34 厄介な問題
その日、おかしな夢を見た。
『お前があの子の親父と兄貴を止めてくれたお陰で、契約が完全に死なずに済んだ。ありがとう』
「契約って、エリーゼ様のですか?」
『そうだ。契約は我らの糧。しっかりと熟成した契約を食う。それで寿命が百年延びる』
いきなり話しかけてきたこれは、多分霊峰に住む神様だろう。
「エリーゼ様の記憶がないのはどうしてですか?」
『契約が不履行だと、契約の記憶そのものを食べる。腹が減っていて、あの子が婚約を無理矢理結ばされた時に全部食べてしまった』
「え?婚約の段階で?」
『甘くてしょっぱくて……とてもうまかった』
「そうじゃなくて、食べちゃだめだったのでは……」
『そうとも言う』
しれっと言ってから続ける。
『ローエルの記憶が昨日から酷く苦い。しかし契約が不履行になったらあれを食べねばならない。食べねば次の契約が結べず飢えて死ぬ。食べたら多分口が死ぬ』
昨日、ローエル様がエリーゼ様に会うのを拒んだから、契約不履行でローエル様の記憶を食べようとしたら苦くて食べられなかったと言う事らしい。
『方法は問わない。どうか助けてくれ』
反論も何も無かった。唐突に目が覚めて、ただの夢ではなかった事だけは分かった。
声だけだったが、鮮明に記憶があるからだ。あれは神様じゃない。神様(仮)だ。
手段を選ばないと言われたので、クリス様に相談する事にした。クリス様は頭を抱えた。
「ドレス工房がエンキーとの融和になると思っていたのに……このままでは決裂しかねない」
「エリーゼ様とローエル様の縁を取り持つ事が……全てを丸く収める事になるかと思います」
「だが、エリーゼ嬢に対して縁談を取り持つ事は危険だ」
「そうですね……」
元公爵令息、そし辺境伯代理。何故あんな酷い相手ばかり騎士団長様は勧めたのか。そのせいで、エリーゼ様は人の紹介による縁談を極度に恐れている。
エリーゼ様には、見ている限り結婚願望がとても強い。あれ程婚約で嫌な思いをしていてもその気持ちは無くなっていないのだ。
自由を楽しむ私や、やりたい事に周囲を巻き込みのめり込むロザミア様とは違う。
本当に乙女な発想を持っているのだ。きっと元々の性格がそうだったのだ。それを思うと食べてしまった神様に怒りが湧く。
「その神様とやらは置いておいて、問題は……」
「騎士団長様ですか?」
「ああ、シュトラーゼ殿の縁談も無いだろう?」
辺境伯家の嫡男なのに、シュトラーゼ様は結婚そのものを避けていると言う話があると言う。
その原因も多分……。
「でも、約束をしたので、エリーゼ様の縁談には関わって来ないと思います」
「縁談を勝手に決める事はできなくても、壊す事は出来る」
クリス様の言葉に驚いてしまった。
「そこまでしますか?……しそうですね」
自分で言って即否定する。
そもそもエンキーから和睦の証として嫁いできた奥方様はピンク髪ではあるが、エリーゼ様にそっくりな美しい女性で、自ら口説き落として溺愛していたと言う。
「騎士団長殿は奥方をだんだん冷遇する様になったと聞いている。奥方が居なくなるとエリーゼ嬢に男装をさせて令嬢らしい教育を与えなかった。その辺りから、一家を怪しむ動きはあった様だ」
私もおかしいと思った。気付かない訳がないのだ。それにしても、冷遇する様になった理由は何だったのだろう。
エンキーの武官が騎士団には居る。違和感を持っているのは、主にエンキーの騎士やその家族であるらしい。ローエル様にエリーゼ様の状態が知られた以上、事実は知れ渡る。
「僕はローエル殿が、エンキーでエリーゼ嬢と婚約を認められている仲だと聞いたから、君と一緒に居る事に同意していたんだ。……まさかその中身がこれだったとなると不味い」
「もし、騎士団長様がエリーゼ様を婚約させた事で霊峰の契約が破綻したなら……」
「最悪だ。エンキーの霊峰信仰は絶対的なものだと聞く。冒涜に近い」
国が亡ぶ!とクリス様は叫んで再度頭を抱えた。
お手上げになってしまい……騎士団長様の友人だと言う王弟である閣下にクリス様が相談をした。
浪費していた王妃や公爵夫人が居なくなったのに、今度は騎士団長。……せっかくクリス様が頑張ったのに。
神様(仮)はアストラル生物です。
エンキーの能力はアストラルからの強い干渉で突然変異が起こった事が原因。身体強化と範囲限定のテレキネシスと言った感じです。(猿人に近い時代からピンクの体毛だった模様)
今から霊峰付近に住んでも同じにはなれません。
力を与えた存在と認識されているので、エンキーにとっては神様です。
エンキーの内部では幼少期からエリーゼの婚約者はローエルで、エリーゼの婚約も正しい相手ではないから居なくなったのだと解釈されています。




