27 不満解消
「猿!」
ロザミア様が噴き出した。すると、応接セットのテーブルがふわりと浮く。
笑っていたロザミア様だけでなく私も驚いて目を丸くする。
「これが猿の力です。体を鍛えないと力が使えないので、身体能力も自然に高くなります」
テーブルが静かに元に戻ると、ロザミア様が青い顔をしてエリーゼ様を見る。
「私、知らなかったんだけど」
「初めて言いましたから」
「何で……今……」
「コリーヌの話をなさったからです。周知させないと、宰相様がメイフィーア様の為に連れて来た侍女であり護衛です。……不干渉がお互いの為です。悪意は辿られます」
その言葉に、控えている侍女の肩が微かに揺れた。……悪い噂でもばら蒔く予定があったのだろう。エリーゼ様が怖いからやめて欲しい。
「エンキーはこの国に屈服した訳ではありませんので、王族の専属護衛にはなりません。それはご存じですよね?」
「ええ。でもちょっとくらいいいじゃない」
「ダメです」
ロザミア様が目を丸くする。
「エリーゼ、ちょっと変わったわね」
「はい。私は自由を手に入れましたので」
そして、そこから語られたのは、あのお酒のケーキによる奇跡の話だった。
お酒を数日にわたって染みこませたケーキを食べた事で、酒精に宿る老婆の祝福が働き、父と兄が改心したと言う熱い物語が語られた。コリーヌと並んで立つハンナとすぐ側で聞く私にとって、腹筋と表情筋に力を入れる試練の時間になった。
「ずるい!私も一緒に行きたかった。そのケーキ食べたい!食べたい~!」
本気で悔しがって、ロザミア様は少し涙目になっている。
これは不味い。
このままではロザミア様は本気で国中の九十歳を迎える老人を探し出し、そのお祝いにお酒のケーキを大量生産させかねない。同じ公爵家の令嬢ではあるが、私とやる事の規模が違うのだ。
「祝福をお望みだなんて、ロザミア様は何かお困りですか?」
私がそう聞くと、ロザミア様は暗い表情で言う。
「……城の外に出たい」
まもなく結婚式を控えているロザミア様は、城の外に出られない。今、この国で最も命を狙われている人の一人だからだ。つまり、私達だけ辺境へ行っていた事で余計にその想いが加速してしまったのだ。
「庭園ではいけませんか?」
「街に行きたい。温かい食べ物が食べたい」
毒見もなしで食べられるものなんて。あるのだろうか。
王弟の娘でありながら、変わり者で王妃にも王太子にも嫌われていた時代、閣下は表舞台に出て来なかった事もあり、彼女には貴族としての価値がないとされていた。だから護衛と一緒に街を歩き、屋台の串焼きも食べていたと言う。それが食べたいらしい。
お酒のケーキも串焼きも、今の王族には難易度の高い食べ物だ。しかしこのまま放置するのは危険な気がした。
「クリス様に相談してみます」
私は早速手紙を書いて、ロザミア様の不満についてクリス様に相談した。翌朝クリス様と朝食で顔を合わせると、早速その話題になった。
「オスカーも同じ状態だ」
クリス様は、オスカー様を呼び捨てにする。何でもオスカー様からのお願いなのだそうだ。元平民の旅商人なのだから、ロザミア様以上に不満かも知れない。
「ロザミア様と意気投合したら、二人で城を抜け出しかねない」
それは何とかしなくては。
「問題は、安全性の確保なんだ」
「やはり毒……ですか」
「そうだ。結婚式の後ならまだいいんだが……今はとにかくダメなんだ。万一が起こってからでは遅いからね」
「それなら……」
私が話すと、クリス様は少し考えてから言った。
「それなら、何とかなりそうだな」
何をしたかと言うと、エリーゼ様自ら王都の外れの森で仕留めて来た雉や兎を血抜きし、庭園に突貫で作った石窯で焼いて、オスカー様とロザミア様に食べてもらったのだ。いきなりやらないと安全性が確保できないので、サプライズになった。
私とエリーゼ様が小麦粉を水でこねて、平パンも焼いた。
辺境との行き来で食べた物をヒントにしたのだが、二人はとても喜んだ。塩を振って焼いただけのお肉とパンだけなのに。
城には物凄くいい匂いが漂っていた為、その日は城下で屋台の串焼きが文官と騎士によって買いつくされてしまったそうだ。
ロザミアは食事の後で、
「お肉がおいしかったから、今日から友達。分かったわね!」
と言って、エリーゼを脱子分させました。
「メイフィーアも友達よ!……何で残念そうなのよ」




