記憶20:明来と星野の試合
「お相手お願いします」
「こちらこそ全力で戦うね」
魔法科一年生の試合は、ちょうど始まったところのブロックに明来と星野がいる。楠と柊はそれぞれ別のブロックで待機していて、槙の代わりに入った人はもう負けたらしい。
すべての学年の訓練生が参加できるとはいえ、学園に在籍した長さが違うから自然と勝ち進むのは高学年の訓練生ばかりになってくる。だけど明来も星野も戦闘のセンスが良いから魔法と魔術を上手く使ってトーナメントを勝ち進んでいる。
今はブロックの決勝戦で勝ち進んできた明来と星野が同じ土俵に立っている。会場は盛り上がっていてどっちが勝つかなどと賭けてる人達もいる。魔法は扱いが難しいからブロックでのとはいえ一年で決勝戦に出るのは珍しい。
本戦になると殆どの出場者が高学年になるから、初心な低学年の試合を見るにはブロック試合でないといけない。そして低学年は勝ちにくいから、学年が重ならないよう調整しているトーナメント形式で当たることは少ない。その少ない試合を見れるから会場は盛り上がっているのだ。
技工凝らした試合の面白さと未だ拙い部分がある試合の面白さは、違うものなんだと健康診断の時に母が教えてくれた。
「濁流」
「魔術、槍」
明来は魔法で自分の体を覆い、攻撃が来ても防御できる状態にした。これが明来の戦法の一手目で、魔法の成り立ちから考えても濁流が自分の周りを渦巻いているのは最初の行動としてその後に繋げやすい。渦巻いている濁流の量は一学期に魔獣と戦ったときやキャンプ上で魔獣の攻撃を防いでたときよりも少なくなっている。
この学期に入ってから訓練に一層励んでいて、今までは魔法を発動させた時に垂れ流していたものを後から制御していたのだが、それでは効率が悪いと園原教官に言われて魔法で出す濁流の量を調節する訓練をしていた。量を調節できれば消費する魔力の量を抑えられて継戦能力が上がったり、より細かな操作も可能となって押し流すだけだった攻撃が水の刃とかを作れるようになるかもしれない。
「水の玉」
「チッ」
だけどまだそのレベルに到達していないから、弱めの水の玉を出して迎撃するのに使っている。
星野が槍で攻撃したのは槍が素早く発射できて先端から尻尾までが長いため、濁流の渦を貫通できる可能性が高いと考えたからだろう。
明来の魔法を打ち破るには高い威力がないといけない。濁流の渦が弾き返せないほどの威力で攻撃しなければ、その中にいる明来に届かせることはできない。それに威力が高かったとしても濁流の外の景色は透視の魔道具でしっかり見えているので、軌道が分かれば渦で威力が下がった攻撃を避けるの容易い。
それと槍を選んだ理由二つ目の長さは、渦で威力が下がってもその長さで明来まで攻撃が通りやすいからだろう。鉄球とかだと渦を突破されても軌道が読みやすけて当たる面積も小さいけど、槍は突破されたら渦の流れでもうひと暴れしてくるため集中を阻害される。
明来相手にやりを選んだのは正解だったといえるけど、今回は明来が水の玉を作り出せたことと試合も序盤で迎撃しやすかったからあまり意味なかった。
「いって」
「魔術、防壁」
明来が渦巻いていた濁流の半分くらいを塊にして星野に向けて発射して、星野はあの水の塊を防ぐために防壁を出す魔術を発動した。星野は水の塊を防壁一枚で防げると思っていなかったからか、発動させた防壁に水の足止めをさせて自分はその隙に逃げ出した。
「残念だったな」
「いえ、まだです。いって」
一発目の塊はブラフだったようで、渦の残り半分全てを塊にして星野に向けて再度発射した。防壁の魔術は発動している最中で他に水の塊を防げる魔術は持っていなかったから、向かってきた泥水の塊が体全身に当たってしまった。その勢いで試合ステージの隅に追いやられるが、明来も直ぐには攻撃できないと知っているからか、顔を拭って地面が濡れた場所からは退避した。
「まだまだだね」
「んん~、なんでぇ~。上手いこと攻撃を当てられたんだから凄いんじゃないの〜」
「明来だから水の塊を当てたのには理由があるのには間違いない。だけど一発目を防がれて二発目を撃った時点で、発動の速い魔術は濁流の渦が無くなって無防備な明来に攻撃が当てられる。星野も退避じゃなくて攻撃してたら傷を負わせられてたかもね」
「な、なるほど〜」
「一つの作戦に夢中になってる。それが勝ちにつながるとして隙を晒すのは駄目だね」
私と槙は売店で買ってきたお菓子を食べながら試合を観戦している。屋台で作った食べ物を片手間に食べるのはとても美味しくて途中で追加分を買いに戻ったくらいだ。健康診断の時は小さい子供が大会会場に職員を連れて歩くわけにもいかず、コッソリと観戦することしかできなかったから食べ歩きをするのは夢見てたことだった。
「試合は仕切り直しって所だね」
「どっちも上級生を倒してきてるし、同じ魔法科だから勝って欲しいな〜」
「明来は技術があって、星野は力があるって感じだね」
「今発動したあの星だね〜」
仕切り直しとはいっても星野は槍の魔術を使わずに自前の魔法で明来の濁流を破ろうとしている。星の魔法は明来と違って星野の精神に影響を与えるものだから、魔法の威力を弱めて繊細に扱うよりも威力を強めて豪快に扱ったほうが壊れにくくなる。
大体の魔法を使える人は想いを抑圧するのは苦手、というかほぼ無理で不安定になることのほうが多い。魔法に変質する想いは意識で制御できたらそもそも変質してないから、発動した時に感化した感情のまま魔法を使って相手を攻撃するのが一番なのだ。だけどそれじゃあ感化されすぎて暴走する危険があるから、そうならないよう楔を打ち込む訓練をしている。難しいことだから一年で出来る人はあまりいなくて、魔法科の訓練生は高学年じゃないとブロックのトーナメントも勝ち上がれない。
今年の魔法科は楔を打ち込む魔法がない私と打ち込む必要がない明来と既に打ち込んでた星野がいて、どの学年の魔法科よりも優秀だと言われている。私に関しては首を傾げたくなるが二人は優秀なので同じブロックに入っていたのは個人的にかなり驚いた。
「魔法の使い方なら最終学年にも優るんじゃないかな」
「友達として鼻が高いですね〜」
「試合になったら明来たちが負けるけどね」
「ありゃ~、どうしてですか〜」
「明来みたいに隙を見せないし、星野みたいに隙を見逃さない。何年も軍人をしていた園原教官ならもっと効率的に戦うだろうね」
「園原教官って強いんですね〜」
「同じ軍人でもあの人に勝てる人はなかなかいないよ。戦場も経験していない訓練生が勝てるわけ無いね」
雑談の話題はドンドン溢れ出てくるから途切れることなく話し続けられる。観戦している二人の試合は互いに互いのの手の内を出し尽くしていて、攻撃するにしても対策が取られているから何もできない膠着状態に陥っていた。二人の間には緊張した空気が流れているが、観戦しているこっちの身になると攻撃が続かないからつまらない。
「桃ちゃんも悠ちゃんも動かないね〜」
「玉砕覚悟の奥の手も無いし、魔力も残り少ないから出来ることも少なくなってる」
「時間切れ〜?」
「そうだね。その場合は優勢だったほうが勝利判定になるから明来の勝ちかな」
「あの電流でですか〜?」
明来が水の塊を出して星野の体を濡らしたのは電気の魔術で感電させることが目的だったみたいだ。自分の体を濡れていないなら、濁流でステージを水浸しにして相手の体まで電流を届けさせられれば回避が難しい一撃になる。水の塊を作ったのはより感電しやすくするためなんじゃないかな。
だけど明来の魔法はただの水じゃなくて泥水だ。そのうえ雲があるとはいえ天気は晴れで、電流を流す隙をつくるのにも時間が掛かったせいで水が乾燥してしまい上手く電気が流れなかった。星野は一瞬ふらついたけどすぐに立ち直って攻撃を再開したからあまり効果はなかったみたいだ。
「それもあるね。傷の数は明来のほうが多いけど、致命傷になりそうな攻撃を当たったのは星野なんだよ。生きてるのはって考えた時に軍配が上がるのは明来かな」
「なるほど~」
それから数分膠着状態が続いたけど、試合時間が過ぎたから有利判定で勝敗を付けることになった。結果は明来の勝ちで、星野は文句を言ってるけど詳しいことは控室でと流された。怒って魔法を暴走させなきゃいいけど。
「明来が勝ったね」
「やっぱり強いですね〜」
「…次のブロックは誰が出てたっけ」
「誰もいませんよ〜。次の次に歩ちゃんが出場しますね〜」
「楠はどこまで勝ち進めるかね」
「分かんないですけど優勝してほしいですね〜。悠ちゃんもももちゃんと違うブロックだったら優勝できてたかもなのに残念です〜」
「一年生でブロック準優勝はかなりの好成績なんだけどね」
魔法科の人は全員もれなく暇ということが分かったから、ちょうどお昼時だしみんなを誘って食べに行くことにした。食事場所は学園内にある食事処でいつもは食べないちょっとお高いものを食べることにする。
「それじゃあ私から乾杯の音頭を取らせてもらうね。えぇ~、明来は本戦出場おめでとう。楠はブロック試合優勝目指して頑張って」
「それから紫と槙さんは警備一日目のお仕事お疲れ様です。また明日からも頑張ってください」
「桃ちゃんブロック優勝おめでと~。歩ちゃんもガンガン試合を勝ち進んでいってね〜」
「試合に勝つため、ここでやる気を充電する。いっぱい食べるから、取られないよう注意して」
「さてみんなが言い切った、ってことでー!」
「「「いただきまーす」」」
食事処ツツは外からの出張店舗で御空学園のショッピングモールエリアの真ん中に店を構えている。ほとんどの飲食店が安くて美味いを提供しているのだが、ツツは自分たちへのご褒美のために出張してきているからその分お高くなっている。訓練生はおろか職員ですら多く通うことのできないお店だから、こういった祝い事の日にしか食べに来ることができない。
「一日目の昼だからお客さんは少ないね」
「日にちが進めば進むほど混んで食べづらくなるから初日に食べようって言ったのは紫じゃないですか」
「僕達は最終日から過ぎた日でも良いって言ったのに聞かないんですから」
「その分明来が本戦で四位までに入れたら、私の奢りでもう一回来るって約束したじゃない」
「そうです!なので頑張って勝っていきますから、財布の準備をしておいてください」
「明来は、期待の星」
「星は星野だよ」
「じゃあ期待の桃かな~」
「ダサくないですか。期待の桃って」
私もそれはダサいと思う。だけど他の字はいまいちピンとこないから期待の桃で固定されてしまった。その流れで私たちの二つ名も決めようって話になってあれこれ考え始めた。考えた側から口に出してるから適当に言ってるだけの気がしなくもないけど楽しいからこれでヨシ。
「明来の二つ名は期待の桃と不動の桃に決定」
「優勝試合でも始まった位置から殆ど動かなかったからね〜」
「見てないけど、簡単に想像できる」
「は、恥ずかしいですし、次は楠さんにしますか」
「うん、カッコイイのにしてね」
「血を操る魔法だから伝承にある吸血鬼とか良いんじゃない」
「駄目、吸血鬼はもっとカッコよくて、まだ相応しくない」
「難しいね」
話をしていても食事を口に入れたままにはしないし、テーブルにも出来る限り溢さないようにしている。声量が大きいとお店に迷惑がかかるけど、小さいと話が盛り上がらないからコッソリと音を消す魔道具を発動させている。あ、消したら違和感があって気付かれるかもだから、効果を弱めて小さくさせるにとどめたんだった。
「えぇーと、明来が不動の桃で、私が強い奴で、楠が錬金術師で、槙がヘビ。でいいんだよね」
「名付けの方式がまるで違いますね」
「統一したほうが一体感が出るけど…」
「食事も終わったし、考えるの面倒くさい」
「お会計して解散するか」
「いや歩ちゃんの試合を見るんだから解散したら駄目ですよ」
「そうだった」
「お腹いっぱいだからってちゃんとしてよね〜」
次の楠の試合はまだだけど見やすい席を取ったり観戦中のおつまみを買ったりするのに、時間が早くて悪いことないから食べ終わったら別れて行動するつもりだった。私と明来が席取りで槙と楠が買い物だ。
楠は買い物が終わったらそのまま待機室に向かってしまうから、今のうちに応援しておく。楠にもぜひ優勝するまで頑張ってほしいから。
眠いよぅ




