記憶29:紫と儀式魔術
儀式魔術とは魔力を込める技術を体系化した知恵の歯車が生み出した魔術術式で、崩壊した知恵の歯車を吸収し最も正しく知識を継承した星の果実が使用してきた術式。祭壇に捧げ物をしたり祝詞を上げたりすることで行っている儀式の持つ意味の現象を発動させる魔術。祭壇の規模が大きく捧げ物の質が良いほど発動できる魔術も伴って良く大きくなっていくとされていた。現在では回路魔術の登場や魔力効率の悪さ、手順の多さなどが原因で使われない。
東部呪術の印術は物に印を付与することで、印の持つ意味が物に宿るといったもの。炎の印を剣に付与したらその剣は炎のように熱くなったり燃えてるようには見えないのに斬った相手を燃やしたりする。現代の回路魔術の魔道具と似ているけど、現象を発動させる回路魔術と物を現象そのものにする印術ではかなり違う。それに印術は付与したものを持った人にまで影響を与える。星の果実に吸収されなかった知恵の歯車の研究員を迎え入れた東部帝国は、保有するそれぞれの軍隊の名前であり由来となった十二の神獣の印を対応する軍隊の武器に施して強化していた。だけど迎え入れた研究員は下っ端で開発は出来たのもの印を付与する魔力効率が悪く、生産性が恐ろしく悪かった。
「儀式魔術って発動するのは大規模な現象が多かったですよね。使用するホールが広いといっても竜巻なんかは閉じ込めておけませんよ」
「基本の術式が儀式魔術なだけで、体験でするのはめっちゃ効率の悪い小規模の魔術だよ」
「印術も改造して弱めた魔術を付与するんですか」
「魔術じゃなくて呪術ね」
「あ、はい。すみません」
「印術の方は東部帝国で使われてたそのままを付与するみたいだよ」
「付与できる印に制限ってないのですか」
「どうだろ、そこは聞いてないな」
私の魔力の制限は聞き間違えたけど、魔術展示会のイベントについてはしっかり聞いていた。一度間違えた手前絶対と言える自身はないけど付与する神獣の印のことは言っていなかった。昔は付与できる人が少なかったしその効率も悪かったから制限があったけど、今の時代はそんな制限をするほど余裕がないわけじゃないから多分全部の印を付与できると思う。
「これから魔術体験会を始めます。配られた札の色の通りに行うエリアごと分かれてもらい、青の札は儀式魔術から体験して赤の札は印術から体験していただきます。どちらの札でも体験する内容は同じなので諍いなどは起こさないようお願いします」
進行役の人がそう言い終わると左右に待機していた職員たちが持っている札を配り始めた。私たちみたいなまとまったグループには同じ色の札が配られたから一人寂しく体験することがなくて良かった。園原教官の訓練だったら適当に札を放り投げてめくった札に書いてあるのと同じ人と組を作れとか言ってきそうだ。それはそれで公平な分け方だから納得できるけど、この魔術体験会とかだったら仲間と楽しくワイワイしながら体験してたいから明来と楠と離れる分け方じゃなくてほんと良かった。
「青の札だから儀式魔術だね」
「儀式魔術より祭壇魔術のほうがあってると思うのです」
「そうだねぇ。儀式は術式の殆どにあるけど祭壇となると少なくなるからね」
「別のものを祭壇に見立てて使う術式もあるのです」
「印術にも付与するための儀式はあるし、祭事に神獣を降ろす祭壇を模倣したものもあったからね」
「名称って違くないって思うことが多いですよね」
「私もそう思う」
青の札を持つ人がぞろぞろと集まってくると儀式魔術の説明をしそうな職員がマイクを持って真ん中にやって来て、その職員の付き人がプラスチックと木と紙を渡すと説明をし始めた。私はてっきり用意した祭壇に捧げ物をして小規模な儀式魔術を行うのだと思っていたけど、魔道具の祭壇から手作りして儀式魔術を発動させるらしい。捧げ物は祭壇そのものを捧げて後片付けも塵になった材料を掃除するだけだから、携帯できる消耗品として製品化を目指しているそうだ。
「さすがは研究所の体験会、ですかね」
「私も儀式魔術をやるだけって思ってたから、プレゼント研究発表も兼ねてるとは考えなかったな」
「儀式魔術は祭壇と捧げ物があれば発動する。捧げ物は塵になってしまうのも利用して消耗品とは凄いアイデアなのです。だけど吸血鬼は買い物は似合わないのです」
「ポケットから製品化したものを出して戦って、無くなったら買い足す化け物は格好悪いな」
「なのです」
「それを言ったら魔術も魔道箱を腰につけますし、詠唱しないとですから格好悪くないですか」
「なのじゃないのです」
祭壇をプラスチックや木や紙で作り、その祭壇を捧げ物にするから祭壇は塵になって崩れる。塵になったら細かくて後片付けの掃除は大変なんじゃないかと思うけど、外に出すのは体験会だからで商品化する際には何か入れ物に入れて飛び散らないようにするそうだ。
回路魔術の魔道具は何度でも使えて安全性も高いけど、値段が高いし防犯にしては過剰だから一般層には普及していない。だけどこの改造した儀式魔術は魔力効率が悪いけどめい一杯魔力を込めればそれなりの威力の魔術が発動するし、材料も安くて値段も抑えられるから防犯にピッタシらしい。軍隊でも緊急用に採用されそうな性能だけど技術の保護はされてて完成はしてないからまだ配備されるのは先かな。
「細かい作業は楽しいのです」
「そうかなぁ、私はブキッチョだからあんまり楽しくないな」
「ならわたしが手伝ってあげますよ。この中なら一番手先が器用ですし」
「人を縫う練習とかしてたから?」
「してません。手術の練習をするのは学園に入ってからです。それに紫は料理が上手なのになんでこれは出来ないんですか」
「手先が器用だから料理ができるんじゃなくて、ブキッチョだけど料理はだ上手からだよ」
「料理は作り慣れてるのですか」
「任意教育学校の三年間でミッチリとね、叩き込まれたんだよ」
一般常識を学ぶために学校に通わされたけど、それまで普通の生活とは、程遠い生活をしていたから常識の解離が酷くて会話がまるで続かなかった。健康診断で住んでた御空学園でもスキマ時間は園原さんや東雲さんと戦闘してたり部屋にあった学問の論文や書籍なんかを読んでいて、生徒がするような流行りのコスメ?メイク?の話や普段家でしている趣味の話や勉強とかの話が分からなすぎて開始一週間で諦めかけてた。
私の御空学園以前の過去のことは誰にも漏らさないようキツく言われていたから、どこの学校いってたのやらなんで志望したのやら趣味、特技、生活、家族、夢... 答えられない質問と正解のわからない質問の嵐で帰るずっと帰りたいと思っていた。
そんな中に家族会議を開いて紫が料理ならかなりの質問に当たり障りなく答えられるんじゃいと言ったことで、父親が納得して料理本を注文し私と母はほぼ毎日料理の勉強をすることになったのだ。不味いわけじゃないけど下手だった母も普段料理をしている父親に学ぶことになって、私は紫と一緒に簡単なものから作っていった。
「完成」
「やっぱり二人のと比べると不格好だな」
「プラスチックが一番作りやすいって言ったじゃないですか」
「木はデコボコ、紙はクシャクシャ」
「だって二人が木で自分だけプラって仲間はずれじゃん。それに発動はするんだし」
「発動するかはわたしには分かりませんよ。だけど同じもので作ってくれたのは嬉しいですよ」
「ナデナデしてやんよ」
「長女次女三女だね」
「まぁ、はい」
完成した祭壇は回路魔術を発動させるための魔道具とはかなり違う。儀式魔術が昔に発明されたっていうのもあるし術式そのものも違うから当たり前だけど。魔術を発動させるものを魔道具と定義しているから祭壇も立派な魔道具のはずだけど、回路魔術の魔道具を見慣れているせいでいまいち魔道具って感じがない。まあ私が言えたことじゃないんだけど。
それと魔術を発動させるものを魔道具と定義したせいで錬金術の釜や錬成品は魔道具と定義して良いのか議論されたことがあるらしいみたいだ。
「儀式用の祭壇が完成した人はこちらのシートの上で魔術を発動してみてください。起こす現象は水に固定して魔力も込めすぎないでください。魔力効率が悪いので大丈夫だとは思いますが、このあと印術の体験もあるので」
私たち御空学園の訓練生ならば魔力の調節もできるけど一般人には魔力を操り物に込める技術はなかなか難しい。義務教育で習うとはいえ日常生活で魔力を使うことはあまりないから、込めすぎないように職員が見回っている。
「これ、バケツです」
「ありがとうございます」
「真上で発動したほうが後片付けも楽かなぁ」
「そうしていただけると助かります」
「ういうい、早くやっちまおうぜ」
「お姉さんも大変ですね。それでは楽しんでください」
「え?」
御空学園の制服を着ているのは明来だけで、私はダボダボの服とサイズがピッタシの車椅子を運んでいて楠は吸血鬼のマークが書かれたゆったりめの肩紐ワンピースを着ている。顔は違うけど背格好や口調とかは明来を長女としてそのしたに楠私とくるのはあっているのかもしれない。明来は春が誕生日で楠は冬が誕生日だった気がするから年齢もあっている。
「明来お姉ちゃんと楠お姉ちゃん」
「明来お姉と妹ちゃん紫」
「ちょっと!駄目ですからね」
「さっきまで姉妹プレイしてたのにぃ?」
「姉妹兄弟のいない一人っ子」
「それでも駄目です」
「勝手にやろっか。楠お姉ちゃん」
「グーだぜ妹さん紫」
「呼び方それなんだ」
「ほんとに恥ずかしいのでやめてください」
儀式魔術はしっかり発動して使った祭壇はボロボロに崩れてバケツに溜まった水に落ちた。明来は悶えながら魔術を発動してたのに不具合もなく魔術が発動したのは安定性が優れている証だった。私がこの魔道具を使うメリットはないけど、明来や楠、槙なんかは火種にしたり閃光を出したりするのに役立つかな。回路魔術の魔道具を用意するほどじゃないけど、あったら嬉しい役に立つ魔術を使うために所持しておくのが良さそうだ。
設定を凝る心こそが自分を作者たらしめるのです
設定です、設定ですよ皆さん
ボンボ... lien