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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
二学期
33/44

記憶33:紫の準備

 朝目が覚めていつものように制服に着替えようとしたところで今日の予定を思い出した。今日は昨日買った格好良い私服を着て特別授業に行く日だ。薄くメイクもしてもらうから廊下の突き当たりにある水道で顔を洗ってタオルを濡らす。水を出すだけなら魔道具で済ませられるけど、朝は寝惚けていて出力の調整がイマイチになるから床を濡らさないように水道を使っている。


「着替え終わったらメイクをしましょうね」

「ふわぁーあ。みんなまだ寝てる時間なのに私たちだけ早いね」

「始まる時間はまだまだ全然余裕がありますけど、私たちは準備をしないとですからね」

「本当は三年がやるはずだったんだけどね」

「食中毒って怖いですねぇ」


 上級生が軒並みダウンしたせいでそのしわ寄せがこっちまで来ている。一人当たりの教える子供の人数が増えて、会場の準備も授業には参加しない三年生がするはずだった。この授業の趣旨は長く魔法を学んできた魔法科の四年生と優秀な三年が、魔法について無知な部分が多い子供に大人とは違う視点で教えることだ。その趣旨を実現するための四年生はくたばっているから、教えるどころか近づくなと言われる。

 大部分が食中毒を発症している上級生の中にも大会を優勝したキルシェとかは元気ピンピンで大丈夫と言って外に出ようとしたみたいだ。そしたら上級生担当で食中毒の疑いがあるものの同じく元気ピンピンの東雲教官が全員気絶させてベッドに運んだらしい。そこら辺の人たちは寮の庭とかで殴り合いでもやっててくれないかな。


「出発まであと何分?」

「えっと、ピッタリ一時間ですね。だけど点呼や持ち物確認がありますから早めに集合場所まで集まりましょう」

「そうだね。集合場所もある気ならそこそこ時間が掛かるしね」

「メイクも崩れないよう軽いものですし、メイク道具も持っているの心配ないですよ」


 横瀬さんはこの寮の誰よりも早く起きて各所の点検をしている。今日は授業に参加する五人だけのためにいつもより早く起きて朝食を作ってくれている。寮の調理師はまだ来る時間じゃないから私たちがお腹が空かないように簡単なものを持たせる。


「楠はもう行ってるみたいだね」

「逆に星野さんと柊さんはまだ寝ているみたいですけど」

「階段を降りてきた音がしたから、すぐに追いついてくると思うよ」


 太陽は空を照らさず月と星が代わりに空を照らしている。夜明けの時間はまだ遠く、空を焦がす灼熱もまだ見えない。木々に囲まれ葉に塞がれた林の中は月星が照らす光を拒んでいる。それでも私の胸にはミラエギの果実がぶら下がり、ランプとなって幸せに繋がる道を照らしてくれる。この道が、幸せの運命上在るかを知るすべはない。だけれども照らした道が幸せに辿り着くと信じて私は歩く。


「よし集まったのを確認しました。一応点呼を取るため呼ばれたら返事をするように」

「その前に私たちの自己紹介があるでしょう」

「ああ、そうでしたね。私は櫻井真(さくらいまこと)、普段教鞭をとることはないですが御空学園職員で、今回の特別授業でお前たちを牽引する役です」

「次は私、水瀬識(みなせしき)よ。全学年の講義を任されているからみんな馴染み深いんじゃないかしら」

「はい、最後は俺ですね。朱暁螢(あすあけほたる)という者です。今回の特別授業を発案した者で会場の所有者でもあります。妻にサボるなと怒られてみなさんの面倒を見ることとなりました。相談役の立ち位置ですのでわからないことがあったらドンドン聞いてくださいね」


 大人の自己紹介の次は櫻井さんに呼ばれた人が手を上げて参加者が全員来ているかどうかを確認した。主な参加者は二年生だから、私たち一年は終わりの方に名前が呼ばれる。そうしたら送迎のバスに乗って会場まで行く。会場についたら特別授業が始まる前までに準備を完了させないといけないから忙しくなる。



「うっぷ」

「あぁーそっか、酔いやすいんだったね。酔い止めの薬は飲んで、たよね」

「飲み、ましたね。でもやっぱり」

「気持ち悪いんだから喋らない。前の方の席に移動しよっか」

「連れてってください」

「はいはい」


 魔道具を使って気分を良くしても、酔っていることに変わりないから再発してしまう。酔いは脳が処理しきれないとか書いてあった気がするけど、詳しい原理は知らないから根本的な治療は出来ない。医学の知識が豊富な母は車で機材を運んでいるからバスには乗っていなくて聞けない。櫻井さんも朱暁さんも一般的な知識しかなくって前の方に移動してできる限り気分を悪くしないようにするしかない。


「着いたのです」

「楠は先に行ってて。私は亜来の面倒を見ながら後から付いて行くから」

「了解なのです」

「すみません、面倒をかけさせて」

「病人なんだから黙って私に面倒をかけなさい。その方が早く良くなるよ」

「ありがとうございます」


 特別授業の会場は魔術展示会で使っていた施設よりも広そうで、御空学園の独立した施設ならこれよりも大きいものはなかったはずだ。講義棟や魔術科の寮とかの複数の施設が合体している建物なら流石にこれよりも大きいけど。

 朱暁さんは体調が悪い亜来を心配して準備の仕事から外そうとしたけど、それは亜来自身が駄目だと言って回復したら手伝うことになった。もうバスには乗ってないからこれ以上酔うこともなくて、魔道具で回復させようとしたけど母に止められた。


「回復の魔道具はダメよ。酔った時は親指の爪といった一点を見つめさせて待つのが一番ね。魔道具を使った方法はしこりになるからオススメはしなわね」

「そうなんだ。……私は?」

「さあ?知らないわよ。分からないことが多すぎるて判別が付かないわね。私は準備の方に取り掛かるけど紫ちゃんはその子の側にいてあげなさい」

「言われなくとも」

「それじゃあね」


 五分ほど指先を見つめていれば亜来も体調が良くなって準備に取り掛かれるようになった。

 まずは倉庫にしまってある防水防火のカーペットを出して床全体に敷き詰めて、やって来る子供と親の人数分の椅子とその他私たちの椅子を出す。カーペットを敷く作業はあと一枚を残すだけで暇になった人たちが椅子を出し始めている。


「亜来、もう大丈夫なのですか?」

「はい、元気ですよ。十分休ませてもらいましたからみんなより多く働きますね」

「平気だとは思うけど無理はしすぎないでね」

「分かってますってば」


 椅子をすべて出し終わったら、二年生は母が車で運んできた機材を慎重に運んでいく係と会場の外の飾りつけや整備をする係に分かれて、少ない私たち一年は朱暁さんの手伝いをすることになった。そのために亜来と休んでた休憩室とは会場を挟んで反対にある事務室っぽい部屋に案内されて書類作業をすることになった。やったことなんて一度もないし、似たような作業だってないのに役に立つ気がしない。


「んまあ部屋に来てもらった訳だけどやることはないです。ただ一年生たちに休んでほしかっただけなので」

「だからって人がゲームしている所に勝手に入らないでくれる」

「歳が一緒なんだから仲良くしなさい。ただでさえ友達がいないのに人との交流もしないなんてお父さんは悲しいよ」

「いないわけじゃない、少ないだけ。部屋にいるのは良いけど話しかけないでよね」


 ソファーに寝転がってゲームしていた人は体の向きを変えてこっちを見ないようにしてきた。同じ歳っていってたから多分十九歳で、どっかの学園にでも所属しているのかな。でも今日は平日で学生は学園に通わないと出し、これに参加するのかと思ったけど年齢が高いから違うはずだ。


「あ、吸血鬼のゲームなのです」

「・・・」

「吸血が主人公だったから買ったんですけど、伝承にある吸血鬼と違って霧を出す力はないですし血を操るのも下手くそなのです。吸血鬼の力は真祖が気まぐれで与えてその復讐をするために真祖の足取りを追うんですけど最後には...」

「はぁーい楠ストップ!ネタバレは絶対にやっちゃいけないことだからね」

「…真祖がムグッ」

「駄目だよ、絶対に」

「はいなのです」

「そこの子がネタバレを止めなかったら自殺するところだったよ」

「よ、よかったですね」


 楠がネタバレしようとしたゲームは夏休みの中頃に発売したゲームで、そこまで面白くないから総売上数もあまり伸びていない。朱暁さんの娘は、私を子供扱いしたのは許さないけど、発売からそこそこの時間が経って値段が安くなったから試しに買ってみた感じだろう。

 私は入院で暇だった時に母に暇つぶしの何かが欲しいとねだって、母は病院近くある大型店に置いてあった新発売のゲームを買ってきたからプレイしてた。

 ストーリーはまあ面白かったけど操作性がかなり悪くてバグも沢山あったからストレスが溜まるから、病室を抜け出して中庭でストレッチや軽い運動なんかをして気を紛らわしていた。



「亜来ぅ、始まるまであと何時間?」

「入場が一時間後で授業の開始が二時間後ですね」

「はぁ、めっちゃ暇になるなぁ」

「授業に間に合わせてくれないほうが困りますからね。お詫びではないですが会場のものは好きに使って構わないですよ。ネットもフリーですし充電もして良いですよ」

「お父さんは金だけは持ってるからね。家だと母さんの尻に敷かれてるけど」

「御空学園で集まった時にいった通り、妻に働けと言われてしまいましてね。特別授業を計画した後は部下に任せようと考えてたんですが、見抜かれてしまい朝早くに起きて仕事することになったんです」

「家族なが良い。良いことなのです」

「はい、仲良くしているのが一番ですよね」


 亜来の家族は前に仲が良いって聞いたことあるけど、楠の家族については聞いたことあったっけな。私の家族は嫌味を堂々と言い合う仲だけど、多分これも仲が良い判定になるんだろうな。

 私も母も弟も大切なことは気持ちがしっかり伝わる時じゃないと本当の気持ちが薄れてしまう考えだから、普段から気持ちを言ってしまうのではなくて特別な時に気持ちを伝えるようにしている。マンネリとかを気にして言わないのではなくて、ケがあるからハレも輝くと思っているから普段は気持ちを伝えない。

 父親はこっちの考えじゃなくて気持ちを全力でアピールする派だけど、こっちの考え方も理解しているから特に何も言うこともなく温かい目で見てくる。仕事の関係で家にいる時間が少なかったり初めのうちは御空学園で健康診断をしていたから家族の誰よりも私と接する時間が少なくてイマイチ慣れないままだけど、私を娘のように扱ってくれるのは凄く嬉しい。

 姉妹愛どころか姉妹の仲を築くことさえ難しかった、そもそも姉妹と言ってよいのかすら釈然としない連中ばかりだったから、人と接する暖かさはとても心地が良い。私を見つけた母には毒を吐いても感謝してるし弟とに父親にだって迎え入れてくれて胸が暖かくなる。任意教育の学校では学園ほど仲の良い友達を作れなかったから御空学園での生活はとても楽しい。まだ半年だけど学校で友達だった人よりも何倍も心が弾む友達に出会えたからずっとこれが続いてほしいと願ってしまう。


「・・・」

「どうしたんですか?胸に手を当てて」

「軍人になるなら病も軽くしないとって思っただけだよ」

「たしかに数ヶ月の野営とかもありますしね」

「薬を大量に持っていく訳のは邪魔になるから定期検診はしても頻度を下げたいね」

「卒業までになんとかなると良いですね」

「そうだね。卒業までに...」

殆どの名前付き登場人物は大なり小なり設定があります。

オルカトゥルカでその設定と出すかどうかは分かりませんが、

本編に入った時に明かされるかもしれません。


まあ本編に向けて書いているので当たり前なんですけどね。

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