表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠落者  作者: 喜國 畏友
間章 剣夢終焉編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/222

特別挿話:老師の夜

 夜の道場には、虫の声と畳を軋ませる風の音だけが満ちていた。


 老師は薄い布団にくるまりながら、仰向けで天井を見上げていた。年齢のせいで眠りは浅く、月の光さえ煩わしく感じる。だが、今日の稽古を思い返していたせいで、特に寝つきが悪かった。


「レイス……」


 あの弟子の名を口の中で転がすように呟いた。

 あれほどの剣士は、百年に一人だ。おそらく、いや間違いなく、自分を超える存在になるだろう。


 ただ、“受け”と“精神”がまだ甘い。


 攻めることに特化しすぎている。その危うさを、今のうちに矯正してやらねば――そう思いながら、いつのまにかまどろんでいた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 不意に、畳の軋む音で目を覚ました。


 老師は目を開けると、障子の向こうに人の気配を感じた。ふわりと漂う、焦げた匂い。そして――火の灯りが、障子の隙間から差し込んでいた。


「……ん?」


 身体を起こそうとしたそのとき、ふすまが開いた。


 立っていたのは――弟子だった。一人の弟子だ。レイスと同じ時期に入門した、あの整った顔の男。夜にも関わらず、白い道着をきちんと着て、表情を浮かべずに立っている。


「……こんな夜更けに、何用じゃ?」


 老師が問いかけても、男は黙っていた。代わりに、ほんの一瞬、口元を歪めて――微笑んだ。


 不気味な笑みだった。


 そして、背後に見えたのは――炎。


「……まさか」


 立ち上がろうとするも、布団の下に仕掛けられていた細工が作動したのか、爆ぜるような音とともに煙が立ち込める。喉が焼け、視界がぼやける。


「……貴様……ッ!」


 しかし、刀で、視界にある炎を振り解いた。


「……おぬし……何故じゃ……!」


 返答はなかった。


 眼前には、一人の弟子が一本の刀を持っていた。


 かつて無敗を誇った剣士は、彼を"敵"と認識しざるおえなかった。


「レイス……」


 その名を最後に呼んだとき――


 老師は、ふと笑った。


 あの弟子が、己を超えようとしていること。いや、すでに超えていることを。

 ならば――この命も、もはや惜しくはないのかもしれぬ。


 だが――まだ導くべき存在がいる。


「全身全霊で、わしを超えにこい!!」


「ふっ」


 其れは、ただ笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ