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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
二学期
35/56

記憶35:紫と人間

 運動すれば魔術を使うよりかは少ないけど魔力を消費する。性質を持った魔力は通常の魔力よりも扱いが難しい。子供は知識があまりないから魔術の使用も難しくて魔法に変質していなくとも発動に失敗してしまう子供も多い。

 大人だったら魔力を溜め込まないようにするには魔術を発動すれば解決するけど、子供は運動して少しずつ魔力を消費していくしかない。他の手段としては魔法に変質した子供につけている放出の魔道具を使うか、魔力の操作を学んで魔術で消費するかだ。



「お前も遊んでこいよ。あいつらの面倒は俺が見てやるぜ!」

「・・・」

「怖いなら怖いって言っても良いんだぜ。なんせ俺は強いからな!」

「・・・」


 なんだコイツ。

 私がタイヤに座って子供たちを眺めてたら声掛けてきた。最初は困り事があったのかと思ったけどそうじゃないみたいだし。どうしよう、楠と柊は子供に遊び方を教えているからいないし。

 九歳にしては身長が高くて、立ち上がった私と同じくらいなんじゃないだろうか。午前の部でも全く共感してなかった子供だから、頭の方は他の子供よりもしたみたいだけど。面倒だなぁ。


「おい!なんか言えよ!」

「遊びたいんだったら仲良くしなさい」

「俺は強いだから指図すんなよ!俺がお前らを従わせるんだ!」

「・・・」


 目線を子どもに一瞬合わせたっきりコイツの話を無視したから従わなくてイライラしている。クソガキって奴はどの年齢でも面倒な奴ばかりで私の楽しさをいつだって邪魔してくる。(わめ)くと私までイライラしてくるから早急に黙って欲しい。もういっそのこと黙らせるか。


「はぁ」

「お、やっと従う気になったぁぁかっ」

「クソガキは黙ってろ」

「てめえなにすんっ」

「親、親を探すか」


 このクソガキの親は一体どんな教育をしてきたんだ。理解力も知恵も全く足りない能無しに育て上げたいわけでもないだろうに、ドンナ親にしろドンナ形にしろ親は子供に幸福を感じさせる役割があるんじゃないのか。知らないのか分からないのか、どっちにしろコイツと同じ能無しだ。


「すみません、この子供。えっと、名前なに?」

「はっ誰がいうかよ」

「この子供の親御さんは誰ですかぁ」

「あ、はい」

「時間をもらいますね」


 魔法は周りにとっても自分自身にとっても危険なものだから、傲慢さに溺れて魔法という危険物をふりかざす事はあっちゃならない。キッカケが辛いものだとしても使い道を間違えれば同情の余地はなくなってしまう。悪人にならないよう教育するのも...親の役目のはずだ。


「お名前は?」

「間鍵です。あの、息子が何かしたんでしょうか?」

「…考え方が危険です。魔法を暴力に使おうとしていて自身を強いと思い込んでいる。平たくいえば暴走する人間と同じ思考です」

「え、でも。あなたたちだって同じですよね」

「はぁ、…何故そう思うんですか」

「そうじゃないですか」

「だから何故?」

「軍人ってそうでしょう」

「・・・」


 息子と同様話が全く通じない。私は心理カウンセラーじゃないからすぐに理解して納得できる明来や楠とかの友達なら助言も簡単にできる。だけど凝り固まった歪で形容しがたい思考回路のやつの相手は経験も技術も足りてない。そもそもこういう人間が大っ嫌いだ。


「軍人ってのはあんたが思っているような戦闘が大好きな人間じゃないんだよ。魔術科ならいるかも知れないが魔法科でその考えは唾棄すべきものだ。施設の者と相談させていただきます」

「はあぁ!なんであんたみたいなチビに言われないといけないのよ!軍人は戦ってれば給料が沢山貰える夢の職業じゃない!そうなってほしいから教育してるのが間違ってるとでも言うの!?」

「…黙っ、てください。唾が飛びます」

「子供は親に尽くすべきなのよ!そのために育ててるんだから当然でしょ!あああぁーーっイライラする!イライ、ラす、るゥ?」

「! 連絡」


 間鍵と呼んだ母親は、眼下が落ちくぼみ顎の関節と顔全体の肉が紫色に溶け出し、そのおぞましい変化が体全体に同時に発生しながら服ごと溶かして、ベチャッと変色し溶解した中指と人差し指が地面に落ちた。それだけならばまだ毒や魔術と思えただろう。だがその全身が紫に変色し半分は溶解しきって跡形もない物体がボコボコと熱湯が沸き立つように膨れだし、体積は元の身体の十倍程度には肥えて醜く、ジョロジョロと体の節々から紫色の溶解液が染み出し続けて、辺りの環境をたった数瞬の間に汚染しきってしまった。人間だった物は、生命としての失敗作、劣等作、欠陥作を思わせる、おおよそ進化の道筋から辿ることはないだろう醜悪で形容しがたい姿へと変貌して、逝った。


キィィン


 価値観の合わない話に飽き飽きしている所にやって来た異常事態だからいつもより混乱が酷い。取り敢えず連絡と他の子供達の避難をさせないと。これがなんなのか明確に判断がつかない状態で刺激するのは相手の危険性を増やすだけだから、せめて母が来るまでの間周囲に被害を及ぼさない程度に避難させるに留めておく。


「紫、これはなんですか詳細を願いします!」

「避難はやってくれてるのです」


 明来たちも近くにいたから異常事態の把握も早かった。とはいえ誰も人間の変異を見てなさそうだから伝えるにしても誤解の無いようにするにはちょっと難易度が高い。人間が化け物になるなんてそんな突拍子もないこと信じられるわけがない。それと星野と柊は明来と楠が私の方に詳細を聞きに行ったのを見て、その他親御さんや遊んでいた子供たちの避難の指揮をとってくれている。


「クソガキに絡まれて親に注意したら突然変化した。理由は不明で紫の液体は溶解させて肉は膨らんだ」

「紫が何かした訳じゃないんですよね」

「面談をしたけどそれが直接の原因ではないと思う。だけど引き金になった可能性は高そう」

「うるさい声だけは聞いてたのです」

「私たちがするのは講師陣が来て魔獣らしき生物、生物かも分からない奴の分析が終わるまで刺激せずに耐えること。それと分析の役に立つ特徴だったりを纏めるくらいかな」

「分かりました。でも刺激しないってどこまでですか?」

「分からないのです」

「えっと、進行方向の誘導や液体の拡散を防ぐくらいまでかな。ヘイトをもらう行動をしないようにってことだよ」

「わたしと楠さんが苦手な行動じゃないですか」

「そうだった」


 細かい作業は避難行動を指揮している星野と柊のほうが得意だ。これは配役を間違えたかもしれないけど、あの状況だったら仲の良い明来と楠が私と一緒に対処するほうが正しい選択となっても仕方がない。

 二人とも魔法も魔術も攻撃に関しては細かな操作も可能になっているけど、今回に必要なサポートの技術は後回しになっていて習得していない。それに今日は特別授業だから最低限の魔道具しか持ってこれなくて、対処の殆どを私一人ですることになる。二人が悪いわけじゃないし、技術を学ぶ優先順位も必要性から言ったら妥当で責めることは出来ない。


「魔道具、展開型、隆起、沈下、硬化。 魔道具、展開型、渦巻」


 溶解液がこれ以上広がらないように、地面をくるぶしの位置まで隆起させて内側の地面を沈下させて解けないように固めた。溶解液と溶けた肉から放たれる悪臭も、周りの植物を枯れたせているから風の檻をつくって閉じ込めておく。

 溶けた肉は変異した直後に人間の数歩分移動をしただけでそれ以上の行動はない。このまま何も起こらずに母が対処してくれたら万事とは言わないが解決だ。そう、だったらよかったんだけどなぁ。


「俺の母ちゃんに何するんだよ!お前なんか燃えちまえ!」


 ボウっと私のいた場所が焦げ臭い匂いを出す炎に包まれた。化学物質や木材とかの匂いが入り混じった匂いと明るい赤色の炎、規模に対しての煙の少なさ、可能性の高いものは家屋の火事かな。火事でのトラウマは大脳に直接刺激される匂いと不完全燃焼の明るい炎、建物の内部見たかつ生きているなら煙の印象は少ないはずだ。

 魔法の性質は個人情報でトラウマに関わることが多いから、教える立場の私たちにも魔法型だけで詳細は教えられてない。その魔法型も不明瞭なことが多く、クソガキだったらトラウマ型が一番有力で願叶型もあるかもしれないと書かれていた。炎がトラウマになったか炎に想い焦がれたかのどっちがだろう。


「ビックリしたな」

「クソッ、もう一回。 燃えろ!燃えろ!死ね!」

「魔道具、展開型、加重」

「うぐぅ」


 どっちにしても害悪なことにわ変わりないから手っ取り早く制圧するに限る。これで肉になった母親が攻撃を仕掛けてくるかもしれないが、クソガキが魔法を乱雑に発射してくるよりかは刺激も少ないと思う。逆の可能性もあるけど、今の情報では判断がつかないからこうするしかない。


「楠、放出の魔道具を付けて」

「分かったのです」


 放出の魔道具は普段使いの良いように、その人に合った形と放出量に調節されている。だけどそれは普段の話で緊急事態には魔力を放出する機能の他に必要なものはない。明来が付けようとしているのだってクソガキが元々持っていた魔道具じゃなくて、鍵開けの職員から緊急用に渡されたものだ。

 装着のしやすい形と放出量が多く設定されているから、魔力が急に無くなって倦怠感と活力が失われていく。それでもさっきまで魔法を使っていたから放出している魔力に魔法の残滓があって、明来の魔法と楠の魔術で消火しながら抑えている。


「状況の説明をしなさい紫」

「兆候もなしに肉が溶けて膨らんであの姿になった。原因は不明だけど引き金は感情の発露かもしれない」

「全く知らない変異ね。人間が変異したことを考えると攻撃は避けたほうが良さそうね」

「法律的に?」

「あなたのことも考えて捕獲を優先しましょう」


 私が母親を変異させた可能性も周りにとっては捨てきれないし、変異したとはいえ軍人が国民を殺すのは罪が大きいからだ。戻せる手段があるとは限らないし、そもそも母親が生きているのかさえ定かじゃない。それでも捕獲するのは二度三度同じ字変異が起きたときの対処法を解析するためだ。母親へは運がなかったとでも思っておこう。


「捕獲方法はなに」

「それは軍がやるから私達は」

「もぁわあぁぅ」

「観察じゃなくて足止めね」

「動かず待っててくれれば楽だったんだけどねっ」


 溶けた肉はさっきまでも体液を垂れ流している状態から、体を地面に叩きつけながら前進して行った。溶けた肉は見る限り自重を支えられず溶解液は自身の身体も溶かし続けている。だけどその溶ける速度と潰れる速度と同じ勢いで肥大化し、結果的に動きに変化がないように見える。


「多分子供の方を目指している。意識の欠片くらいはあるのかもしれない」

「なるほどね。それじゃあその子供を誘蛾灯にして時間を稼ぎましょうか」

「子供はクソガキだよ。それに母親を見て暴走しそうになった」

「なるほどねぇ。それじゃあ紫、魔道具の出力を強めてなさい。私は魔術でサポートに徹するわ」

「了解」


ドゴォォン


「今度はなに!」

「間鍵くんが暴走しました!紫の方に向かってます!」

「濁流の魔法でも消えない火なのでぇす!」

「肉の進行速度が早まったわ」

「どうすんのよこれ!軍が来るまであと何分!」

「最低あと五分ってところね」

「おっそいなぁ!」


 親子揃って他人に迷惑しかかけない害虫共め。

 攻撃するための魔道具じゃないならいくら発動させても溶けた肉には効果が薄い。熱光の魔道具を発動できたら溶けた肉の討伐も出来るだろうけど、それは私が殺人罪で問われる可能性があって弁解もしづらい。

 クソガキは魔法が暴走してお母さん、お母さん、と言いながら肉塊になった母親の方へと歩いてくる。母親は溶けて肥大化した時に入り込んだ空気の層が、汚泥に沸き立つ泡のように鳴り響き、それが子供を求める声に感じられて気持ちが悪い。


「魔道具を止めなさい」

「なんでよ、魔力ならまだあるよ」

「打算的な問題よ。紫が足止めをしてもこの二体が衝突するまでの間に軍は捕獲が出来ない。それなら魔力を温存して衝突してから軍と一緒に捕獲作戦をするべきなのよ」


 たしかに私が足止めをしても衝突までの時間は一分程だ。それなら早急に衝突させて魔力を少しでも温存しつつ軍が来るまでの間に二体を同時に足止めすれば良い。ただし二体が衝突した時になにが起こるかが分からないという、かなり重大な不確定要素があるんだけども。



「溶けたね」

「炎はまだ消えてないわ」

「もう少し様子を見ましょう」


 炎を纏ったクソガキは撒き散らされた溶解液の水たまりに足を踏み入れた瞬間から溶け始めた。それでも歩みを止めることはなく、焦げて炭化した手を伸ばしながら溶けた肉塊の母親へと触れた。その手も腕も太ももまで溶けた足も、肥大化した肉と比べると限りなく小さく、足元と呼べるかも不明瞭な場所で全身が溶け切った。だけど纏った炎は溶けた肉の体全体に拡がり、ボコボコと汚泥の如き泡の音を加速させ、悲痛の声と歓喜の声が溶け肥大化する肉のあちこちから嘆きと叫びが、母と子の胎児いらい初めての二つの心が一つの体に存在する異常が、ここにあるという事実が、タマラなくワタシを引掻き立てる。


「おぇ」

「そこまでの”もの”なの?これは」

「凄く気持ちが悪い。これはダメだよ。人の手で作った異常だよ」

「この結果に似た実験は覚えがないわね。秘密裏にされていた研究の実験にあれらが選ばれたのかしらね」

「どうでも良いから、早くアイツを黙らせて」

「捕獲が優先と言ったじゃない。……私にはあなたの感じている声が分からないけど、ここで殺せばもっと悪くなるわよ。一つよりも全体の方が大事なのはあなたがよく知っているでしょう」

「あぁ、うん。そうだ、そうなんだよ」


 耳をふさいでも構わず響いてくる声は、私の心を掻き毟り立てて、本当に私自身のことを嫌になってくる。

 煩いと感じても止めることは出来ないから耐えるしかない。

やっと書きたかった事が叶いました。

神話生物の背景描写が使える相手がなかなか登場しませんでしたので今は嬉し歓喜の最中です。

だけどまだまだ全然怖さや恐ろしさが伝わらないし、文章も悪くて違和感とか異常さが出てきてない。

もっと練習しないといけないと再確認しました。

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