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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
一学期
2/41

記憶2:亜来と一緒

あれから入学式には間に合い無事に終えたが、この学園の講師の母親に呼び出されて今は職員室の前にいる。

明来も一緒に呼び出されたから十中八九転移の魔術のことだろう。

他の職員に呼び出されたのならバレたと分かるが母親だとどっちなのか分からない。



「失礼します」


ドアを開ければ教師たちが一斉にこちらを見てくる。軍事学園なだけあって屈強な人が多く、細身の人も魔法か魔術か何らかの戦闘技能を持っているだろう。

その中の一人が飲みかけのコーヒーを置いてこちらに向かってくる。


「紫ちゃんにはおはよう、桃ちゃんには初めまして。私はこの御空学園で講師をしている水瀬識(みなせしき)というものだ。少し聞きたいことがあるから近くの部屋で話をさせてもらうぞ」


いつもながら結論を先延ばしにしてくる癖があって不安にさせてくる。職員室を出る時に取った鍵で近くの防音室に入り、対面に座るよう促してくる。

刑事の取調室を連想させる状況だが、母の性格から考えるにただカツ丼食えとかやりたいだけだ。


「取り敢えず焼きそばを食べながらで良いから、紫ちゃんが転移の魔術を使った件について話そうか。」

「焼きそばないけど」

「イメージしなさい」

「しない」

「手厳しいけどまぁ、要件を伝えるね。私以外誰も転移の魔術を使ったのはバレてないよ。でも明来ちゃんが余所に話したらその限りじゃあないから注意してね」

「は、はい。わかりました」


軽く焦ったが注意だけで済んだのは良かった。

転移の魔術を使わなくても公共交通機関が止まって仕方なく遅れてしまったら遅刻で罰は受けないのだが、明来はそれを嫌がるだろうしリスクがあったほうが興奮する。


「これからは寮生活となるのでこのようなことはしないと思うが十分気を付けなさい」

「はい、分かりました」

「ありがとうございます」

「ああ、頑張りなさい」



母は話し終わると席を立ち職員室に戻っていったに戻っていった。私たちもほかにやることがないから寮のある場所へ向かう。


職員室のある建物から数分歩いたところにある寮は人工林によって隠されもっと近づかなければ見えない。明来はキョロキョロと学園の敷地を見渡しながら歩き、新しい建物が見えると私に聞いてきた。人工林を抜ければ男子寮と女子寮が見えてきて、どちらの寮からも中から騒がしい声が漏れている。


「紫さんって、」

「紫だけで良いよ。私も桃って呼ぶし、何より敬称は私が明来に言うほうが似合うから」


バスのときから呼び方は気になっていたが折角の同級生なのだから口調は難しくとも敬称の有無は変えて欲しかった。母のちゃん付けは既に諦めているが明来の敬称はどうしても譲れないと思う。


「それじゃあ改めて、紫はこの学園のことよく知ってるけどなんでですか」

「母と一緒に何度も学園に来たことがあるってだけ。12から3年間、毎週通ってたから覚えてるんだ」

「それはお母さんの仕事の付き添いで来てたんですか」

「いや違うよ。私自身の健康診断みたいなもの」


明来は学園で学生でもない人の健康診断とはどういうことなのか不思議に思ったような表情を浮かべ考え込んでしまった。確かに健康診断をするだけなら街の病院、定期的に学校で行うものでも良いが私の場合はそうはいかなかった。


「この寮じゃないけど診断を始めた頃は学園の寮で暮らしてたからね」



寮で部屋の鍵を受け取るために中に入ると既に部屋の整理が終わった学生がロビーでたむろしていた。扉を開けた音がしてこちらを見てくる学生がヒソヒソの話し声を上げているが、そんなことには構わず寮長がいる受付に向かう。

この学園の寮は清掃以外の仕事は学生がやるため常駐する人は寮の寮長だけだ。その寮長も見知った人で気軽に声をかけられる。


「久しぶり横瀬さん。新入生の明来を連れてきたよ」

「お久しぶりです水瀬紫さん。そして初めまして明来桃さん、私は御空学園第四女子寮寮長の横瀬甲(よこせこう)です。分からないかもだけど紫さんのことは少し前から知っているの」

「あっいえ、来る途中に学園には何度か来たことがあると聞いていたので」

「これは失礼したわね、それじゃあ改めて寮の説明をしましょうか」



横瀬さんは寮生活が初めての明来に寮の門限や普段の過ごし方、自由に使える施設の説明をしている。

明来は説明に集中していて時々質問をしたりしているが、暮らしたことのある身にとっては暇な時間だった。


「・・・です。分かりましたか」

「はい、もう大丈夫です」

「それでは鍵を持ってくるので少し待っていてくださいね」


明来への説明が終わると受付の奥に寮の鍵を取りに行ってしまった。全く話を聞いていなかった私を心配したのか明来が声をかけてきた。


「説明をきちんと聞かなくても平気なんですか」

「さっきも言ったけどここの寮には暮らし慣れてるからね」

「でも暮らしていた頃とは変わってしまったものがあるかもしれませんし」

「はい、ありますよ」


鍵を取るだけで直ぐに戻ってきた横瀬さんの話ではどうやらここ数年の間に軍隊に配属されたときに纏りを作るため同じ兵科を同室にするよう規則を変えたようだ。

私が暮らしていた頃は全ての兵科がバラバラに寮の区域に振り分けられていて、違う兵科の人と暮らすことで長所や短所を知ることができ、別の視点からの意見も得られるという理由で振り分けていたはずだ。

学園長が変わったことでそこら辺の考え方が変わったらしい。


「それでは鍵をお渡しします。無くした場合はすぐに私の元まで連絡して代わりの鍵を貰ってください。もちろん罰もあるので注意してください」

「横瀬さんありがとうございます」

「こっちもありがとう」

「はいどういたしまして」



あの後エレベーターに乗って各々の部屋で荷物が放置されたままの部屋にいる人のために片付けようと急いで向かおうとしたが、明来が私たちは相部屋で焦る必要はないと言って思わず足が止まってしまった。


横瀬さんが兵科ごとに区画を分ける規則になったと言っていたから魔法科の私と魔法の使えなさそうな明来は別の科だと思ってた。


「明来って魔法科だったんだね。私の魔法科だからおんなじ部屋になって良かったよ」

「わたしも紫が転移の魔術を使ったのを見たから魔術科だと思ってました」

「じゃあ互いに入る科を入れ替えっ子してたんだね」

「そうですね。それと荷解きの最中暇ですし紫も魔法魔術に詳しそうだから語り合いませんか?」

「いや私魔法魔術の知識なんて基礎しかないけど」

「じゃあ教えますね」


えっ、いらない。

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