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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
二学期
18/44

記憶18:紫と明来の始業式

 右手の火傷はすっかり治り始業式を控えた前日に家に戻ってきた。弟の紫が心配してたけど一度も病院に来なかったのを覚えているから、スネを蹴ってしゃがんだ所にハラパンをしておいた。痛がっていたけど私はざまーみろとしか思わなかったし、紫も怒られるのは予想がついてたのかうずくまるだけで反撃はしてこなかった、反撃してきたら気絶しない程度に首を絞めるつもりだったのに。



「紫おはよう、母は仕事に行ったの?」

「おはよう姉さん、入学式みたいな勘違いはしなかったね」

「私は母について聞いてるんだけど」

「それなら分かってるでしょ」

「ひねくれた男はモテないよ」

「残念だったね、俺は学校で一番告白されるくらいにはモテてるんだ」


 こいつの外面の良さはよく知っている。この夏休みの前半は家にいたから毎日友達を家につれてくるか遊びに行くかしていた。その時の態度は普段と違って誰にでも優しい好青年といった印象だった。女子も男子も両方親切で頼りになる弟を見るのは憎たらしかったから、槙との約束の日に必要な水着やゴーグルとかを買ったり古書店と図書館を梯子して本を読んだりしていた。


「それじゃあ行ってくるね」

「いってらっー」

「適当な弟だね」

「そうだよ」



 入学式の日みたいに寝坊はしなかったから歩いても余裕でバス停に着く。数分待てばバスがやって来て、私の目の前で停車してドアが開く。中は人が疎らにいるだけで座れる席ははかなりあった。私は窓際の二人席に座って荷物を横に置きバスが発進するのを待っていた。


「次かな」


 バスが道の脇にそれて停車に空いたドアから明来が入ってくる。何ヶ月も前の記憶だけど覚えていてよかった。向こうも私を見つけて手を振ってくれたから小さく私も振り返す。横においた荷物を膝の上によかして、手をポンポンと空いた席に叩く。


「おはようございます、紫」

「おはよう明来」

「今日は寝坊しませんでしたね」

「昨日はぐっすり眠ったから」


 このバスに乗ると示し合わせたわけではないのに、そうしたかのように同じバスのに乗ってしまった。バスの本数は多いとも少ないとも言えないが、違うバスに乗る可能性のほうが断然高かったのに不思議なものだ。明来は家を出てから電車を二回乗り換えてバスに乗っているらしいから、私よりもっと早くに起きてるはずで時間の調節も難しいはずなのだ。

 運命というものを全面的に肯定する気にはならないが、こうしたちょっとした偶然を運命と捉えるのは幸せなことかもしれない。




「訓練生諸君、学校に通っていた頃と比べて短い夏休みだったと思うが十分に休めただろう。この学期からは訓練に新たな要素が追加されるとともに、実践的な戦闘も増えていく。詳しいことは明日にでも担当の教官に聞くと良い。 そして毎年行われる御空学園の訓練生全体で戦う対人線に加えて、今年は姉妹校である慶雲学園との合同研究の実験と発表会が開催される。職員に教えを請う場合は時間が取りづらいことを念頭に置いておけ」


 学園長の挨拶が終わり教官長からの連絡事項を聞いている。校長の挨拶は長いとよく言われるが、今のところ長い校長挨拶を聞いたことがない。単に私が聞いたことのある校長あいさつが少ないだけなのか、たまたま話の短い校長に当たっただけなのか、それは分からないけど短く終わるに越したことはない。


 教官長の言葉は二学期の主な日程のようだった。調子に乗ってる訓練生を懲らしめるために魔獣戦をあまり想定した訓練をしないまま行った試合とは違い、これからはさらに厳しく魔獣想定のの訓練が積まれる。

 あぁ、対魔獣戦を想定しなかったのは魔術科だけで、魔法科はこれからやる訓練と今までの訓練に大した違いはない。魔術兵科が人間の鎮圧も軍務あるのに対して、魔法兵科は魔獣討伐が専門だからその違いだ。



「横瀬さん、またお世話になります」

「怪我をしなければどれだけ元気に過ごしても構いませんよ」

「アハハハ、了解です」

「知ってるんですね」

「そりゃ寮長だから」

「たしかに、、あ! 明来桃です、今学期もよろしくお願いします」

「はい、ありがとうございます。明来さんも怪我にはお気をつけて」

「分かりました」


 寮長の横瀬さんに挨拶を済ませたら、二週間ぶりくらいの私達の部屋に向かう。夏休みの間は清掃員が寮を掃除していたから、部屋の中は綺麗なままだ。部屋にある物は持ち帰れなかった物の方が多いから配置を考え直す必要はないけど、明来は崩れたぬいぐるみの山を整えるのには苦労しそうだった。


「午後から訓練が始まるから早く準備してねー」

「分かってはいるんですけど、ぬいぐるみたちのバランスがどうにも納得いかなくて。」

「っー。昼食も食べないとだからあんまり時間ないよ」

「そうですね、初日なのでキツイ訓練はないでしょうから夜に考えることにします。」


 昼食がパンメインだった。それは悔しいけど夜はご飯メインだと横瀬さんが教えてくれたので訓練するのにやる気が出た。訓練の内容は走り込みや腕立て伏せ、腹筋とかをやるんだと思う。キツイものだと学園の敷地を一周走ったり、林の木を落ちたときの補助以外無しで登ったり、大きさと重さを本物の行軍用の荷物に似せたバックを背負いながら学園の指定された場所まで運んだりした。水中訓練もあるがそれは水着や着替えを持ってこいと言われてないからやらないだろう。


 学園では座学もあるけど夏休みで鈍った身体を目覚めさせるために訓練から始めるみたいで、週の真ん中から始まる二学期の最初に一週間は全て訓練が行われて座学は一切やらないそうだ。軍人に必要なことは軍務を遂行できる肉体だけど、そのためには良し悪しを判断できる知識だって大切なのだ。

 山奥で魔獣が現れ登山客に襲いかかり怪我人が出た通報が入れば、車の通れない道を道具の入ったバックを背負い進める体力と筋肉は必須条件だ。だけど魔獣に対して有効な手段や周辺環境への被害、救助者の扱い方などの知識がなければ失敗となることだったある。


 身体能力と知識の両方がないと軍人としてやっていけない。軍人は責任ある職業として半端な人間にならないよう教育するために、軍事学園は厳しく訓練生たちに教えなければいけないのだ。ミスは誰にでも起こりうることだけど、そのミスを減らくための工夫はいくらでもある。死に近い職業だから死なないように体を鍛えて知識を溜め込まないといけないのだ。



     無教育期 義務教育 任意教育 任意教育

教育制度  6年 → 9年 → 3年 → 4年 

             校  ↑ 校    園

                ↑だいたいここまで


          義務教育    任意教育

幼稚園保育園  小学校 中学校  高校 大学とか

  6年    6年  3年   3年 2〜4、6年



教育制度は結構緩いです。

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