表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルカトゥルカ  作者: lien-sh
一学期
10/56

記憶10:紫の戦闘

 狼の魔獣は初めに私目掛けて飛びかかってきた。

 身長順に明来、槙、私で、一番食べやすいと判断したのか全員向かってきた。


「紫、しばらくお願いします」


 明来が魔法を発動させ全身がが濁流の渦に飲み込まれる。

 私から攻撃はせずに狼の攻撃を避けたり受け流したりするが、狼の身体能力を相手にすると長いこと避け続けるのは難しい。


「痛った。」


 正面の二匹に意識を割いていたせいで横からの攻撃を避けきれずに傷を負ってしまった。

 なかなかチームワークがあって、このままだとジリ貧で殺されてしまう。


「わたしから離れて」


 明来が渦の中から呟くと、濁流は明来から離れて私と狼の方に押し寄せてきた。

 離れた濁流の操作もできるから、私が立っている場所だけ穴が空いたように流れてこない。


 時間にしたら短いが、集中していると胎児のように長く感じる。一息付いたら濁流が収まり魔道具の障壁にぶつけられた狼たちが見えてきた。

 憎たらしげに睨んでいるが、もう一度繰り返しても同じだと学習したのか、少しずつ位置をズラしながら様子を見ている。


「馬鹿みたいに向かってくれば楽だったんだけどね」

「二発目準備します」

「ボクは障壁を張りますね〜」

「お願い」


 明来がもう一度魔法を発動させるが、一発目とは違い渦の中に私と槙も入っている。

 濁っているせいで狼たち行動は見えないが、濁流を飛び越えてきても槙の障壁に阻まれて飲み込まれる。



「明来の魔力が心配だけど、このまま渦を大きくしてけば狼たちは溺れ死ぬよ」

「他の人には使えない、ゴリ押しの作戦ですね〜」

「いかに被害を抑えた上で討伐するかが軍隊には必要だから、最善の策線を練って被害といえば私のかすり傷とステージの掃除が大変なことくらいかな」

「その掃除もこのステージだったら魔道具で一分しない内にキレイになるでしょうけどね〜」


 万が一狼が突破してきた時のために警戒は解かないが、既に明来の魔法はステージの半分近くまで広がっていると観戦している魔術科の訓練生たちが言っている。

 チェックメイトは済ましているから、狼が死ぬまでのんびりと待っている。


「待ってるだけも暇ですね〜」

「もう終わるよ」

「ピピーッ! 狼は死んでいないが勝負の行方は明白なため訓練生の勝利とする」

「ほらね」

「た、確かにそうですね」

「はぁ~、やっぱり魔力を消費すると疲れますね」

「お疲れ様」

「お疲れ様です!」



 分かり切っている勝負を続けてもつまらないし、狼はこの後も魔法科の訓練生と戦うから、代わりがいるとはいえ無駄に殺して補充するのはお金が勿体無い。


 魔獣と戦う模擬戦のはずだが、普通の獣でも結果は対して変わらなかったと思う。そもそもあの狼たちの魔法がどういった性質なのかさえ知らないまま勝ってしまった。

 普通の狼と反応速度や身体能力は個体差の範囲で収まるくらいだったし、爪の鋭さも頭の賢さも大した事無かった。再生能力が高いとかだったら、私たちは裂傷や打撲する傷は与えていないので分からない。



 もしかしたらあの狼たちは特殊な魔法を使うのかもしれない。

 動物は自分自身を強化する魔法に変質するのが基本だが、変質する際の状況次第では人間みたいに炎や水や風を操る魔法を発動させることもある。


 人間が銃弾を放って獣を殺した時、それを見ていた獣は何故死んだのか理解できないだろうが恐怖はする。

 あるいはその獣を殺した手段が自分にもあったら楽に狩りができるのにと想う。理由はまちまちだが人間の銃を真似して弾丸を放つ魔法へと変質する。


 珍しいことだと感じるが実例は年に何度も報告されている。

 特殊な魔法を使う魔獣は肉体強化の延長にいるだけの魔獣よりも、人間への被害が大きいのかと言われれば、別にそんなことはない。


 むしろ種族としての性質である牙や爪を使わずに、魔法ばかりで攻めてくることで対処がやりやすくなっる。魔法を発動している間は集中して動けないし、魔力を消費すれば精神がすり減って魔法を使うどころではなくなる。


 自身の種族としての性質を存分に発揮して襲いかかってきたほうが、遥かに対処が面倒で討伐の難易度が上がる。

 人間と獣の間で魔法の違いがあるのは精神構造の他にも種族としての性質が関係しているのかもしれない。



「次の組が入ってきたみたいですよ」

「おぉ〜、次点で優秀な三人で、組を作ったんだね。私たち明来組と違って星野組はまともな戦い方をするだろうから、見とくと参考になるよ。特に槙は」

「紫さんと桃さんはずっと一緒にいるでしょうけど、ボクは別の人と組むこともありますからね〜」

「そうそう」


 狼の魔獣はそのままステージに置かれて、私たちは観戦席に移動した。

 魔法科の場所には誰もいないからどこにでも座れると思ったが、スポーツ大会を見に来ているわけではなく、あくまで訓練として来ているから座る順番が決まっている。

 それでも一番初めに終わったから、座る席が見やすいのは僥倖だった。



「槙さんは好きなお菓子ってあります?」

「ボクは焼き菓子が好きですね〜。マフィンとかカヌレとか」

「じゃあマフィンをどうぞ」

「えっ、え?」

「これからお昼までの繋ぎだよ」


 魔法科が全員終わってその後に魔術科八クラスが終わるまで、私たちはここにずっと座って観戦しないといけない。一つ一つの試合は短いが、千人以上となると嫌でも長くなってしまう。


 なのでコッソリと明来と一緒に作ったお菓子を持ってきたのだ。

 教官にバレたら不味いがその時は素直に謝罪する。同じことを考える訓練生は何人もいるのだ。今更だし罰則も大した事ない。健康診断の時も食べてた人いたし。



 訓練生じゃない健康診断で御空学園にいた時は、観戦席の端で母と見ていた。

 もう朧気になっているが、その時の魔法科は歴代で最も数が多かったと聞いた。駄目教官でヤニカス野郎の園原さんが就職できたのも、学園が魔法を教えられて実力のある人を探すのに苦労していたからだ。

 結果論だが、私の健康診断が始まったせいで、魔法の教官を付けざるを得なくなったから、増員するのは正解だったといえる。



 今の魔法科は他を圧倒する才能を持つ明来がいて目標が定まっている。だけど明来を目標にするのは魔法を使う人を想定した戦闘で、魔獣との戦闘とは方向性が異なる。

 人と獣では行動パターンが全く違うから、早い内にその癖を直さないといけない。まぁ、そのクセを治す目的でもこの訓練があるんだろうけど。


 それで昔の魔法科は組じゃなくて班で魔獣と戦闘してた。魔法科が組で分けているのは人数の少なさゆえなので、それが解決したら班にするのは当たり前だ。



 人数が変われば戦闘方法も当然変わる。

 私たちの次に戦っている組と比べてみるとやはり人数が多いほうが安定している。

 魔獣の攻撃を防ぐ係、魔獣に大きな一撃を与える係、補助や防御をする係。魔法科で格闘技を行うのはまだ先だから、魔獣の攻撃を防ぐ手段が障壁を張るか細かい攻撃で牽制するかだ。


 魔法はたしかに強力だが規模が大きくなればなるほど、集中するための時間が掛かり隙ができる。それを埋めるために前衛が必要だが、歩兵科や魔術科の軍人は集団行動向けで異なる兵科とともに行動するのは訓練されない。


 魔法科で学ぶのは遊撃隊としての役割で、軍事行動をする際の訓練も教わるが量は少ない。それが魔法を使うものに対して最も安全な使い方だ。

 いつ暴走するかも分からない上に、能力は高いが個人差がありすぎる。遊撃部隊として人間相手に被害を出さないようにするのは理にかなっている。

 だから三四人の組をつくって役割を決めて育てるのだ。






 私が最も得意な戦闘方法は一対一で、それなら園原教官にだって遅れを取らない。

 当時の私はその一対一の戦闘か素早く敵陣から逃げ出す技術しか無かったから、未熟ながらも被害を出さない守るための戦闘方法は新鮮に写った。

 私も誰かを守ってみたいとか正義感が芽生えたわけではない。ただ私が生まれて来てから積み重ねてきたことが無意味だと知ってしまっただけだ。



 だから泣いてしまった。

 泣きじゃくってその場で崩れ落ちてしまった。

 涙は止まらなかった。

 そんな私の頭を、母が撫でてくてた。

 嬉しかった。

 

 嬉しかった。


感情

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ