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第82話 玉座の前にて
玉座の間は、思いのほか静かだった。
高くそびえる王宮の最奥、赤絨毯の先――そこに王の姿はなかった。代わりに、その空虚な玉座を見上げる美少女の背中が一つ。
名を、セリーヌという。
「……お前か」
女は振り返らない。だが、その声に、セリーヌの眉がぴくりと動いた。
「“欠落者”……」
応答はない。ただ静かに、セリーヌが振り返る。
其れには、瞳の奥に、何も宿っていない。感情も、温もりも、使命さえも。“空白”だけが、そこにあった。
「ここが……お前の終着点だ」
其れは言った。
セリーヌは、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。
鋼が擦れる音が、薄闇に引き裂かれたように鳴り響く。
それに呼応するように、其れもまた、同じく剣を抜き、輝かせた。
形状は不定。刃が空気を飲み込みながら変容する。まるで未来がまだ決まっていないかのように。




