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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
二学期
26/41

記憶26:紫と明来の会場巡り

 大会が終わりこのお祭りもあと一日を残すだけとなった。最終日には姉妹校の慶雲学園と合同で研究した内容の発表を、一般人も迎え入れた中で開催する。合同研究の橋渡しをしたのが私の母で、準備のためにあちこちの調整のために数日忙しく走り回っていた。

 その中で私が倒れたものだからスケジュール管理もかなり厳しいものになったはずだ。それでも私に付き添ってくれた母には感謝しかない。あの時早く帰ったのはいそがしかったからってものあるだろうけど、私にとっても早く実験室から出てもらって一人で考え事をしてたほうが良かったから、変に追求したりせずただありがたかったと思っておくことにする。


「車椅子に乗らないとか」

「お母様からの忠告ですからね。守らないわけにはいきませんよ」

「そうなんだけど格好が付かないというか」

「普段の姿でも格好付けたら、子どものお遊びに思われます。それに今日は一般の方々もいらっしゃるので目立ちませんよ」


 明来のほうが全面的に正しいから押し黙ってしまう。普段の学園生活だった一般人はいないし、制服を着用しているから年齢のわりに小さいなと思われるだけだ。だけど今日に限っては研究の発表のために一般人が入場できて、身体を圧迫する制服の着用は許可されなかったからゆるい服を着ることになっている。

 つまりは身体の弱い妹が車椅子に乗って姉が付き添って上げている図が見えるのだ。明来が制服を着ても着なくても、付き添っている図には変わりないから想像しただけで恥ずかしくて悶え苦しんだ。

 車椅子に乗っていなくても私と明来の身長差だったら姉妹にしか見えないから、どっちにしろ恥ずかしいのには変わりがない。病人だから車椅子に乗っていなさいと怒って結果的乗る未来になるしかないなら、初めのうちから諦めて屈辱を受けるしかない。


「ねえ明来。制服じゃなくて普段着を着てくれないかなぁ」

「どうしてですか。外の人だと間違われるより、訓練生だと分かったほうが諍いも起こりませんよ」

「いや、あのね。何も知らない人が見るとね、御空学園に入学した姉が身体の弱い妹を介護している姿なんだよ」

「姉と妹以外にもあると思いますが」

「介護している姿なのは否定しないんだね」


 今度は明来が押し黙ってしまった。寮にずっといるって選択肢もあるけど、私は研究成果を見たいし外を回りたいから明来に連れて行ってもらうしかない。一人で歩くのは駄目だと言われて逃げながらだとゆっくり研究成果を見られない。やっぱり恥ずかしいのを我慢して車椅子に乗るしかないのか。


キィン


「なんだろ」

「どうしたんですか」

「音が聞こえた気がして」

「わたしは聞こえませんでしたけど。それよりもどこから行きますか」

「最後は決まってるから、近場の新型魔道具展に行こう」

「わたしも見たい魔道具があるので賛成です」


 新型魔道具展は櫻井さんが使っていた魔弾発射装置のような、汎用性よりもなにかに特化した魔道具を開発している研究室と研究所が作ったものだ。パンフレット等は無いため展示されている魔道具の種類を知ることは出来ないが、大々的な発表の場を借りているのだからチャチな物はないはずだ。


「櫻井教官がいますね」

「魔弾発射装置もこの展示を出してる研究所が開発したものだから予想はしてたよ」

「昨日のおまけ試合を一般観戦にしていたらかなりの宣伝になったんじゃないでしょうか」

「色々事故があって前日に役割が決まったからね。録画はしてると思うけど観戦は厳しいんじゃないかな」


 自由に見て回ってくださいと立て看板が置かれているのだけど、明来の車椅子を押してもらっている状態だから好き勝手に移動することは出来ない。あっちに行きたいあれを見てみたいと話し合いながら施設を回るしかない。

 だけど座高が低いのもあって展示物の説明文が重なってよく見えない。そういう時は明来に頼んで説明文の概略を話してもらう。周りが温かい目でこちらを見ているけど、気にしないことに決めたので気にしない。


「空を飛ぶことに特化した魔道具なんですよね。わたしはすぐに酔ってしまうから敬遠してたんですけど、これなら平気ですか?」

「訓練生の方ですか。そうですね、こちらの魔道具は体の安定性と機動性を追求したものなので、通常の魔道具を使用するよりも酔いにくいです」

「なるほど。早く量産できるようになってほしいですね」

「日々精進しいますので」


 新型魔道具展という名前だが研究内容は魔道具よりも魔道箱の改良が主だった。魔道具に焼き付ける回路の改良だけでは限界がある魔術を、収納するだけだった魔道箱を武器の一部として変えることで発展性を持たせた。

 魔術のさらなる発展に繋がるとして研究援助が絶えないらしいが、量産の目処は立っておらず今のところは販売予定はないらしい。


「今までの魔道箱は、人と魔道具を接続して魔術の使用を簡単にするだけで、魔術の起点となるのは使用者の人だった。研究している魔道箱は魔術の起点を人ではなく魔道箱にすることで、魔道箱の性質で魔術が使えるようになった。ライフル型なら銃弾の性質を持った魔術、翼型なら飛行の性質を持った魔術。意味の形を象った原始的な魔術媒体に近いのに、最も進んでいる魔術媒体。本質的には魔法に最も遠いのに、最も魔法を模した魔術。凄いですね」

「紫、突然喋ると驚きますから一文ずつ話してください」

「妹さんですか!素晴らしい観察眼です!正直な所この魔道箱たちを、これほどまで理解してくれる方がいらっしゃるとは感動で胸がいっぱいです。価値を見抜く方は多くいたのですが、どなたも新たな魔道具の使用方法としか分からなかったのです。学園に通うことの出来る年齢になったらぜひ、慶雲学園への進学を検討してみてください。もしかしたら義務教育期間を終えて飛び級も可能かもしれません」

「その前に私と明来は同学年です。御空学園に通っているので入学はできません」

「え!……あぁ、そうですか。それではぜひ転学を、と言っておくましょうか。感動したのは本当のことですし、その頭脳も役に立つでしょう。軍事学園よりも研究学園のほうをオススメしたいですが」

「いえ、身長がないのは体質ですし車椅子なのは魔力の不調です。それにこう見えても指折りの実力者なので」


 御空学園に通っていると言った時点で半ば諦め気味だったのが、次の言葉できっぱり諦めたように感じた。無理に引き抜いたとしても研究に熱心じゃなければ効果はないと分かっているのかもしれない。それに私は無理に引き抜こうとすれば、厳しい制裁が受けることになるからどのみち他の学園にはいけない。


「良かったんですか。紫の実力は知っていますけど、知識が豊富なんですし研究学園の道もありだと思います」

「軍事学園に入学したんだからもう道は決めてるんだよ」

「そうですね、知識があってもそれをどう使うかは本人次第ですものね」

「その知識がある人に出会った初日から講義した人がいるらしいよ」

「あとからものすごく後悔して、顔から火が出そうなんですからやめてください」

「ごめんて」


 明来は車椅子の後ろで押しているから顔を覗くためには首を傾けないといけない。だけどそうするのは野暮ってものだから深く椅子の背にもたれかかってフゥと息を吐いた。真っ赤になった顔を眺めるのも良いけれどそうすると車椅子を押してくれなくなりそうだからやめておく。


「そうですね。隣の展示会は私たちに関係ありませんから薬品類のところに行きましょうか」

「忙しいから来てないって言ってたし、賛成するよ。あと途中で飲み物を買ってきてほしいな。お金は渡すから炭酸でお願い」

「わたしは平気なので紫の分だけ買ってきますね。でも一緒に食べるお菓子も欲しいですね」

「どっちも私が出すよ」


 売店の数は一般人が入場するのに伴って前日前々日よりも二倍以上に増加していた。あれだけ探してもなかったスイーツ店が道を眺めるだけで何店も見つかる。肉料理や魚料理、ジャンクフードを販売する屋台の数は他の種類の屋台に押しのけられて減るどころか、目に映る半分以上の屋台が食べ物という本当に食い意地が張った様子を見せつけている。


「炭酸とお菓子を買ってきますので少しの間待っていてくださいね」

「ありがとうねー」


 車椅子に乗ったまま列に並ぶのは他の人迷惑になるからと、道から離れて屋台の裏手になる小高い丘に運ばれた。この車椅子は他人に運んでもらうことを前提に作られた旧型だから搭乗者の力だけで車椅子を動かせない。手の届かない位置にタイヤを固定するストッパーがあるせいで余計に動かすことができない。

 話す相手がいないせいで暇を弄ぶしかなくって、魔道具の使用も禁止されているからバレないにしても使用するのはやめておく。焼肉料理屋の裏だから香ばしい匂いがするけれど食べられないのが悔やまれる。


「ねえ君、こんなとこでどうしたの?」

「ん?誰」

「お姉さんはね、羊和(ひつじわ)って名前なんだ。見た所一人だから大丈夫か声をかけようと思って」

「ふぅん。……そうだね、お姉ちゃんが飲み物を買ってきてくれてるの。他の人の迷惑になるからここで待っててね言われたから待ってる」

「そっかぁ。良い子に待てて偉いね。でも小さい子一人だと不安だから一緒に待っててあげるね」

「うん、ありがと」


 いつもは常時発動している魔道具も今は切っていたせいで、背後から忍び寄る女の影に気付けなかった。滅多なことでは切らないから普段との感覚の違いを分かっていなかった。感覚も一日のベッド生活で慣れてしまったのもあるから今後は気を付けないと。


「それで君の名前は何ていうのかな」

「私はね、水瀬紫って名前だよ。それと十二歳」

「本当に?てっきり十歳くらいかと思ったよ。病気だから小さいのかな」

「お母さんね、ここの手伝いをしているんだって。お父さんは忙しくてこれないの。お姉ちゃんが押してくれたんだけど喉乾いちゃってジュースを買いに行ってくれたんだ」

「うんうん、そっか。それじゃあ紫ちゃん、お姉ちゃんが帰ってきたらありがとうって言おうね」

「うん、分かった」


 話しかけてきたきた人はただの一般観客で、丘の上に放置されていた私を心配して声をかけたようだ。折角だから姉と妹に見えるって話したときに浮かんだアイデアを実行しようと思う。子供時代を経験したことはないけど、本で読んだことはあるからそれを真似して子供っぽい口調で会話をする。

 さっさと帰ってもらうこともできたけど、暇つぶしの材料の逃すわけにはいかないしなによりたのしい。軍人になって変装をすることになった時に、子どもの役を演じられて損はないはず。そんなときが来るかどうかは分からないけど。


「紫、その方はどなたですか。」

「この人はお姉ちゃんを待ってる時に話してくれた人だよ」

「んん?」

「どうもこんにちは、羊和と申します。失礼ながら子供を車椅子に乗せたまま一人にするのはいけません。十二歳だとしても姿は幼いのですから無理にでも連れて行くです」

「え?あぁ、はい」


 明来は知らない女と一緒にいる私を見て大層混乱しているようだった。そのうえ全く考えていなかったことで怒られて目に困惑の色がありありと出ている。怪我した同級生のために買い物をしてきたら部外者に叱られているのだ。それに問題があったら一人でも解決できると信頼しているから置いていったので意味が分からないのは当然だ。


「そうですね、確かに一人で置いておくのは間違いでした。紫のことを少し信頼しすぎたのかもしれませんね」

「警備員の目があるとはいえ悪意は潜んでいるものです。絶対に離れないでくださいね。それでは」

「じゃあねぇー、羊和さん」


 困惑していても成績優秀者の明来。頭の回転も早くて私の性格も把握しているからオフザケなんだろうなとすぐに気づいた。微妙に私のことをディスりながらお姉ちゃんとしての立場で対応している。自分に非があるように思わせながら、私に言葉の攻撃を仕掛けてくる。こっちが妹のふりをして何も返せないのを良いことに。



「炭酸です。ポテトもどうぞ」

「羊和さんへの最後のセリフ、明来と同じように意味を隠せばよかったな」

「お釣り返しませんよ」

「お遊びがすぎました、ごめんなさい」

「本当に焦ったんですからね」

「でも言葉で攻撃する余裕はあったじゃん」

「没収でーす」

「ちょっと待ってよー」


御空学園はめっちゃ広いです。

とあるみたいな学園都市とはいかないけど東京の小さい区くらい広い。

林もあるし施設の数も多い。

東京ディズニーランドを観光する感じに近いかもです。

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