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19) 「ルビーの瞳と黒い円盤」

アイアンヘイヴンの街角


アマンダの足音が、舗装された石畳に響く。

もう、迷子になった子猫じゃない。

数週間前、路地裏でガタガタ震えていた少女は消えた。

(今は違う。ちゃんと歩ける!)

ルビーのような赤い瞳が、看板や目印を鋭く捉える。

街の喧騒が、彼女の周りを包む。

輝く尖塔が空を突き刺すアイアンヘイヴン。

でも、この街には光だけじゃない。

暗い裏路地が、静かに息づいている。


「雷鎚の鉄床」


ゴツゴツした石壁の店。

ドワーフの鍛冶屋だ。

(うわ、めっちゃ暑い!)

店内に響くのは、鉄を叩く重い音。

カン! カン!

釘から魔法の剣まで、なんでも作れるらしい。

でも、問題はドワーフたちの気分。

「あ? 客か?」

髭もじゃの大男が、値踏みするようにアマンダを睨む。

(金、ちゃんと持ってるよね?)

彼女はポケットをそっと押さえた。


「銀の雫」


エルフの職人街。

空気が違う。

新鮮な木材の香り。

どこか甘い花の匂い。

(これ、なんの花だろ?)

布や革に刻まれた模様が、まるで物語を囁く。

細い指が、針を滑らせ、魔法のように布を縫う。

「へえ、人間か。珍しいね。」

エルフの職人が、微笑みながらアマンダを見上げる。

その目は、まるで彼女の心を読んでいるみたいだ。

(やば、なんか緊張する!)


「囁きのバザール」


テンジ――ゴブリンの巣窟だ。

機械の油と鉄の匂いが、鼻をつく。

ガラクタが山積み。

でも、こいつら、ただのゴブリンじゃない。

(天才、ってやつ?)

歯車やネジが、カウンターでキラキラ光る。

「オイ、人間! これ、欲しくね?」

ゴブリンが、怪しい笑顔で何かゴツい機械を差し出す。

(え、なにこれ? 爆発しないよね?)

噂じゃ、カウンターの下には「もっとヤバいもの」が隠れてるらしい。

アマンダの心臓が、ドクンと跳ねた。



ロレンツの目が、アマンダのキラキラした瞳を捉える。

(また何か企んでるな、この子)

彼はニヤリと笑い、ガイド役を買って出た。

アイアンヘイヴンの魅力を見せるのは、男の誇りだ。

「ここじゃ、力は血筋じゃない。知識から生まれるんだ。」

その言葉が、アマンダの胸に刺さる。

(本当…かも?)

エルフの記録管理者が、ドワーフの技師と図面を握り潰さんばかりに議論する。

人間の錬金術師が、テンジの露店で怪しげな試薬を値切る。

(この街、めっちゃカオス!)

アマンダは、思わず頷いていた。



アマンダの「顧問」としての地位は、もう揺るがない。

彼女が明かす「秘密」は、いつも皆を驚かせる。

魔力結晶を寄生エネルギーから浄化する方法。

よそ者の目に見えないインクの調合レシピ。

(これ、実は私も半信半疑だったんだよね…)

彼女が口頭で指示を出すたび、儀式が始まる。

ギルドの錬金術師たちが、目を輝かせ、嫉妬を滲ませながら、彼女の言葉を形にする。

「す、すごい…!」

「どうやってこんな発想を…?」

(ふふ、騙されてる!)

アマンダは内心、ニヤニヤしていた。



「見せてやれよ!」

ロレンツの声が、熱を帯びる。

彼はアマンダを、若い見習いたちが集まる実験室へ引っ張っていく。

「達人の手さばきを、こいつらに見せてやれ!」

(え、ちょっと待って!)

アマンダは目を逸らし、わざと悲しげに細い手首を撫でた。

「無理なの…」

声が、かすかに震える。

「この手は…私の家族を殺した敵が、私の才能を知って、わざと壊したの。二度とレトルトを握れないようにって。」

(はい、完璧な演技!)

嘘は、だんだん簡単になっていた。


ロレンツの目が、理解と怒りで揺れる。

(…やっちゃった?)

彼は静かに頷き、それ以上何も聞かなかった。

アマンダの作り話は、まるで本物の血と涙をまとったように、どんどんリアルになっていく。

(この街、私の舞台だね)

彼女の唇が、ほんの少しだけ、弧を描いた。



ギルドの銀行。

アマンダの個人口座に、初めての給料が振り込まれた。

ささやかな金額。

でも、完全に彼女のもの。

硬貨がカチャリと鳴る。

(これ、ただの金属じゃない)

自由の音だ。


彼女は誰にも何も言わなかった。

(黙って動く。それが一番)

街がまだ眠る早朝。

シンプルな旅装のマントを羽織る。

小さな荷物を背負う。

アマンダは門を抜けた。

煙る峰々のふもと。

西へ、歩き出す。



彼女の目的は、書物でも政治でもない。

山だ。

「年代記」に記された話。

岩の迷宮。

古い廃墟。

そこは、物語の始まりで逃亡者たちが隠れ窟を見つけた場所。

(そして、財宝…!)

滅んだ王朝の忘れられた金塊。

山のように積まれた、輝く財宝。


アマンダの足が、険しい山道を踏みしめる。

「金か…」

(愚かで、原始的だよね)

でも、万能の鍵。

帝国からの安全は買えないかもしれない。

(でも、傭兵の忠誠なら?)

情報屋の口止め。

ランデル公爵に警告を届ける、速い馬の使者。

金があれば、買える。

(全部、買える!)


彼女のルビーの瞳が、朝霧の中で鋭く光る。

(この山が、私の未来を決める)

アマンダは、一歩、また一歩と、岩の迷宮へ踏み込んだ。



アマンダの足が、岩だらけの山道を進む。

一日中、歩き続けた。

頭の中の地図を、目を閉じても思い出す。

(これ、間違ってないよね?)

陽が傾く。

山の頂が、真紅に染まる。

そして――見つけた。

岩の狭い割れ目。

ツタが垂れ下がり、隠すように絡まる。

(これだ! 「年代記」の通り!)

心臓が、ドクドクと暴れる。


彼女は体を滑り込ませる。

冷たく湿った闇。

(う、寒っ!)

旅用のランタンに火を灯す。

オレンジの光が、闇を切り裂く。



金塊は、なかった。

(え、うそ、どこ!?)

代わりに、洞窟の壁が現れる。

古代のフレスコ画。

アイアンヘイヴンの空にない、星図が輝く。

(こんなの…見たことない)

洞窟の中央。

岩の台座。

宝箱なんて、ない。

ただ、一つの物。

手のひらサイズの、黒い円盤。

銀色の点が、キラキラ瞬く。

まるで、生きているみたいだ。



(「年代記」に、こんなの書いてなかった!)

アマンダの手が、そっと伸びる。

円盤に触れる瞬間――

ビリッと、空気が震える。

低いうなり声。

目に見えない力が、彼女の指先に絡みつく。

(これ…何!?)

計画が、ガラガラと崩れる音がした。

(金じゃない。けど…これ、ヤバいものだ)

アマンダのルビーの瞳が、円盤の輝きに吸い込まれる。

「これ……何?」

彼女の声が、洞窟の闇に呑まれた。

みなさん、今回も物語を読んでくれてありがとう!

アイアンヘイヴンの冒険やキャラクターたちの葛藤を、楽しく、時にはドキドキしながら描いています。今回のエピソードで心に残ったシーンやキャラクターはありましたか? ぜひコメントで教えてください!


実は私、ネイティブじゃないので、言葉や表現がちょっと硬いところがあるかもしれません。「ここ、もっと自然に!」とか「このキャラのこんなシーンが見たい!」みたいなアイデアがあれば、気軽にシェアしてください。一緒にこの世界をさらに面白くしていきましょう!


次回も、アクションや謎が待っています。どんな展開になるか、楽しみにしていてくださいね!


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