第85話 焔闘者vs欠落者 その2
焔と虚無が、ぶつかった。
イグニスの放った炎は、ただの熱ではない。
命を焼く焔。意思を持つ炎。触れたものすべてを――現在を、燃やし尽くす力。
しかし、“欠落者”の刃は、それを貫く。
変化し続けるその武器は、過去の名剣、未来の未知の兵器、誰かの遺志の象徴――そのすべての可能性を孕み、現実に存在しないはずの武器にすら変容する。
「なるほど。確かに、“今”は強い。だが……」
“欠落者”が手にする刃が、光を吸うように黒ずんだ。
「お前がどれほど燃やそうと――未来がなければ、何も残らない」
瞬間、イグニスの焔が一部、ねじ曲がった。
刃が、未来の一瞬を“消した”のだ。
そこに存在するはずだった熱量が欠落し、爆発すらも起きなかった。
「未来を消す……!?」
セリーヌが思わず呟く。
“欠落者”の力。それは「これから起きるはずだった出来事を欠落させる」力――すなわち、運命の否定。
「ならば!」
イグニスが踏み込んだ。床が砕け、重力すら拒むほどの跳躍。
焔が、彼の腕に集まる。拳に、剣に、全身に。
「俺がこの“今”で、全てを焼き尽くすだけだ!!」
拳が振るわれる。
炎が咆哮する。
“欠落者”が、その未来を狙って、斬る――
だが、それは届かなかった。
“今”は、もう彼の手にあったからだ。
衝撃。爆発。玉座の間が崩壊する。天井が裂け、空が見える。
灰の中、煙を纏いながら、イグニスが着地した。
“欠落者”は、数歩、後退していた。
形を失った刃が、空中でふわりと消える。
「……意外だな。お前が、ここまで“人”だったとは」
“欠落者”が呟く。
「だから、俺は……お前みたいな存在を、絶対に許さない」
イグニスが構えを取る。焔が、さらに強く渦巻く。
戦いは、終わっていない。
むしろここからが、“本当の始まり”だった。




