記憶8:紫の学園生活
魔力検査から数週間。魔法を使う訓練があった日は必ずお茶をするのが習慣になっていた。カフェじゃないのは魔法の訓練がほぼ毎日あるのに、私たちの財布の中身は同世代の人よりも少ないからだ。
軍事学校なので当然アルバイトは出来ないが、軍の兵士の下っ端給料が出るには出るのだ。しかし、私たちの親がどっちも子どもの口座を直接管理していて勝手に使うことが出来ない。
この年齢なら自分の口座は自分で管理するのが当たり前だと思うが、私の今までお金を使う場面がお小遣い程度で足りるくらいの額でしか使わなかったため、変更するのを思い出せないまま入学して今に至る。
明来の方は実家がお金持ちで口座をこのままにしておくのはよろしくないんじゃないかと家族会議で結論が出て、使える額が月数万になったそうだ。
そんなわけで私たちは他の訓練生よりも質素な生活を送ることになった。訓練が終わった後のお茶は寮の調理場を借りてお菓子や簡単な料理を作ったりして休憩を満喫している。
親に頼んで口座を自由にさせてもらえば解決するだろうが、料理の技能は身につけておいても問題はない。むしろ軍人になって行軍する時に料理が出来ると生活が楽になるからあればあるだけ良い。
調理場は横瀬さんから自由に使って良いと許可を得たし私は家でそこそこ料理をしてたから基礎はある。明来は料理をしたことがなくて私のお手伝いになってたけど、最近では自分で美味しい料理を作れるくらいには上達した。
どのくらい上達したかというと薄力粉と強力粉が同じ小麦粉ということを知らなかったり、生地を混ぜてもダマが毎回残ったりしていたのが、焦がさずに美味しいパンケーキ、ホットケーキ?を焼けるくらいに成長した。
あまり成長していないように感じるが焦がさずに焼くのは案外難しいもので、一々焦げてないかを見ると熱が逃げて美味しくなくなってしまう。生地の厚さとフライパンの温度を知った上で調節しないといけないから私でもたまに失敗してしまう。
「さて、明来さんに問題です。今日の訓練はいつものツラーい訓練とは違い私があからさまに喜ぶような内容です。特殊な訓練をするとだけ伝えられている明来さんの解答は何でしょう!」
「……朝から元気ですね。いつものツラーい訓練の日は遅くまで寝ているのに」
「突っ込まないで欲しかったところだけど否定はできないね」
寝坊助な私が今日に限って起きているのは、今日が学園生活で楽しみなことリスト五十五ヶ条に載ってるイベントがあるからだ。数は適当だが楽しみなことがあるのには変わりない。
このイベントの前に告知される内容は特殊な訓練というだけでその内容は一切ない。ただ気を引き締めて魔法科専用の訓練場とは違う地区にある、広めの訓練場に来いというだけだ。
訓練生へのサプライズパーティーならみんな喜ぶだろうがまだ入学してから2ヶ月しか経ってない。それでパーティーをするには盛り上がりに欠ける。
講師や教官など職員はもちろんのこと、上の訓練生に内容を聞いても教えてくれない。徹底して内容の管理が行われていて、情報が漏れたら直ぐに口止めされる。上の訓練生は秘密が漏れないよう管理する能力が求めれていて、漏らした訓練生には罰則がある。秘密にしなさいと言われていることも知られては駄目なので、難易度はかなり高く毎年罰則を受ける訓練生が数人いる。
そんなことをなぜ私が知っているかといえば健康診断の時に見学したことあるからだ。母がせっかく出し見学しないかと提案されてずっと閉じこもっているのも億劫だったので見に行った。勉強になることが多くてじっと見入っていた気がする。
開催された時は必ず見に行っていたが、健康診断も終わって任意教育の学校に入学してからは流石に見学できなくなった。少し寂しいと思ったけど学校の教育について学ぶことに必死になっていたから諦めた。時には諦めだって重要なのだ。
「とわ言っても、全くヒントが無いので答えようもありませんよ。上級生に聞いてもはぐらかすか、ほんとっぽい嘘を教えるだけなんですもの」
「そうしないと自分が痛い目に見るから答えるわけないんだけどね」
「やっぱり紫は内容を知っているんですね!なんで教えてくれないんですか!」
「私だって痛い目見たくないからだよ。だから今もこうして防音の魔術を発動しているんだし」
むぅ~と膨れっ面をしながら部屋を見渡し、魔術が発動している証拠の薄い壁を見てため息を吐く。聞かれたら不味いことだと理解したのかこれ以上は何も言及せずに部屋を出た。
私のクイズはいつの間にか立ち消えて思い出したのは訓練場に着いてからだった。
今日使う訓練場は普段魔法科も魔術科も使っていない闘技場のような形をしている。
直径百メートルほどステージに網目模様が刻まれ、円周を八等分した距離ずつ防御の魔道具が置れている。他にも魔道具はあるんだろうが見える範囲ではこの一種類だけだ。ステージの周りには芝生とコンクリートの観客席があり、ステージと比べれば手抜き感がしてしまう。
闘技場と一言で言ったのはステージと観客席があって戦う場所だからそう思ったからで、実際には野球場のグラウンドが丸くなって観客席が緩やかになった感じだ。
「訓練場まで来ましたけど、次はどうするんですか」
「並べば良いよ。魔術科の人数を知らないけど魔法科は一番端だから待ってるだけ列が分かるから」
「よく知ってますね」
「まあね〜」
訓練生たちが集まると魔術科の教官が号令をかけてくる。園原教官は暇そうに欠伸をしていて、副教官は我感せずと無視していた。
魔術科は魔法科の何倍も人数がいて、八クラスに分けて訓練している。人数の比率で言えば、こっちが一列になってあっちの一クラスが二列になっても届かないくらいにはいる。
魔法は才能が全てだから魔術科よりも圧倒的に少ないのは当たり前だけど、魔法科が人気のない兵科みたいで少し落ち込む。
「これから魔術科は六人班、魔法科は三人組をつくり魔獣と戦ってもらう。この訓練は必ずしも魔獣に勝利することが目的ではない。本格的な戦闘という貴重な体験を諸君らにしてもらうために行われているのだ。怪我をした場合には状況を見て、我々教官が戦闘を中止させ治療室に運ばせる。これによる減点等はないから安心して魔獣に向かっていけ。以上だ。何か質問はあるか」
「はい」
「質問を許可する」
「教官が介入する程の怪我とはどのくらいでしょうか」
「戦闘の続行が不可能な場合。あるいは致命的な攻撃を受ける際、防御する手段がないと判断した場合だ」
その他には魔法科と魔術科の人数比についてだったり使用可能な魔術についてだったりを質問していた。魔獣の種類に関しては受け付けられないと返して訓練生たちがざわめきだしたけど、教官の一喝で静かになった。
魔獣の種類を答えられない理由を知っている私からするとそりゃそうだと思ってしまうが、知らないと対策を取られたくないからとかが思いつくのかな。教官たちはむしろ取れるだけ取ってもらいたいと思ってそうだけど。
あぁ、組を作る人数も足りないから明来ともう一人探さないとだ。基本私たち二人で過ごしてたから他に友達とかいないんだよね。明来は誰とでも話すから誘ってくれる人はいそうだけど、私は明来以外の訓練生と話さないから二人揃っていると誘いづらい。
「あのっ!明来さんと水瀬さん、ボクが組に入っても良いでしょうか」
「えっと君、」
「槙梓さんですね。ありがとうございます、あと一人を誰にしようか迷ってたところなんです」
「えっ、あ、こちらこそ、ありがとう」
槙梓、明来は覚えているけど私の記憶の中には一切ない。訓練で見たことはあるだろうが話したこともないし魔力の性質も覚えてない。だけど今声を掛けて来てくれったのは有り難かったから、ありがとうと言っておく。
「イっ、ヒヒッ、えへへ〜」
「大丈夫ですか?体調が悪いなら教官に伝えますけど」
「あ、ああ〜大丈夫です。それよりも水瀬さんと一緒にいてください。そのほうが萌えるので。ヘヘッ」
不安だ。
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