第78話 過去編:檻の中の可能性
逃げられない日々が始まった。
カルロはダチュラの管理する地下施設で、“管理される側”となった。
転移能力は封じられ、逃走は不可能。定期的に繰り返される実験。
精神ストレス下での能力発現テスト、視界制限時の空間感知、連続転移の負荷試験――
「なあ、俺やぁは……
何でこんなこと、されてんだよ」
「君は“特別”だからさ」
ダチュラは無表情で答える。まるで、それが当然のように。
「君は、普通の転移者じゃない。君の“跳び先”には、選択がある。
分岐点を、無意識に嗅ぎ取っている。それは運命干渉の初期段階」
「意味が分からねぇよ……!」
「私には分かる。君は、“選べる”人間なんだ。だから試す価値がある」
カルロは、檻の中で拳を握りしめた。
自由を奪われ、身体も心も限界に近かった。
だが――逃げ場のない檻の中で、彼の心を支えていたのは、奇妙にも“彼女の言葉”だった。
「選べる人間」
「試す価値がある」
誰もが自分を厄介者扱いし、能力しか見てこなかった。
だが彼女は、能力すらも“道具”として淡々と見抜き、その先にある“何か”を信じていた。
「なあ……」
ある夜、カルロは独房の隙間から、ダチュラに声をかけた。
「お前……ほんとは、何がしたいんだ?」
しばらくの沈黙のあと、ダチュラは答えた。
「運命を壊したい。
正確に言うなら、“壊しても壊れないもの”を、探してる」
「なんだそりゃ」
「どんなに運命を歪めても、誰が死んでも、何を奪っても――
それでも、なお進もうとする人間がいるのか。私は、それを見たい」
カルロは、笑った。
「そんなん、お前が実験するまでもなく……もう、見てるだろ」
「……?」
「ここにいる俺だよ。お前が“出口”全部潰しても、まだこうして喋ってる。
俺は、まだ諦めてねぇ」
ダチュラの目が、わずかに見開かれる。
「捕まったつもりはねぇ。
むしろ、見せてみろよ。“壊れない運命”ってやつをさ。
その先に、お前が見てる“何か”があるなら――俺も見てみてぇ」
その瞬間、何かが変わった。
ダチュラは、わずかに笑ったように見えた。
「……いい目をするようになったね、カルロ」
その日を境に、カルロは“実験体”から、“協力者”へと立場を変えていく。
逃げるのではなく、向き合う者として。
それが、のちに“仲間”と呼ばれるようになるまでの、始まりだった。




