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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
二学期
39/56

記憶39:紫の裏面

 さっきまでいた軍事基地は海に関わる内容が主な仕事なため、当然軍事基地自体も海に近い。だけど津波の被害や侵食問題から避けるために周りより一段高い丘を中心に建設されている。

 基地の駐車場には朝、昨日の朝には母が機材を運んでいた大きめの車ではなく、見て分かる高級車が止まっていた。根岸さんが軍事大臣の孫として来ていないと言っていたから、母も娘ではなくて一研究者として来ているのかと思っていた。

 それに母は資料が読み終わったら私を呼んだらそそくさと帰宅の準備を始めて、途中でブランケットを回収したら外に出て駐車場に向かってしまった。この間に何も喋らなかったし私も話しかけなかったから母がこの基地に来た理由やその影響とかを一切聞き出せていない。

 まぁ運転中にたっぷりと時間があるから急いでいるのに無理に聞き出さなくても良いかなと思ったのもあるんだけど。


「御空学園まで」

「かしこまりました」

「運転手がいるんだ」

「会話に集中できるようにね」


 世間話程度なら運転中でも適当に会話できるけど、これからする話は世間話じゃ済みそうになかった。

 母は軍事大臣の娘とはいえ研究者の道を進んでいるし、じいさんが決めた婚約者を蹴って父親と結婚している。繋がりが切れたわけではないとはいえ仲が悪いのは事実で、今の母の役職や権限は自ら勝ち得たものが殆どだ。

 それなのに明らかに管轄外の軍事施設の最下層にある資料を読むのは爺さんの力が働いているとしか思えない。こういった高級車も母が使ったことは一度も見たことがないし、自分たちに護衛が付いたこともない。


「この人たちは?」

「護衛よ」

「それと監視?」

「そうね」


 はぐらかしたり驚いたりするかと思っていたけど、護衛も含めて私の周りの人間の反応は淡白で表情筋一つ身動き一つしなかった。

 秘密を守るための訓練をしているのか私が指摘するのが織り込み済みだったか、あるいはその両方か。私の疑問の何故はこれから答えてくれるのだろうか。


「質問は私と母のどちらからしようか」

「私からするわ。O型012番はこのような状況になった理由を知らないでしょうからね」

「懐かしいねその呼び方。研究所も大本の企業も全部が潰れたはずだけど、その番号で呼ぶってことは生き残りか受け継いだ人間が主犯者なのかな」

「…まずは昨日、国際的なテロ組織のアルトアプテアが新たなテロ声明を出し、それと同時にこの国で人間が溶けた化け物へと変化していく事件が多発したわ。アルトアプテアはこの化け物に愚者という名前を付け魔法使用者を周囲の見境なく襲う特性があるそうだわ。愚者の作成にあなたと根本が同じクローン作成の技術が使われていて、アルトアプテアがクローン作成の技術を知ったきっかけは生き残り、正確には研究のデータを全て持ち出した研究者が生きるためにテロ組織に情報を売り渡したことよ。そしてアルトアプテアがそのテロ組織からデータを奪い、この国の地下で研究を続行しクローンを完成させた。これを見落としていた軍の諜報部には呆れてものが言えないわね」

「被害状況は?」

「あれから断続的に溶けた肉の発生が確認されているけど、出動体制が整っているのと発生数が少ないから死亡数も少ない。法則としては魔法使用者が狙われているわね」

「子供がメインで母親はサブか。じゃあ合体したのは予想外だったのかな」

「判断するには信用のあるデータが少ないから一概には言えないわね。それとあなたが保護と監視の対象になっている理由は分かるわよね」

「まあね」


 タイタン社は生物研究の第一線だった企業で、支部の一つがクローンの研究を主に行っていた。クローン研究をする研究所は私がいたところの他にも幾つかあったらしいけど、O型が完成してからは他の研究所の機能を停止して全てのデータと人員をその研究所に移した。

 初めは技術の限界に挑戦することだったり、机上の空論か結果が不確定でしかなかった考えの実験をすることだったりと一応は健全と言えるような内容だった。私より前に死んだクローンの型のことは詳しく知らないけど、人間として生きられるクローンは私たちO型が最初の完成品だった。


「十分怪しい存在だよね」

「えぇ、頭の硬い上層部の間ではあなたがテロ組織に親心を持って反抗するんじゃないかと考えているらしくてね。私を筆頭にこの護衛たちがあなたの監視を行うことになったのよ」

「私は一番最初の試作品だよ?とりあえずクローンを作ってみようで生まれて、私以外はただの人間と変わらない身体能力で改造も魔道具の埋め込み以外はないよ」

「その魔道具に問題があるんじゃないかと考えたり、見当外れの親心を持つとか馬鹿な考えを持つ奴らなのよ」

「そんな頭の硬い奴らは私について何を命令したの?」


 外の状況をいくら知ったところで実際に行動するのは正式な軍人で、まだ軍事学園で学んでいる途中の私が戦うことはない。御空学園に溶けた肉が出現した場合は私が立たうことになるかもしれないけど、それだって園原教官や東雲教官とかが表に立って戦って他の訓練生は避難させられる。

 だから重要なのは溶けた肉の特性やテロ組織の影響を教えられることではなくて、私がこれからどうなるのかだ。危険因子として殺されるような命令は流石にしないと思うが、出自と状況を考えれば少なからず筋のある内容だ。


「・・・」

「・・・」


 それでも納得できるかは別で、私には望みがあるそれを叶えるまでは死ぬことは出来ない。もし殺されるなら研究所から逃げ出した時のような、もう一度逃亡生活を送ることになるかもしれない。普通の生活に慣れきった今からすると避けたい行動だけど生きるためなら仕方ない。

 難易度は研究所一つだった時よりも街中で軍も使える国で遥かに高いけど国外逃亡でもしてしまえばそう簡単に追っては来れない。事態が落ち着く一年や二年逃げきればシレッと家の前まで行って挨拶するのも良いな。


「現状分かっているのはアルトアプテアがまた本気じゃないこと。国民への恐怖心を植え付けている段階で、攻撃も続けて起こすわけじゃあない。だけどこのまま要求を通さなかったら全力を出すと宣言しているわね」

「そもそもテロ組織の目的も知らないし、命じられた内容は何なの」

「ああ、それは御空学園から出入り禁止よ」

「割と緩いじゃん」

「講義訓練も禁止よ」

「何それクソじゃん」


 危険人物を閉じ込めておくのに最適なのは牢屋とかの監獄だけど、テロ組織のせいで軍の人員が裂けているのとこれから冬で時期が悪いから閉じ込めておくことが出来ない。

 冬は植物が枯れて災害が増えるから、毎年多くの軍人が駆り出されて夏よりも束縛される人数が多めだ。

 戦争になったら必要最低限の人員で災害を防ぐ手段を取っても国民が納得するだろうけど、国の内側でちょっとずつ被害を出すやり方は大本を解決しないと災害とテロの二つのバランスを計るのはすごく難しい。


「寮にずっといろってこと?」

「今話した二つが命令事項だから散歩や自主訓練は制限がないことになるわね」

「能無しめ」

「文章を見た時の私の気持ちと同じね」


 だからってガバガバすぎる命令をすることはない。

 これの呆れるところは私が命令事項を守っているかを判断するのが母だということだ。母はよほどのことがない限り私の味方に付いてくれるから基本的には自由に過ごすことが出来る。

 保険というか唯一の制限は母の部下ということになっている監視する人たちが、母の報告とは別のルートで報告をするかもしれないということで、命令事項だけは解釈に歪みがない範囲で守らないといけない。

 それでも穴は多いからかなり暇になる。


「このあとは御空学園でテロ組織が壊滅するまで過ごすことになるの?」

「そうね。欲しいものがあったら私に頼みなさい。凪さんか私が暇を見つけて買ってきてあげるから」

「それじゃあ一つ目の頼みなんだけど、溶けた肉の細胞を頂戴」




 私の乗った護送車が市内に入った時刻はお昼ちょうどで、御空学園の敷地に入る時にはそこからほんの少しだけ時間が過ぎた時刻になる。時間割を考えると今は講義の時間で、あと四十分後に昼休憩だ。

 昼休憩になると訓練生たちが敷地内を歩き出してうざったいからそれまでに色々やることを済ませておきたい。明来たちへの説明は夕方に全ての内容が終わってからにするとして、そろそろ薬を飲みたい。

 特別授業の会場に置いたままにしてあった薬の束を櫻井さんが回収してくれたけど、軍事基地に持ってくることは無理だったから御空学園で待っててもらっている。


「テロ組織は私の兄弟姉妹を生み出しているのかな?」

「今のところそういった情報はないわね。ただ愚者はクローン技術を応用して人間を変異させたものだから、クローンを生み出す技術がないとは考えにくい。」

「同意見かな。それに危険度も研究所が作ってたクローンよりも高いと思うよ」

「でしょうね」


 同じ技術を持っていたとしてもその技術の使い道によって完成する作品は変わってくる。

 タイタン社が考えていたクローンの使い道は、画一的な軍人や代替が出来る軍人として売り出すことだった。そのため教育は軍事学園で行われるものに近く、寿命もそれなりに長かった。だけど絶賛活動中のテロ組織の使い道は、詳しい理念や目標は知らないけどクローンを使い潰して被害を出すことに近いだろう。

 同じクローン技術でも片方は比較的安価な人材を生み出すために使用し、もう片方は意思を持った破壊兵器を生み出すために使用している。私は安価な人材のクローンとしか戦ったことがないからテロ組織のクローンの性能を知らないけど、向こうの使い道が違うならこっちが取る対処法も変わってくる。

 戦うのは楽しみな反面、同族を殺すのは憂鬱になってくる。

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