29 ファッションリーダー
ロザミア様の結婚式から、数か月。
「私、人妻なの!」
ロザミア様は顔を輝かせて言う。
「そうですね」
気の無い返事をするエリーゼ様。
「あなた達とは違うの!私は人妻」
それをただ私は笑って聞く。
最近の定番だ。国母にもなれるとか、王太子妃やまもなく王妃だとかを自慢しないで、未婚の私達に「人妻」だと自慢してくるロザミア様は、微笑ましい。
ロザミア様が可愛いマウントを取る理由は、私やエリーゼ様にも「人妻」になって欲しいからだ。未婚の令嬢とでは話せない事を抱えているそうで、それをぶちまける事が出来ないのが嫌だとか。
ロザミア様がちょろい……素直な事が知れ渡っている今、狡猾な貴族と親しくなると良からぬことが起こると、オスカー殿下もクリス様も気にしている。だから私達以外とは一定の距離を置いている。
エリーゼ様と私は、気づけば社交における護衛に近い立場になっている。……エンキー族のエリーゼ様と宰相の婚約者に物申す夫人や令嬢は居ない。
そして、クリス様に頼まれた事があった。
「ドレスですか?」
「そう、過去の流行を一掃するようなデザインのドレスをエリーゼ嬢と一緒に着てくれないかな?お金をかけすぎず、貴族としての品位を保てるようなドレスだ」
「ロザミア様は何とおっしゃっていますか?」
「君のデザインを参考に、人妻らしい上品なものにするとおっしゃっていた」
(丸投げする気だ)
ロザミア様はそもそも製紙等の機械の研究者で、ドレスを着ていない事もある。動きづらいからと平民の着る様なワンピースを着ているのだ。そして元平民のオスカー殿下もそれを咎めない。
王族の居住区画からそのまま出ようとする事もあり、王宮侍女長から、物申して欲しいと懇願された事がある。
「その恰好でうっかり誘拐されたら、見つけられないかも知れませんね」
私が笑顔でそう言ってから、ロザミア様は居住区画の外へ平民ワンピースで出るのを止めたが、着るものに頓着しないのは相変わらずだ。
エリーゼ様は男装しているから、ドレスを着ていない。ロザミア様とオスカー殿下の結婚式でも男装だった。
「メイフィー、君だけが頼みだ。この国の新たなファッションリーダーになって欲しい」
朝食中の事で、ちぎっていたパンがぽちょんと音を立ててスープに落ちた。
クリス様の説明によれば、潤っていた服飾産業がここ数年で一気に廃れてしまった。国外へ出て行ったり廃業した店も多かったと言う。
しかし王太子夫妻の結婚式と言う大きなイベントが起こり、国外から戻って来た服飾関係者もいると言う。彼らは、過去の大儲けできた頃を取り戻そうと、同じような価格で同じようなものを売ろうとしていると言う。それに宝飾店や靴屋も追随していると言う。良くない事だ。
「私のドレスって……気づけばあるんですが」
母国に居た時から、ドレスを選んだことがない私にファッションリーダーは荷が重い。
「不満はある?」
「いいえ、いつも素敵なドレスばかりで届くのが楽しみです」
クリス様は少し視線を逸らして言った。
「注文しているのは僕だよ。ざっくりとした色やデザインを伝えて作ってもらっている」
言葉が出て来なくて、まじまじとクリス様を見てしまう。
「クリス様がファッションリーダーになった方が……」
「メイフィー以外にドレスを作ってもいいの?」
「それは嫌です!」
「僕も、見知らぬご令嬢の為にドレスを考えるなんて嫌だよ」
お互い、何だか気恥ずかしくなってしまう。
「コホン……この際だから、君には好きなドレスを作って欲しいんだ。君のドレスは、この国のかつての標準的なドレスの半額か、それより安いくらいなんだ」
私のドレスは他の方々の見た目はそこまで差がない。
「あの……どうしてそんなに高いのでしょうか?」
「僕は男だからね……。詳しい事はサッパリなんだ。王宮で侍女やメイドに話を聞いてみようかと思っているんだ」
「私が調べます!」
食い気味に答えてしまったが、仕方ないと思う。クリス様がわざわざ女性に話しかけると思うと嫌だったのだ。
「頼むよ。君に頼んだのは、結婚式でドレスを作るときに意見を聞きたいからというのもあるんだ。君が望むドレスにしたいんだ」
赤くなって何度も頷いた。
メイフィーはデザイナーが見繕ってくれていると思っていました。
専属侍女のミリアに「着心地はどうですか?」「色はお好きですか?」といつも聞かれていたので、それはデザイナーへ届く要望だと思っていたのですが、辿り着く場所はクリスでした。




