。

ミスリルの輝きが、彼女の影を照らす。

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