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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
二学期
55/56

記憶54:紫の楽観

 私は魔道具を発動して軍人たちは魔術を発動して兵器のところまで向かう。離れた場所がキャンプ地だけど、即席の道はあるし魔力を使った移動をしているからすぐに到着して戦闘の音が聞こえてくる。


「同時交戦に入る。その間に情報共有を頼む」

「分かった」


 一人二人と戦っていた軍人が離脱していくと同時にこちらの人員が隙間を埋めるように入っていく。隊長は隊長同士で会話をしながら共同の無線に流して兄弟姉妹の情報を伝えている。私が想像していた情報共有の手段と大分違っているけど、速さと正確さで比べればこっちのほうが良いのかもしれない。


「これで俺達が集めた情報は終わりだ。他に気になることはあるか」

「いや、十分だ。基地に戻ったらゆっくり休んでくれ」

「そうしたいのは山々だがこの程度の仕事で味方の戦いをコーヒー片手に眺める趣味はないさ」

「なら小隊長にこき使われてこい」

「御免被りたいな」


 ガハハと笑う声には長い年月で築き上げた信用、信頼という言葉があるように感じた。同じ部隊の隊長同士ということで飲み会というやつをやったりしているのだろうか。戸籍の年齢が飲酒可能になったらぜひとも飲んでみたいものだ。寿命が尽きる前に。

 それとは別に困ったことに部隊の人数は同じ数で構成されていて、ただでさえ余所者で入るタイミングが分からないというのに隊員の最後の一人同士が交代して、後残すところ戦っていない隊長だけだがこちらをチラチラ見ながら様子をうかがっているだけだ。


「なあ森久保」

「なんだ」

「あの娘誰だ」

「さあな。だが、上層部からの命令で戦闘に加えるらしい」

「はぁ、なるほど?」

「困るよな。俺も困っているからちょっくら聞いてきてくれないか。戦闘に参加しないと隊員たちから後で怒られそうでよ」

「お前が行け!」


 連携の取れた部隊の中に混ざるのはとても難しいことで、私が知識のない状態で参戦しようとしても邪魔になるだけだ。だから私は支援という形で戦闘に参加しようと思っている。母だって連携の取れた部隊に異物を加えて掻き乱したいわけではないだろうし、もしかしたらそう思った可能性もあるけど、主要な目的は私の実力を知らしめることだと思う。

 今回の相手では私が有効な手段になりそうだけど、母が小隊長に命令した内容はこれが相手じゃなくても作戦と立てるほどの勢力と敵対したら私を連れて行けだった。予想の一つとしてはあっただろうけど目的のうちに入れてないはずだ。だって不確定すぎるからこれを考慮するなんて母らしくない。


「なぁ嬢ちゃん」

「成人済みです」

「そ、そうか。あ~どうやって戦うつもりだ?」

「戦闘に参加するのは連携の邪魔になるので魔道具による支援をしようと思います。します。もちろん私にしてできない方法でするつもりですよ」

「有用性は保証して良いんだな」

「はい、大丈夫です」


 軍隊が使っている魔術と私の魔道具は同じ回路魔術に属するけど仕組みは大きく異なっている。

 回路魔術の回路は基盤に意味を焼き入れることで低コストに魔術を発動できるようにしている。私の魔道具も回路を作っていることまでは同じだが、どうやって回路を焼き入れるのかで違いが出て来ている。普通の回路魔術の回路は基板に焼き入れる、つまりは二次元の回路なのだ。一次元の回路なんて以ての外だが二次元の回路も意味を込めるのには限界がある。

 回路魔術が誕生した当時よりも焼き入れの技術が上がり精度の良い回路を作れるようになったり、二次元の回路を重ねて三次元のように見なせる技術を開発したりなど日々進歩している。そして二次元回路基板の多層化ではなく三次元回路の開発試みたのが十九年前だ。今でも限定的にしか成功していない三次元回路の魔道具を汎用的に使える私の体内の魔道具は、研究所の技術以外の何かが関わっているから作動しているらしい。魔道具に焼き入れられた意味以上の現象を発動させているから、魔法が深く関係していると母は考察していた。細かに分裂されたエルメトリ鋼のブロック体を組み合わせることで、単一の意味だけで留まらず複数の意味を同時にいくつも扱える。便利な魔道具だが再現できないのが母には残念だったようで、今ではあまり興味を示していない。だけど専門職がちょこちょこ訪ねて来ては調査して帰っていく。


「魔道具、展開型、飢餓、枯衰」

「ちょいと違うんだな」

「回路魔術ということは変わりません。印術の鳳と狼を合わせるみたいな感じです」

「毛嫌いしてる二つじゃねえか。まぁ敵の妨害だったら何度でもやってくれ。この部隊に妨害の魔術が使えるやつは少ねえからな」


 回路の構造が二次元と三次元では別物として認識されるらしい。十二神獣も東部帝国時代では同時に使われていたし同じ魔術でも分類みたいなのが違えば別物になってしまう。そうなったところで重ねがけは二次元の回路魔術のままでも出来るから、効果の表記が異なるだけで効果自体は同じみたいなものだ。


「遅滞行動に影響が出ると思いますけど」

「うちは制圧や進行が主なんだ。今やってる討伐の仕事だって専門じゃねえよ」

「この仕事は討伐だけじゃないですけど」

「細けえことは良いんだよ。それに専門じゃなくたって俺達は軍人だ。命令されたことには従うさ」


 その結果として命を落とすことになっても、彼は満足できるのだろうか。彼は今まで生きてきた人生を心から幸せだったと、確信を持って言うことができるのだろうか。


「あの子の身体には私の兄弟姉妹が使われているんです。そして私の魔法は繋がりのある者を共鳴体として魔力を増幅させます。その副効果として発信源である私は共鳴体の持つ感情や知識を回収でき魔力の満ちた場所の把握が出来ます」

「子か。まあ好きにやってくれ。責任を取るのは俺じゃねえからな」


 早口ではなかったと思うが、いきなり話すには情報量が多い。会話をしながら小出しに説明していけばよかった。まあ、会話を続けるにしても話すのは苦手だし作戦の時間がないから一気に話すのも正解だったかもしれない。

 私の身体のことは秘密であっても、私の魔法については魔法保有者のデータベースに登録してあるから、誰でもとまではいかないが比較的簡単にアクセスできる。きちんと身分が保証されている人でアクセスできる権限があるなら見れる。

 戸籍と同じで家族だったら役所で謄本を貸してもらえば書かれているし、学園のデータベースに保管されている。個人情報だけど、やたらと詮索されなければお咎めはなしだ。ストーカーがいたら調べ上げられそうな管理だけど、薄いのは魔法の性質だけで性質の細かな効果や至った経緯は秘匿されている。それでも普通の人の経歴には魔法のキッカケとなった出来事が載っている可能性が高いからあまり意味がない。


「あなたは私のことをどのくらい知っているんですか?」

「全く知らんぞ。なんで施設にいたやつを任務に入れるのかさっぱりだ」

「嘘ですよね。全くなんてことはありえません。それに予想はついているでしょう?」


 隊長は一瞬考える素振りを見せると私の方に向き直って話し始めた。その顔は警戒そのものだが、瞳の奥には複雑な感情が入り乱れていて、私のことも真剣に考えてくれる優しい性根が見て取れた。だから隊長にも任命されるし部下からも慕われるんだろう。


「初めて知ったのは輪永(りんえい)大会の時だ。休暇でやることがなかったから電車に乗って御空学園の年に一度の大会を見に行ったんだよ。そこで小さかった頃のお前、って言っても身長とかは変わらないんだっけか。まぁ見かけてな、印象深かったんで帰ったらすぐに調べたよ。隣には有名な水瀬教授がいたからそっち方向から調べたけど何にもない。データ探しにはそれなりに自身があったんだが爪一枚見つけられなくてな、正直夫の方の親戚を預かってきたのかと一人で納得したよ。」

「それで次はいつ調べたの」

「二度目はお前が学校に通ってからさ。これまた凄い偶然でな、俺自身は独身の親から良い年して嫁の一つ見つけてこれないのかいと銃弾よりも手痛い攻撃を食らわされる人間なんだが、その日は葛城(かつらぎ)っつう友人が不摂生で緊急手術することになってな、そいつの娘のリレーの姿を代わりに撮ってくれないかと頼まれたわけよ。その休日でやることと言えば寝ることぐらいだったから喜んで承諾して廷回(ていかい)学校の体育祭に行ったわけで、葛城の娘が出るプログラムも終わって用事はなくなったんだがついでに見ていったんだよ。そしたらお前を見つけたってわけだ。名前も呼ばれて水瀬って苗字だから驚いたぜ、それに凄い身体能力でこりゃ良い軍人になれるなと心が踊ったさ。まあこんなわけで二度目のときには情報の秘匿も緩まっていたのもあってお前のことを知れていたのよ。葛城が諜報部隊所属ってのもあるんだがな」


 案外私のことを知っている人はいるみたいだった。それにこの人は一目見ただけで私の特異性を見破ったということだろう。決してロリコンではないと信じたい限りだが、見た目が四十を超えている年齢になっても独身なのは、僅かに本物のロリコンの可能性があるのかもしれない。

 この場では気まずくなりそうだし部下から笑われるのは本意ではないので言わないようにする。だけどこの会話の内容は戦闘記録として残っているからどの道笑いの種になってしまいそうだ。一目惚れした十歳程度の女の子のことを権力で調べて、一度は諦めたが年単位越しにあって見抜いた挙げ句調べ上げるのキモいと感じてしまう。部下から信頼はされているけどおかしなところもあった。

 それとこの人の階級はそれなりに高そうだ。おそらくこの小隊に所属している軍人の階級も高いのだろう中隊ですらなく小隊で行動しているのは特殊部隊なのもあるけど階級の人数が少ないのもありそうだ。だからって私には関係ないのだけれども、この隊長に少しばかりでも権力を持たせるのだけはやめてほしかった。階級による情報の秘匿具合や部隊や個人ごとの差はこれっぽっちも分からないが、数年前の時点でもこの隊長の階級は高かったんだろう。


「そうなんですか。…あなたみたいな人ってどのくらいいると思いますか?」

「幾人もいないんじゃないか。ただお前を見た人間の多くは違和感を持っただろうな」

「園原教官のようなことを言いますね」

「あぁ〜、あいつと俺は同級生だから同じ教官に世話になったんだよ。間違いがあるといけねえから確認するが園原司(そのはらつかさ)だよな」

「合ってますね。帰ったら同期と一緒に任務に当たったとでも言っておきますよ」

「これは秘密任務だから駄目だ」

「あら残念です」


 隊長との会話は思いの外楽しくて、つい口が軽くなってしまう。それにしても園原教官の同期と出会うことになるなんて思わなかった。おじさんだから園原さんと同じ歳くらいかと考えていたけど、まさか学園時代の同期だったとは。学園の同期だから必ずしも同じ年齢になるわけじゃないけど、園原さんもこの隊長、森久保さんも優秀な人であるはずだからきっと同じ歳だろう。

 園原さんは怪我で引退しているけど軍のエリートだと豪語していたし、その証明は母がしてくれた。森久保さんも特殊部隊の隊長を任されているから、優れた技能を持っているんだろう。小隊長の方はもっと歳をとっていたから、年功序列か経歴不足なのかもしれない。


「私のことが気になるなら園原さんに聞いてみてください。私の担当になっていたのでデータベースを調べるよりも私のことを詳しく知れますよ」

「なら久々に会ってみるかな」

「ぜひそうしてください。それと...」

「何だ?」

「見た目十歳の少女の事を知りたがるのは幼女趣味に捉えられても文句は言えないので程々にしてくださいね。私からの忠告です」

「バッ!そんなんじゃねぇよ!」

「そう信じてます」


 最後にからかうような笑みを向けて、兄弟姉妹の方へと向き直る。私にはあの子たちのことをあまり知らないけど、私が共鳴できるくらいには近しい存在だと感じている。

 私が長姉なのかと言われても返答に困ってしまう。同じ親から生まれた兄弟姉妹だとは確信を持って言えるのだけど、誰が長姉長兄で誰が末っ子なのかはよく分からない。

 きっとどうでも良いことなのだろう。私を作り出した研究所が実の父で、その技術を受け継いだ施設の連中は義理の父で、初めてこの系統のクローン技術を成功させた細胞の持ち主が母だ。培養に使われている細胞は異なっていても、それは義理の母ではなく同じ母なのだ。

 私が最も色濃く受け継いだから統べられるだけで、生まれた順序で決まる兄姉や弟妹は関係なく、強いやつが家族を仕切るだけだ。


「だから私に攻撃する悪い子たちにはお仕置きをしないとね」


 家族で喧嘩をするのは成長の役に立つが、殺してしまうくらい強く拳を振りかざすのは認められない。だから私がお仕置きをして、二度と攻撃しないように痛めつけないといけない。圧倒的な力があるから身勝手な家族は従い、私は家族を糧に命をつなぐ。

 歪んでいるけどそれが私の生き方だ。誰にも邪魔させない。


「魔法、共鳴・崩壊」


 私が空間に満ちた魔力を強く揺らすと、水槽に満たされた水のように乱雑ながらも整っていた魔力の流れは波となり、共鳴している全ての生物を内側から崩壊させていく。共鳴を防げなければこの技を防ぐことは出来ず、暴れる魔力は逆流とともに細胞を死滅させていく。


 兄弟姉妹の見上げるほどあった巨体は魔法の発動によって動きを止め、全身を痙攣(けいれん)させながら治癒を試みる。だけどその隙を見逃す軍人はいなく、魔術に当たって外側の肉が剥がれ落ちていく。

 崩壊は身体の内側の至る所から始まり、死滅し結合力を失った細胞の塊は周りの肉によって阻まれながらも、重力によって動きを阻害する重しとなっていく。


「魔術、火槍」


 隊員の一人が貫通性の高い魔術を使い、その攻撃は皮膚に浮き出た(こぶ)へと当たり、肉の壁によって阻まれていた死滅した細胞が外へと吹き出した。

 ジュオッっと一斉に細胞が焼ける音がして、困惑と不快感が隊員たちの間で広がる。

 だが兄弟姉妹も痛みと不快感で悲鳴を上げ、瘤を狙った攻撃が有効なのだと知らしめた。


「あの瘤は何だ?お前が魔法を使ってから出来始めたよな」

「死滅した細胞だよ。内側から細胞の崩壊を起こして、筋組織の破壊と単純な重り、痛みによる動きの阻害をさせて、目に見える弱点部位の生成と内側までの破壊を容易にしたんだよ」

「えげつねぇな。俺は発動しないでくれよ」

「どうかな。私が不快だと思ったら次の日の朝にドロドロの状態で発見されるかもね」

「あぁー怖えぜ」


 簡単に情報を渡しはしない。かなり限定的にしか使えなくとも秘密にすれば抑止力となってくれる。調子に乗ってあなたには使えませんよと言っていたら、私が相手に情報を渡して不利になるだけだ。そんなことはゴメンだから追及される前に家に帰りたい。

 帰ったら久しぶりに父親の作ったご飯を食べたいな。母にはよくやったと褒められるかな。紫にもしばらく会ってないから怒られるかな。

 まぁ別に、楽しみにするのは悪いことじゃないし、これも何だかんだで楽しかったから、むしろいいことばかりだ。毎日は勘弁してほしいし、ここまで大きい規模の対処は面倒だけど、たまにはこういうことがあっても良いな。

キンクリ

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