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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
二学期
50/56

記憶49:紫の魔力理論

「・・・」


コポッ


 不思議な夢を見た。

 知らない誰かの、演劇をしているような気分で人の人生の一部を見た。

 私まだカプセルの中で青色の液体に浸されている。

 さっき見たという気分はしないが、実験室にある緑色の羊水とは培養と調査で目的が違うからだろう。

 これは実験の副作用なのか、そうなればこれから何度もこの不思議な夢を見ることになる。


「サンプルが目覚めました」

「構わん実験を続けろ」

「ですが結果に変化が出る可能性もあります」

「今の検査は意識の有無で変わるものではない。今後は必要になる注意事項だが今は気にする必要はない」

「はっ、了解しました」


 背中に管が繋がれプカプカと浮かんでいる。

 私の身体はどうなっているのか、私の身体をどう扱おうとしているのか、私には分からない。

 このまま研究者の好きにされるのも癪で、抵抗をしてみるのも良いかもしれない。

 身体は注射された薬の影響かカプセルのなにかの影響か動かせない。

 魔力を動かすだけで起動できる魔道具は使えるかな。


「魔道具の起動を試みました」

「制御装置は働いているか」

「問題なく」


 魔力を使い骨と同化した魔道具を発動させようとしたが、全身から抜けるような感覚とともに発動のための文字起こしすら起動できず霧散してしまった。

 対策されていると思っていたから驚きはしないけど、ほんとに脱出はどうしようか。

 魔力を動かすだけなら気付かれないけど魔道具を起動しようとすれば装置が働いてしまう。


・・・(あぁ、そうだ)


 魔法があるじゃないか。

 ここには私の姉妹兄弟が沢山いて共鳴体には事欠かない。

 正確には共鳴体に使えそうというだけでここ数年間試していないから判断できなんだけれども。

 まぁ、何となく使える気がする。

 根拠もない自信だけど何故か自身を持って共鳴体になるといえる。

 あの記憶のせいか私に妙な自信がついた。

 あの記憶は一体誰の記憶なんだろうか。

 私自身の記憶ではないことは確かなのに、私はあれを見たことがあるというか自分自身の記憶だと感じている。

 錯覚しているだけかもしれないが、私に紐付く記憶なのには間違いない。


ピィィィッ!ピィィィッ!ピィィィッ!


「何事だ!」

「施設全体に魔力が充満しています!施設全体に急速に広がり数分後には耐久限度を超えると予測されます」

「こんな時にっ! 原因は何だ。新型兵器の暴走か?軍からの攻撃か?」

「現在調査中ですが賢者が存在するエリアが特に魔力濃度が大きいため事故ではないかと思われます」

「まずは魔力の拡散を急げ、その後に原因を調査し事態の収拾をしたまえ!」


 魔力は生物の身体から離れてしばらく経つと変化してしまう。

 だから空気中の魔力の濃度は無いのと同じだが、私の魔法で外に出たとしても変わらずに増大し続ける。

 原因箇所は私だけど魔力とかの濃度を測る機械では賢者の教育施設や居住区、生産施設に反応する。

 賢者たちに異常があるわけではないから調べた所で有力な説は出ないで徒労に終わる。

 見当違いの推論を立てている研究員を見るのは、嘲笑というか私をモノ扱いしていた人間を嘲笑うのは見ていて面白い。


「循環孔開きました。ですが魔力濃度の上昇速度のほうが早いです」

「ならば避難をしろ!研究を一時停止させヘシロンを脱出しろ」


 魔力濃度が高まれば生物は浸透圧によって崩れてしまう。

 研究員たちも自分の命は惜しいのか、集まらなかった研究員たちも研究を放り出して避難を始めた。当然私は避難の人数に入ってないから培養カプセルに入れられたまま放置していて、他の賢者も使い捨ての道具なのだから放置されているだろう。

 カプセルを破る事はできていないが魔法を使い続けていれば魔力濃度も上がり続けて戻ることは出来ない。高濃度の魔力下で行動するための防護スーツで様子見に来る可能性はあるけど、原因箇所と推測しづらい私の所に確認は、来るかな。

 案内した研究員は感が鋭いから私が原因だと気付いているかもしれない。

 落ち着いて整理してみれば私が来てからの事故だし脱走しようとしていることも分かっていた。

 まぁ、これから脱走するんだし確認に来た所で関係はあまりないかな。


「・・・」


 制御装置がまだ働いていて魔力が霧散してしまい、魔道具は起動できない。

 だけど使える魔力が増えたから制御の限界超えて魔道具を起動すれば破れるかもしれない。

 強引にやれば殆どのものは壊せるって園原さんから学んだ。

 あの人は魔術に関しては繊細だけどそれ以外のことはガサツで力で抉じ開けようとする傾向があるせいで家の中にある私物は欠けたものが多いらしい。

 筋肉の多い武術家の東雲さんは実家というかあの人の兄が開いている道場が山奥の田舎町にあって半分自給自足生活みたいな日々を過ごしていて手先が器用なんだそうだ。

 どっちもあの人達の子供に聞いたことで、その人達は家庭環境を良い方向へと影響されたと言っていた。

 幼少期の環境といえば研究所で過ごした時期になるが、今の私に大きく影響を与えた環境は母に保護されてからの日々だ。


 やっぱり閉鎖的な施設よりも沢山の人に出会える外のほうが私の性に合っている。

 研究に命を捧げている奴らが案内があって直ぐに避難できるとなれば非常用の出入り口ですよと看板がぶら下がっているのだろうか。ここに来るまでの通路でそんな物は見なかったが緊急時に発光やら音声が流れるようになっているのかもしれない。

 常日頃から道を指し示していたほうがいざという時の避難経路の思いつきも容易いと思うが、人の命を消耗品と考えている研究所だ。優秀な研究員が逃げられたらその他の手伝い役は何人死んでも構いはしないだろう。

 効率的に合理的に物事を進めるのには賛成するが、せっかくある感情を無視して行動するのは幸せになれる道を自ら潰してしまっているようで感心しない。まあ私も人を殺せる才能と性格があっても人を殺さないから似たもの同士かもしれないんだけど。

 

 それにしてもこの制御装置は優秀だ。ずっと魔力を流して負荷をかけ続けているにも関わらず故障の兆候すら発生してない。普通の魔道具だったらとっくに回路が崩壊しているのに、施設の魔道具の製作技術が優れているのか私の実力を強く置いてくれているのか使われているのは他にない一品物の魔道具だ。

 カプセルだって賢者たちの物を再利用しているわけじゃなくてガラスが分厚い別物だ。中の液体だって色が違うし賢者たちのカプセルには付いていないチューブも背中に向かって伸びている。感覚からしてチューブと外へ伸びている機械が魔道具を制限する装置だ。魔道具師の勉強はしてこなかったから見ただけで装置の仕組みや使われている魔術と科学を融合した技術の解析なんて出来ない。母だって専門分野になってくれば判別できないことが増えるくらいには難解な技術だ。

 施設の研究が賢者を作るだけのはずがないから、私が歩いた通路とは別のエリアではこういった研究が行われているのかもしれない。興味があるものと言ったら科学技術の混じらない魔道具技術か魔法に関する新たな発見だが、テロ組織の目標は魔術と科学が人類を進化させ魔法を排除することだから前者はあったとしても後者は絶対にない。分かり易い場所にあったらテロ組織としての体裁も職員たちの熱意も失せしまうから、もし存在するならこれよりも地下にあって一部の職員しか知らない秘密の研究室みたいな場所としてだけだろう。


「・・・ップ、ハッ ハァ、ハァッ 出れた」


 苦節しばしの間。正確な時間を計ることは出来なかったが、御空学園を走って一周するくらいの労力と時間がかかった気がする。着ていた服は机の影に置いてあってカプセルにいた時は見え当たらなかったから心配したがスッポンポンで施設を歩き回らずに済んだのは行幸だった。恥ずかしいし恥ずかしいから最悪の場合は魔道具で空気中からめちゃくちゃ非効率な手段で糸を作り出して編み上げようかと思っていた。

 魔力の不足はないとしても集中力のいる作業だからやることにならなくて良かった。この後のことを考えれば消耗を避けたいところだけど、素っ裸で脱走するわけにもいかない。森で暮らしていたときだって最低限の衣服は草や葉で作っていた。

 職員が使っているロッカーになら替えの衣服があるかもしれないが、賢者の衣服が収納された部屋を見つけたほうが良いかもしれない。職員となると皆大人で私と同じサイズの服は残念ながら無いかもしれないけど、賢者だったら襲撃していた個体を見た限り身長はどれも低かった。戦えるだけの性能を引き出すのに大人のサイズまで育てる必要はあまりなくて、武術だったら身長差や筋力が影響するが魔術となれば脳の演算領域が成熟していれば大人と同じ身体にしなくて良い。


「突き破る案は一旦無しにして、取り敢えずは魔法を維持しながら歩いてみるか」


 魔法を使っていれば異物の認識が早く出来るし共鳴体の位置も把握できる。無機物の偵察機とかは感知できないけど魔術と併用すれば逃れられるものは殆ど無いはずだ。魔法を使ったのが始めただから精度に関して信用はないはずなんだけど、やっぱり自分自身のものは信じられるのか確かだと感じられる。

 もっとも職員が私が脱走したことを知るのは簡単だろう。施設の角という角にセンサーが付いていて監視カメラもあるとなれば、私の魔法では妨害できない科学の力で画面越しに知られてしまう。脱走するに走られないほうが良いのだが、カプセルを壊した時点で警報が鳴るように仕込んでいると思うし施設の構造を把握していない状態でうろちょろ隠れて時間を浪費するよりも堂々と歩いて出口を探したほうが結果的に時間の短縮になる。


 時間をかければ掛けるほど魔法の維持も難しくなるし、共鳴体の賢者が抵抗したり外から人がやってくる確率も高くなる。多少のリスクには目を瞑って安定した結果を得られるように思考して行動する。研究所の誰から持っていた格言で、研究所から脱出する時にも使って御空学園で暇を持て余していた時にふと思い出して調べた。

 二十年くらい前に起業家が有名学園の卒業式に呼ばれた時に話したスピーチの一文だ。言葉は多少間違っているが似たような意味の言葉が使われていたのは確かだ。

 その人曰く、失敗と成功は表裏一体でありその時の失敗が人生においての失敗とは限らない。その逆もまた然りであり、成功は自身を破滅へと導くことさえある。だからこそ重要なのは自身が未来で生きているという確信であり、自身の過去を顧みることによる体験の実感である。この二つがあることで人間は生きることが出来るという。

 私はそこに標が必要になると思う。その人も指針に関しては話していたがよく覚えていない。あぁいらない。


「敵性存在を確認 排除します」


 私の姉妹たちはまだ眠っているのかこの場において不適切だと判断されたのか、この施設の警備用ロボットが地面を滑りながら近づいてくる。私の胴くらいまである小型の筒状で赤いランプを点滅させながらアラートを鳴らしている。


 初めは一体だけだったから魔道具一つで壊せたが、複数台が波になって襲ってくるのは消耗が大きくなって撤退を選んだ。一斉ならこちらも魔道具の範囲を拡大して発動すればよいのだが、散り散りに来られると同じ数を一気に壊すよりも魔力の消耗が増える。

 魔力が空間に充満していて私と同質の魔力なのだが、私の意思でこの魔力を扱うのはカプセルの中にいたときみたいに集中していないといけなくて、とても道を探して走って別の魔道具を起動させながら行うことは出来ない。


「敵性存在を発見」

「魔道具、展開型、疾走」


 練習すれば壁も走れる回路だが今は効果よりも時間を重視して付与している。幸いなことに警備ロボットたちの戦闘能力は低く、素のままでも捕まらないと思うが念の為に魔道具を発動させている。これで捕まりでもしたらかなり恥ずかしいし、振りほどいて逃走を再開できるけど悔しさは残る。

 警備ロボット同士が情報を連携していて私を追い込むための包囲網を作っているが、元々警備の人間と合わせて使うものなのか魔道具が探知にしか使われていなくて拘束には飛び出す有線式電気ショックが使われている。電気ショックも魔道具を使えば簡単に防げるから実際は注意を逸らすくらいだっただろう。開発者が注意を逸らすのか真面目に効果があるのかどっちを想定したかが気になるが、今は余計なことを考えるのをやめて逃げることに専念する。

 壁に書かれた避難経路の先には警備員を含めた職員がいるだろうから、それ以外の地上への道を探さないといけない。知識の回収も不十分で向こうはこっちの状況も把握して脱出のための道順も知っていて不利だがやらなければ外に出られない。

 集中すれば賢者たちからルートの知識を回収できると思うが警備ロボットが案外鬱陶しくて集中ができない。並列行動はあまり得意じゃない部類の人間で、魔道具を一度に何個も使うのだって順々に処理したものを一気に発動させているに過ぎない。だから並列処理に優れている人と比べて魔術の初動は複雑さのない、学園の魔術科の訓練生が習う程度の魔術しか発動できない。それ以前に準備していれば話は別だから、完全に不意打ちなタイミングや試合とかで事前準備が禁止の時が当てはまる。


ゴァズザァァァン


 けたたましい音が響いて施設全体が揺れた。

 共鳴した魔力には何の反応も示さなかったことから外部からの衝撃なのは確定だ。

 問題なのはテロ組織側が起こしたのか、他の組織、軍からの攻撃なのかだ。

 軍なら助かる可能性も大きくなって希望が見えてくるけど、テロ組織ならこの施設が不要になったか破棄することに決めたかで施設を自壊させて生き埋めにされるかもしれない。

 発信機は仕込まれてないから私が眠っている間にでもこの実験施設を探し当てたのかもしれない。

ののか

野の花野の香

野々花

野乃花

野ノ花

野之花

野野花


シャドウ

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