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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
一学期
7/56

記憶7:亜来と付き添い

 日暮れ夕暮れ黄昏日の入り、日が落ちる日が沈む。



 カフェから出た時の空は太陽が西に傾き、橙色の光を一面に散りばめていた。流れる雲に反射した光が眩しく輝いて目を瞑りたくなるが、そうするにはもったいない茜色の空だった。


 雲の流れる速度は早くて同じところをじっと見つめていれば三,四秒で変わってしまう。

 雲一つ一つに一日の終わりを告げる太陽の光が映し出されて、普段は青いが今は茜の空、いつもより少しオレンジな青い空、橙に染まっては揺れる白い雲があり、見上げる私たちに平穏と哀愁を漂わせる。


 夕焼けはあまり見れないと言うから、今日頑張ったご褒美のようで嬉しくなる。御空学園で見られる風景と聞かれて答えられるものは少ない。なにせここは軍事学園なのであって観光スポットじゃない。

 海の見える展望台や星が見える山の上みたいに美しい風景が見える場所を過ごしやすいように改造したなんて場所はないのだ。


 それでも時折人が美しいと思える風景は現れるもので、この学園も例外ではない。

 ここで見れる夕焼けは条件が揃えば写真展に出しても賞を狙えるくらいには美しいもので、実際に投稿して入賞した訓練生もいるらしい。

 その後は職員にバレてカメラを取り上げられたらしいけど、入賞した写真は職員室に入るためのロビーに飾られている。私たちが入学初日に通ってきた道にあったはずだけど思い出せない。



「御空学園の寮はかなり規則が緩いですよね。門限は夜遅くで帰宅届を出すだけで、寮の中の禁止事項も基本的なことだけです。もっと厳しい規則があると思っていたので意外でした」

「軍事学園と言ったら優秀な兵士を育てるために色々と行動を制限するのが当たり前なもね。だけど御空学園は魔法科があるから規則を緩めといたほうが逆に安全なんだよ。職員の性格も経歴や評判でしっかりと判断して、心理セラピストまでとはいかないけど訓練生のメンタルケアは出来るくらいの能力がないと教官は勤められないしね」

「園原教官もタバコを吸っていたようですが優秀なんですね」

「まぁあの人は、うん。 素行は悪いけど人を見る目も能力も十分にあるし、根は善人だから困った人がいたら思わず手を差し伸べちゃうよ」

「・・・それは意外ですね」

「でしょ」



 今日の夕食はまたもやパンでがっくりと肩を落とした。対して明来は喜んでいるが私が望んでたものじゃないから憎たらしい。でも寮の食事は美味しいから勿体なくて全部食べておかわりもする。

 自分の好きな食事じゃなくても美味しいもんは美味しいし、好き嫌いして美味しいものを食べ損ねたらそれこそ勿体ない。好きな食事ばかり食べてても飽きて美味しいと感じなくなってしまうから、好きなものは時々食べるのが丁度良いのかもしれない。

 いや、ご飯メインの食事は飽きるとかじゃなくて普段から食べたいものだから別枠かもしれない。食後のデザートだったら飽きるけど主食はそう簡単には飽きないし、どれだけ食べても飽きないからこそ主食という立場にいるんだからキニシナイ。



 夕食が食べ終わったらお風呂だ。

 寮の東に後付け感が半端ない建物がくっついていて、そこが私たち女子のお風呂になる。外側にあるから露天風呂と勘違いする人もいるが、そんなことはない。

 むしろそうなってたら男子寮から魔法科魔術を使って覗き見きやってくるやつが必ず出てくる。というか昔は露天風呂形式でそういった変態が大量にいた。

 遠くを見るものや空を飛ぶもの、他人から見えなくなるもの様々あるが、そういった魔法魔術は隠密行動の上位に分類されて使うには相応の努力が必要で、変態どもは完全に努力の無駄遣いをしてる。


 見つかったら謹慎処分がくだされるが複数回発覚したら最悪退学処分になる。それでも見ようとする変態は後を絶たない。

 ならどう頑張っても見れないように箱型にして、銭湯みたいな形で使うほうが女子も安心するし、職員も男子の処理に困ることも少なくなる。

 男子の方のお風呂も露天風呂形式から銭湯に変更されて勿体ないと感じながらも絶対に今のほうが良いと思った。

 浪漫に安全は勝てなかったのだよ、男子。



「紫、お願いを聞いてもらっても良いですか。言いますね、洗いっこしましょう!」


 私は許可も承諾もしていないのに決まってしまった。洗いっこってお互いの背中を代わりばんこで洗うあれだよね。

 そんなこと生まれてこの方、一度もしたことないから困ってしまう。というかこの一週間は自分で自分の体を洗ってたんだから今日も同じで良いじゃん。


「あの、私は私で体を洗いたいんだけど」

「駄目です、今日は…風が強かったのでホコリとかゴミが多めに付いてるので、いつもよりしっかり洗うために背中を見せ合うんです。背中は手が届かなくて汚れも落ちにくですし、名案でしょう。さあさあ、私はもう脱ぎ終わりましたからシャワーの場所で待ってますね。」


 有無を言わさない物言いで熱弁したら、返事をする暇もなく扉を開けて行ってしまう。生後数ヶ月や一年ならいざ知らず、大きくなってから私の体を私以外の誰かに洗ってもらった記憶はない。いや一二回させられたかもしれないが記憶にないのでノーカンだ。

 今くらいの年齢になると家のお風呂にだって一人で入るようになるのはなぜだっけ。思春期とか二次成長とかいう名前だった気がするが、私にそういった機会は訪れたことがなく、いまだに身長も声も幼いままだ。

 反抗期もあの時期は親によく歯向かってたわぁ〜みたいな感じなら一度あるから、そこが私の反抗期だったんだろうか。


「明来〜、おまたせ〜」

「遅いですよ!紫が来るまで洗えないですから、微妙に温かい湯気を感じながら待ってたんですよ」

「髪の毛は洗えたんじゃないかな」

「…髪の毛も一緒に洗おうと思いまして」

「そっか」



 ふぅ~と湯船に浸かりながら息を漏らす。明来の洗い方はあまり上手といえるものではなかったけど、 髪の洗い方は私よりも上手くて五割増しくらいの汚れが取れた気がする。

 体の方を洗っている時に牛級と煮干しを食べたほうが大人に近づくと言われてムカッときた。言われなくとも毎日牛乳を飲んでいるし煮干しだって食べてる。他の食事だって好き嫌いなくバランスよく食べいる。けど成長が終わった体に栄養を与えたところで大した変化はないままだ。

 明来の方もきれいに洗ってあげた。結構恥ずかしかったけど、女子同士なんだから別におかしなことじゃないと気付いたから平気になった。



「―――――――」 「―――――――」

「――――――――」


 お風呂には私たち以外の人もいて、シャワーを浴びながら同じく湯船に浸かりながら他愛のない話をしている。

 明来は私の側で浸かっている。いつもはこの湯船よりも温度が低い所に浸かっているから、ゆでダコみたいに顔を真っ赤にして目をトロンとさせている。無理して私に付き合わなくてもよいのに意地を張って側にいさせてくれる。

 それが本当にありがたくて、感謝している。



「顔真っ赤だし、もう出ようか」

「キュ~」

「駄目だこりゃ」



 ゆでダコの救助は無事に終わったけど、このままにしておく訳にはいけないからどうにか締めないといけない。取り敢えずソファーに寝転しとけば冷えるかな。

 私は対面のソファーに座って冷やしている明来を見る。スヤスヤと眠っていて、まだ日が沈み切ってからそれほど経っていないため就寝するにはまだ早い時間だ。


 起こそうかな、このまま眠らせておこうかな、どっちにしようか悩んでいると後ろから声を掛けられた。


「こんばんは紫さん。明来さんが体調を崩していると聞いたので見に来ました。」

「こんばんは横瀬さん。大丈夫だよ、私と一緒に暑い湯船に浸かったせいでのぼせただけ」

「ふふっ、それなら問題はないみたいですね。・・・明来さんは紫さんのことを気に掛けているみたいですが、紫さん自身はどう思っているんですか。 明来さんは特別で天才です。努力して今を生きている紫さんとは反対にいます」

「・・・相変わらず酷いですね」

「天才たちに頑張って付いて行った娘がいましたから、紫さんの気持ちも分かるんです。だからここで学んでいた時も私を選んでいたんでしょう?」


 私は黙って明来の方に視線を移す。赤くなっていた顔はだいぶ肌色に近づいていて、深かった呼吸もいつも通りに戻っていた。


「もう寝るよ」

「まだ寝る時間には早いですが、その方が良いですね」


 明来は私の魔法検査を見て、自分自身で出来る範囲のことを精一杯してくれた。

 明来自身が魔法を使う苦痛を理解することが出来ないから、理由も知らない私の苦痛を軽減させようとしてくれた。魔法を発動させた者は過去と今の違いが明確に理解できるものが暴走の楔になる。


 明来はそれになれない。


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