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オルカトゥルカ  作者: lien-sh
一学期
1/55

記憶1:紫(ゆかり)の朝

初投稿です。

よろしくお願いします。

燦々と照らす朝日がカーテン越しに私のまぶたに届き目が覚める。半透明のカーテンは新緑の木の枝が通した光をそのまま私のベットまで届けている。


目覚めの良い朝だがまだ春休みで寝ていたい気分のほうが強い。

あと数日で入学式を迎えるが、そのための準備は春休みに入る前に終わらせている。


私はこれから御空学園という軍隊の育成をする学園に入学する。

そこは政府直属の軍事学園で魔術の国内向けの軍隊を育成する一般科と、この国で三つしかない魔法の教育が行われその資格が取れる魔法科の2つがある。

私は魔法科に所属してこれから退屈な講義と楽しい訓練を受けることになる。


学園の一般科に入学するには厳しい筆記試験や実技試験に合格する必要があり合格率はかなり低いが、魔法科の合格率はほぼ全員が合格する。

なぜなら制御できる魔法は国中を探しても一年に数十人しか見つからないし、放置しておくのも危険なためほぼ強制的に入学させられる。

軍事学園なので卒業したらほとんどの人は科に合わせた軍隊に所属する。

もちろん個人で就職先を探しにその他の専門職になるために卒業する人も年に何人もいるが、そうした人たちも魔法魔術に関わる仕事に就いている点では同じだ。


義務教育では危険性が少なく扱いやすい一般魔術用の魔道具しか与えられず、戦闘に使う殺傷能力の高い魔術や土木作業や建設に使う大規模な魔術など使用できる魔道具は規制されている。

だから本格的に魔術を使いたいなら、その魔術の資格を発行してくれる学園に通うしかない。


正直なところ学校に行くのも子供のときから面倒くさいし、母親が魔法の講師をやっているから最低限のことは学んでいる。

だけど学んでないことも沢山あることと学園から発行される資格がなければ一般魔術以上を使うのは罪に問われるので入学させられた。


御空学園は母の仕事場かつ出身校で、軍事学園だから授業の一環として合法的に魔法魔術を使えるからすすめられた。戦うことが好きだし、卒業して渡される許可証がないまま魔法魔術を使えば犯罪者となって警察から追われるはめになる。

そうなれば生活することが難しくなるし、家族にも迷惑がかかる。そういう事態は避けたいからしっかりと学園で過ごさなければならない。

それでも面倒に思ってしまうのは仕方のないことだ。



「姉さん起きろー!」


階下から元気の良い弟の(さい)の声が聞こえてくる。春休みなのだし朝ご飯は昼と一緒に食べても文句は言われないだろうに健康に悪いからと朝ご飯を強要してくる。

そもそもブランチという朝と昼の食事を合体させた意味の言葉もあるのだからそこまで目くじらを立てることもないだろうに。


「あと10分で入学式に間に合う最後のバスが出るのに何寝てるんだ」


朝から煩い弟は私よりも身長が大きいが、顔立ちや声はまだ子供らしさを残してはいる。

いや、子供らしさで言えば身長も顔も声も私のほうが幼いのだが認めたくはない。

それに入学式と言ったのは聞き捨てならなかった。記憶では入学式まで数日の猶予があると思うのだが。


「おはよう紫。入学式まで数日なかったっけ?」

「ないぞ。入学式早々恥をさらさないように早く支度しろよな」

「ん〜、あと何日か休みがあったような気がするけど気の所為だったか」

「それは姉さんが学校に行きたくないから勘違いしてるだけだ」


姉を侮辱するとは上下意識が足りないのかと思うが、ここで争って無駄に時間を消費すれば余計に遅刻の可能性が高まるので黙認することにした。


「目が覚めたら父さんも母さんも仕事に行ってて姉さんも今日は早めに起きて一緒に行ったのかと思ってたけど、朝食がリビングに置きっぱだから寝てるって気付いて教えに来たんだよ」

「朝食を食べずに入学式に行ったって線は?」

「それよりも寝てる可能性のほうが高い」

「確かにそうだね」


私が時間に余裕があって食事を抜かすなんてことは有り得ない。とても姉のことを分かっている出来た弟だ。

それに免じて仕方なく布団から出て服を着替えるために紫に出て行けと合図を送る。紫も慣れた様子で退室し降りていった。

立ち上がり一応さっきまでいた紫の頭の一と私の頭の位置を比べるが、まぁ私のほうが低い。


気分は落ち込みながらも軽く背筋を伸ばし、魔術で水を出して顔と髪の毛を整えてからパジャマから制服へと着替える。魔術で出した水は窓を開けて庭の木にやった。

真新しい制服は着慣れないためシワが少しできてしまったが、それ以外は新品同然の黒を基調とし所々に青と白を散りばめた素敵なデザインの制服だ。

そこに腕に着ける学年を表すリボンを飾ると完成だ。普通の学生服と比べると動きやすく、汗がすぐに乾くよう空気の通りが良くなっている。



リビングに降りれば紫が魔道具のレンジで自分の朝食を温めている。生憎と私にはそんな時間は残されていないため、冷たい食事のまま味わう暇なく胃袋に収める。

まだ春休みの紫はのんびりと朝食用のインスタントコーヒーを作りながら話しかけてくる。


「ここからバス停までそれなりに距離があるから走って向かわないと間に合わないんじゃないか」

「疲れるのは嫌だけど乗り遅れるよりかは良いか」

「そうだな」


紫はそう言いながら優雅に朝のコーヒーを啜る。私はコーヒーよりも紅茶のほうが好きで飲みたいとは思わないが、ゆっくりしている姿を見るのはムカつく。

その様子を憎らしく睨みながらほぼ出発の準備を整えたカバンにスマホに財布の貴重品を入れて玄関を出る。


「入学式頑張ってこいよ」

「言われなくとも」



家を出てバス停に着けばちょうどバスが到着するときで、走ってなかったら間に合わずに扉が閉まるところを見て項垂れていたかもしれない。

バスにはまだ数人しか乗っておらず、自由な席に座ることができた。これから大勢乗るから邪魔にならないよう右側の一人席に座ると、バスは発車して次のバス停と行き先を知らせる放送を流す。

御空学園は終点の少し前でそれなりに時間がある。




「はじめまして、あなたの御空学園に行くんですか」


家から三つ離れたバス停で乗ってきたのは同じ制服を着た女性で、少し巻き上がった髪に私よりも大きな背丈をしていた。

腕には私と同じ色のリボンを付けているから新入生のようだった。それに急いで来たのか息が上がっていて服装も少し乱れている。


「はじめまして。それとそうだよ」

「それでは後ろに失礼します」


誰かしら同じ学校の学生に合うとは思っていたが、まさか品行方正そうなお嬢様と出合うとは思わなかった。

真っすぐの髪が背中まで伸びていて動くごとにシャンプーの良い香りが漂ってくる。

私の髪は縮れ毛っぽいからこういうストレートは憧れる。


「私から名乗るけど私は水瀬紫。ゆかりの漢字はむらさきが使われているよ」

「わたしは明来桃と言います。名字は明るく来ると書いて名前に桃の字が付いています。それに気付いたんですがわたし達どちらも名前が色なんて運命的ですね」


名前が似ているだけだったら読み方は違えど同じ漢字の弟の方がそれっぽいと思ったけど、ここで言ってもどうしようもないから言わないことにした。

私も多少はこの偶然に驚いてるからかもしれない。


「聞きたいんだけど何で敬語を使ってるの?別に同級生だったら気にすることないと思うけど」

「私にはこれが慣れていて話しやすいんですよ」

「そういうもんなんだ」

「そういうものなんです」


そしていきなり前の方から大きな音がしたと思うとバスが急停止して前に押し付けられる。

私は体幹が良いから体をぶつけたりはしなかったが、明来はそうでは無いようで肘を打ったのか痛そうに擦っている。


「いったいどうしたっているんだ!」

「何が起きたっていうのよ!」


他の乗客たちも困惑しているようで次々に声を上げている。揺れてから数秒間、運転手が小さなマイクを手にとって連絡を取り始めていた。

管理室と連絡を取っていたのか数回返答を繰り返すと別のマイクを手に取り放送を流す。


「えー、皆様大変申し訳ありませんがこの先で魔獣が出現しているらしく道が封鎖されている状態です。解除されるまで今しばらくお待ち下さい」


ため息を付きながら明来を見る。他の乗客たちは運転手にこれからのことを聞きに行っているが、明来は顔を真っ青にしながら私を見返す。


「これ、始業式間に合う?」

「間に合わないと思います」


明来は自分でいった言葉が自分に響いたのか俯いてため息を吐いた。心のなかで思っているのと口に出して言うのとでは、失意の大きさが変わるのかその顔色は暗かった。

なにせ魔獣が出ると討伐から周囲の安全確認まで含めて最低でも一時間はその区域が封鎖されるのが当たり前で、このままだと確実に入学式に遅刻する。


私としてもそれは避けたいからズルすることにする。



「ここからタクシーに乗り換えて、いやでも・・・」

「明来、ここから見たことを絶対に話さないって約束できるなら私たち入学式に間に合うけど、どうする?」

「それはもちろん間に合わせたいですけどバレたら不味いものなんですか」

「私一人なら問題ないんだけど部外者となると怒られるね、とっても」


私の言葉に明来は考える素振りを見せたが、意を決したように頷きバスを降りる。他にもバスを降りて別の交通手段を使おうとする人がいたため自然に降りれた。


カメラに映らないように路地裏を探して魔術を発動させる。

魔道具がほのかに輝き私たちの周りを漂う。光が全身を覆い尽くすと見えている景色の輪郭がぼやけて大まかな配色しか見えなくなる。

瞬間景色が鮮明になり、街の路地から薄暗い研究室の一角へと移り変わった。



「うっぷ」

「ごめん説明してなかったけど、これめっちゃ酔うんだよね」

「気持ち悪い」

「とりあえず場所を変えないとだから着いてきて」


明来の手を引っ張りながら外に出る扉へと案内する。

その間ずっと口に手を当てているから罪悪感で優しく擦ってあげた。車酔いの何倍も脳に負担がかかるから初体験だと吐いてしまうことが多い。

しばらく歩けば入学式の建物からそこそこ離れた場所に出た。


物語のはじめに書いた設定は後と矛盾があります。

その場合は後のほうが正しいです。

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