第二十四章:娼館の夜
ミストナイトクラブの夜が始まる。アレックスは、三等客室でリリィに最後のブリーフィングを行っていた。
「ベッドの裏、ランプの傘の内側、棚の窪みに非常ベルが付いています。何かあれば、迷わず押して下さい」
アレックスが何度も説明した内容だが、リリィは真剣な表情で耳を傾けている。彼女の両手は、強く握り締められ、小刻みに震えていた。
「緊張していますか?」
アレックスの問いかけに、リリィは素直に頷く。
「少し、怖いです。」
アレックスは、震えているリリィの手をそっと包み込んだ。
「リリィさんなら、お客さんもきっと満足してくれます。それに、何かあれば僕がすぐに駆けつけます。一緒に、この夜を成功させましょう。」
アレックスの励ましに、リリィは数度の深呼吸のあと、落ち着きを取り戻した。
「はい。」
二人は客室を出た。アレックスはホールの席で待っていた常連客を呼び、リリィの待つ客室へと案内する。
「この店が再開するって聞いてから、酒もやめて金を貯めてきたんだ。今夜はたっぷりと楽しませてもらうぜ」
男は酒も入り、上機嫌だ。アレックスは、扉の前で立ち止まる。
「リリィは、お客様とのサービスは初めてになります。拙いかもしれませんが、ご了承ください」
「なに、それも娼館の楽しみってもんだ」
男は笑いながら答え、扉の前に立つリリィに視線を向けた。リリィは深々と頭を下げ、静かに言う。
「どうぞ、こちらへ……」
そう言って、リリィは男の手を取り、客室へと入っていった。扉が静かに閉められる。アレックスは、リリィの活躍を祈るように一度目を閉じ、ホールへと戻っていった。
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ホールで他の客に酒を出しながら、アレックスはひたすら時間が長く感じられた。リリィのスキルを疑ってはいないが、娼館にはトラブルが絶えない。サービスの提供時が、娼婦にとって最も危険な瞬間だ。様々な想定がアレックスの頭を巡り、彼の思考を埋めつくそうとする。
その時、ベルの音が鳴った。電話の音に似ているが、客室にある非常ベルの音だ。
瞬間、アレックスはカウンターの裏に回り、従業員階段から二階へと駆け上がった。迷わずリリィの部屋へと向かい、マスターキーを差し込み、勢いよく扉を開けた。
「リリィ!」
アレックスが叫ぶ。ベッドの上には、シーツを纏ったリリィがいた。怪我などはなさそうだが、顔からは血の気が引いている。リリィは、震える声で口を開いた。
「お客様が、最中に倒れてしまって……」
アレックスは恐る恐るベッドの向こうに回り込む。そこには、全裸の男が絶頂した状態で伸びていた。
アレックスは、暫く額を押さえた後、丁寧に男をベッドの上に寝かせると、そっと部屋を去った。
しばらくして、男が意識を取り戻した。リリィは、ベッドサイドに置いてあった水を差し出す。男はグラスを飲み干し、しばらく記憶を整理した後、大声で笑い出した。
「いやあ、年甲斐もなく盛っちまった! まさか興奮して気絶しちまうとはな!」
男は笑いながら、リリィに言った。
「お時間がまだ残っていますが、いかがしますか?」
リリィの問いかけに、男は笑いながら首を振る。
「いや、もう帰るよ。今夜は十分満足させてもらった」
男は服を着替え、帰り支度を整えたところで、財布から紙幣を取り出し、リリィに渡した。
「リリィちゃん、あんた最高だ。またよろしく頼むぜ」
男はそう言って部屋から去っていった。
リリィの初めての夜は、おそらく成功した。




