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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
一学期
17/43

記憶17:紫と病室

 ぼんやりとした意識の中、薄ぼやけの青と赤が混じった空を見上げた。


「―っつ」

「えっ!?あっ、目が覚めたみたいです」

「本当?本当だ。 あー、聞こえますか、この指が何本だか分かりますか?」

「・・・よん」

「はい、ありがとう。これから病院に運ぶ所ですので静かにしていてくださいね」


 明来たちじゃない制服を着た人がそう告げると、ガタンと音を立てて朝焼けの空は隠れて無地の天井が写った。ピコンピコンと音を立てる機械が横にあると分かるが、顔をそっちに向けることができなかった。固定されているようでここのは救急車の中かと思い至った。


「紫は大丈夫なんですよね!」

「あぁはい、たった今薄っすらと意識が戻ったみたいです」

「え! じゃ、じゃあ合わせて!」

「お礼も言わないとだし!」

「それは、難しいですね。 戻ったといってもバイタルが不安定になる可能性があるので」

「でも今は安定しているんですよね〜」

「うん、安全なんでしょ?」

「今後乱れる危険性もありますので、病院で検査を受けてからが最短です。ご友人を心配する気持ちもわかりますが、今は治療を優先させてください」

「・・・分かりました」

「うん、すみません」

「すみません〜」



 明来たちに心配かけてるなぁ。魔力は、まだ心許無いかな。身体の方は、右手が焦げたのと倒れる時に頭を打ったのかな。うん、安静にするのが今は一番か。母は怒るかな〜、父親は心配するかな〜、(さい)は呆れるかな〜。起きてるのも暇だし眠っとくか。





「起きなさい紫」

「・・・母か。 魔獣討伐から何時間経った」


 再び目を開けると母が顔の真上から覗き込んでいるのが見えた。頬も少し痛いから起こすために叩いたのか。扱いが怪我人に対するものではなく寝坊助の子供に対するそれだ。


「普通の母親というのは娘の無事を確認すると感動で抱きしめるらしい。知らなかったの?」

「普通の子供というのは目が覚めて母親を見ると心配かけてごめんと言うらしい。知らなかったのかい?」

「もちろん知っているさ」

「私も知っているだけね」


 怪我した娘とその母親はやり取りが確認と皮肉で始まるのは普通とは言えないが、これが私と母の関係なのだ。母の側で待機していた医者は私たちの会話を聞いて、冷え切った家庭環境なのかと疑問に思っている。それにしては、とも思っているようだが口には出さずに会話が終わるのを待っている。


 私の寝ている場所は複数のベッドがある病室ではなく完全個室のものとなっている。魔力が変質した者への隔離処置でもあるが、それ以上に私の身体のことを漏らさないようにするためだ。この医者だって家庭環境は知らなくても私の身体のことは知っているはずだ。


「担当医ですか? 心配はないですよ、険悪というわけでもないですし」

「は、はぁ。一先ずあなたの診断結果をご説明させていただきます。」


 診断した限りでは右手に中度火傷と魔力不足による意識的な身体機能の低下が見られただけらしい。深刻な問題は見付からなかったため夏休み明けには退院できるそうだ。退院の日付が唯一の懸念点だったからそこを断言してもらったのは正直嬉しい。


「ですが症状が悪化する危険がありますので、くれぐれも身体に負荷のかかる運動などはせず安静にしていてください。そうすれば御空学園に何の問題もなく授業を受けられますから」

「…はい、分かりました。 それと母と二人で話したいので退出してください」

「え、それは〜」

「聞かないほうが身のためですよ」

「…何かあったら呼んでください」

「はい」


 担当医は渋々と言った様子で病室を後にする。母とのやり取りを聞いて離れるのが不安になったんだろうが、患者からのお願いで離れないわけにもいかない。二人だけで話したいことがあるのに医者がいたら邪魔なこともあるからだ。



「さて、体調は?」

「大抵の人間が感じる健康状態と変わらない。 つまりは右手が痛い以外に健康だよ」

「そっか、でも検査結果は異常値を示しているから不思議なものだね」

「血液成分や内臓の活動量でしょ」

「健康状態では明来ちゃんの方が丈夫なはずなんだけどね」


 私の身体は同世代の女子の平均から数値がかなり外れている。赤血球や白血球などの血球の含有量が少なく色も薄い。白血病患者の血液と近しい成分内容だと言われたが、別に白血病ではなく通常でこれなのだ。内臓の活動も他とは異なっている。例えば人間の胃袋は胃酸で食べ物を消化し腸を通る間に栄養を吸収するが、私の胃袋は胃酸を出さないのに食べ物を溶かして消化し栄養を吸収する。

 御空学園の健康診断で調べていたことだが大した理由も判明しないままだった。これを怖い恐ろしいと思うのが普通なんだろうが、あまりそう思えなかった。それで納得できる理由がすでにあるからかもしれない。




「水瀬さん、お見舞いの方がいらっしゃいました」


 次の日になって右手以外は健康な私は面談も可能だと判断されたので、明来たちにお見舞いが出来るようになったと連絡を送った。そしたら直ぐに行くと返信されて二時間後、家からの移動やら病院の面会手続きやらを済ませた明来たちがやって来た。



「紫、わたし達のせいで怪我をさせてしまってごめんなさい。もっと魔法を操れてたら狼の魔獣も倒せたのに」

「ボクもごめんね。救援を呼ぶことしかできなかったし、そもそもボクが肝試ししようなんて言ったから」

「魔法の切れ味が良かったら紫のサポートもできたけど、見てるだけだった。海でおっきな貝獲ったから魔力も少なくなっちゃったし」

「…みんな気に病まないでよ、魔獣が襲ってくるなんて誰にも予想できないことだしさ。結果的に私は右手が少し焦げただけで、他は健康だから夏休み明けには退院できるみたいだよ」


 そう答えるが三人の表情は暗く、私一人に魔獣の相手を任せて自分たちは危険を冒さなかったと考えているように見えた。だけど責任を追求し始めたら切りが無い。軍事学園に通っていて魔法も使えるから一般人よりかは強くても、軍人としては下っ端も良いところだ。戦闘だって試合形式の一回きりで、訓練の内容だって小型や対応の簡単な性質の魔獣を想定したものだ。


「始業式まで一週間ですけど完治するんですよね」

「うん、するよ」

「…平気なんですよね」

「平気だよ」

「………」

「元気な姿で始業式に出席するから」

「待ってますよ」

「明日か明後日も面会に来ても良いと思うんだけど」

「そうゆうことはシーです、槙さん」



 その後は軽くお喋りしただけで解散になった。明来は毎日面会に来るつもりだって言ってたけど、それは流石に来すぎだから一日暇な時に来てほしいと忠告しておいた。私が疲れるし、明来にだって立てた予定があるだろうから遠慮しないといけない。


「はぁ、始業式まで暇だな〜」


 人がいなくなると病室というのは急に静かになる。かといって誰かが一緒だと落ち着かないから、暇だ暇だと嘆きながら時間を潰すほかない。 魔術の訓練でもしようかな。


 また自分が消耗した状態で戦うか分からないから戦法を想定しておいて損はない。今回討伐できたのは運が良くて、仲間が優秀だったからだ。明来が水柱で知らせなかったら私は魔獣が出現したことにも気付けない。濁流の防御が硬かったのと楠が性質を教えてくれたから戦闘に集中できた。槙が自分の技量と力量を理解して救助要請を出してくれたから捨て身の攻撃を使えた。

 人が死んでもおかしくなかった状況で損害が私の手が焦げただけなのは勝利と言って過言じゃない。明来たちはそれに納得しないみたいだけど、私はやれるだけのことはやったと思っている。

 だからこそ仲間の助けが見込めない時の状況を想定しておく必要がある。簡単にできるのは魔力を常に半分以下にしないことや持ち歩く魔道具の種類を豊富にしておくことなどだ。あの強さの魔獣が現れるのは年に一度くらいだが、最近魔獣の目撃例が増えてきているというのを母が言っていたので備えておく。


 あの魔獣なんで私ばっかり狙っていたんだろ。




エピソード1,2,3,で触れた設定は軽く見てください。

解離が激しくなってきましたので。


根本的な設定は変わりません。

変えません。

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