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ずっと一緒に  作者: 川崎 春
出国編
2/18

2 デビュタント

 お父様にエスコートされて、きらびやかな大広間にやって来た。

 買ってもらったパリュールにも、シャンデリアの光が当たってキラキラしている。こんなに沢山のランプや蝋燭で明るい場所は、初めて見た。家はもっと暗い。

 それだけで、とても幸せな気分になった。お姉様のお古でもいいと思っていたけれど、新しいパリュールでここに来られて良かった。


 ドレスはクリーム色で、レースがあしらわれている。

 これは一年かけて作られているから、変更はできなかった。私は作られていた事すら伝えられていない。採寸も他のドレスのついでに密に行われていたらしい。

 このドレスはお母様がデビュタントで着たドレスの意匠と全く同じだと、会場に来ていた母方の祖父母から聞く事になった。

 何故だろう。楽しい気持ちがしぼんでしまった。


 それに気づかない祖父母は続ける。

「シルフィによく似ている。まるで二十年前に戻った様だ」

「本当に」

 それは、誉め言葉なのだろうか。でもあちらはそう思っている筈だ。

「ありがとうございます。おじい様、おばあ様」

 お礼を言うと皆満足そうにしていたが、私は少し気持ち悪くなっていた。


 その後、陛下の所へ挨拶に行った。


 国王陛下は、金髪に淡い青色の目をした優しそうな方だった。

「メイフィー嬢、大人への仲間入りおめでとう」

「ありがとうございます」

 王妃殿下は、この会場の誰よりも眩しいくらいの美貌で、満面の笑みを浮かべていた。その笑顔に何かが混ざっていて……視線が、私の横に立つお母様に向いている。


「お久しぶりね。シルフィ」

 更に何かお言葉が出ると思っていたら、陛下が王妃殿下の手を握る。すると王妃殿下の笑顔から怪しげな何かが抜け落ち、貴族の張り付けた笑みに変わった。

「ご令嬢も、楽しんでいって頂戴」

「ありがとうございます」

 挨拶はこうして無事に終わった。

 王妃様は、お母様に何を言おうとしたのだろう。……分からないけれど、陛下が止めてくれて良かったのだと思った。


 お父様とダンスをした後、皇太子のアドニス殿下とも踊った。公爵令嬢なので、デビュタントの代表として踊ったのだ。これでデビュタントのしなくてはならない事はほぼ終わった。


 安心してカラカラになった喉を果実水で潤しているとお母様が言った。

「レオニス殿下を探して御挨拶なさい」

 レオニス殿下は、第二王子殿下だ。一人で行くの?お母様は付いてきてくれそうにない。

「はい」

 でも大人しく言う事を聞く事にした。それが私のいつもだ。

 予想通り、私が歩き出してもお母様は近くのご婦人と談笑している。お父様は宰相様とお話中。お姉様も居ない。……キラキラした会場が急に色あせて見えた。


 レオニス殿下は会場のどこにも居ない。疲れた足をひきずって庭に出た。

 月明かりの中、噴水が吹き上がり、キラキラと舞っていた。

「わぁ」

 噴水は水を沢山使う贅沢なものだ。王都のパブリックガーデン以外で初めて見た。それも夜の噴水だ。


 それを眺めて楽しい気分で居られたのは一瞬だけだった。……少し先で目的の人を見つけてしまった。レオニス殿下だ。王族だけが夜会で纏う事の出来るマントが目印だから間違いない。

 レオニス殿下はお姉様と一緒に、噴水の反対側にある白いベンチに並んで座っていた。


「俺は居場所がない」

「私もですの。どれだけ優しくされても、メイフィーとの差を強く感じてしまいます」

 そう言って泣くお姉様を、レオニス殿下はじっと見つめている。

 話しかける雰囲気ではなかったので、私はそっとその場を後にした。


 会場に戻る手前に、小さなガゼボがあった。明かりがテーブルの上で灯っていて、衛兵の姿も見える。ここなら座っていても大丈夫だろう。疲れて座り込みそうだったのだ。


 私はお姉様に差をつける様な事をしていない。お古を持ち出したお母様や、私だけを連れてジュエリーショップに向かったお父様。差をつけたとすれば二人なのに、お姉様の感情は私に向く。

 世界は、お姉様やお母様中心にまわっていて、私はその動きにずっと振り回されるのだろうか。


「遠くに、行きたいな」


 パリュールも、きらびやかな広間も、王子様も噴水も……何もいらないから、ここではない何処かに行きたかった。

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