第5話 冷夜
外はすっかり暗くなっていた。
ふと、いつの間にか自分が長い時間眠っていたのではないかという疑問が頭をよぎる。
そんな中、私の耳に温かく優しい声が届いた。「大丈夫かい?」その声は、私の心の奥底にそっと触れるように、優しく響いた。
その声に反応して、私は半分意識の中で「え?」と呟いた。
しかし、返事はすぐに返ってこない。ふと、自分の頬に触れると、冷たく濡れた感触が伝わってくる。
それは、いつの間にか流れていた涙だった。私はようやく自分が泣いていたことに気づき、静かに「大丈夫です」と呟いた。まるで自分自身に言い聞かせるように、静かに呟いた。
「おい。着いたぞ」
その時、どこからかはっきりとした男の声が響いた。
カルロの声だった。私の身体はその声に反応するかのように、思わず跳ね上がった。
「あぁ、分かった。じゃあ、行こうか」
「うん」
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馬車から降りると、ダチュラと私は黙々と歩き始めた。周囲の景色は夜の静寂に包まれ、言葉はなかった。ただお互いの存在だけで、すべてが伝わっているような気がした。
周囲の景色は、先ほどの開けた野原とは異なり、中世ヨーロッパ風の建物が立ち並ぶ街並みへと変わっていた。やがて、私たちは目的地であるアジトに到着した。アジトという名前から、私は秘密基地のような場所を想像していたが、目の前に現れたのは、古風な洋風の民家だった。
まるでアニメにでも、出てくるような、懐かしさと温かみを感じさせる建物だった。
「さっ、入ろうか」と、ダチュラが軽い調子で促す。合言葉とかもいらないらしい。
「は、はい」と、私は少し戸惑いながらも答える。
玄関前に立った瞬間、ダチュラがふと声を落とし、私の手を取りながら、「あのさ」と話しかけた。
「さっきも言ったけど、敬語いらないって。ちょいちょい入れてきてるけど」
その言葉に、私はすぐさま頬を染めながら、「あ、ごめん」と謝った。
ダチュラはにっこりと笑顔を返してくれた。
嬉しかった。
この一瞬のやり取りが、言葉以上に互いの距離を縮めた気がした。
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玄関をくぐると、静かな室内が広がり、外の夜の冷気とは対照的な柔らかな空気が迎えてくれた。室内の明かりは控えめながらも、温かさを感じさせ、どこか懐かしい雰囲気を漂わせていた。
その時、部屋の隅に、私くらいの年齢と思しき若い女性がひとり、佇んでいる。彼女は軽やかな笑顔を浮かべながら、丁寧に頭を下げた。
「おかえりなさい、姉さん」
その声には、深い愛情が込められているのをひしひしと感じた。
「ただいま。いい子にして待ってたかい?」
ダチュラがそう優しさの籠もった声で聞いた。
その子は「はい!」と元気よく返事をした。
どうやら、姉妹のように親しい関係らしい。外見はあまり似ていないが、その雰囲気だけで確かな絆が伝わってくる。
「おっと、すまないね。アザミ...この子はジュリ。私の妹さ」
「こ、こんばんわ」と、ジュリもまた、恥ずかしそうに頭を下げながら挨拶する。その礼儀正しさに、こちらまで思わず微笑んでしまった。私も礼儀を重んじ、深く頭を下げた。
にぎやかな声が室内に飛び込んできた。
ふと、もう一人の存在に気づいた。部屋の奥から、声が響く。
「おい。女三人で仲良くすんのは勝手だがよ、俺を放置とはやってくれんじゃねぇか」
一瞬、声の主が誰かと思い後ろを向く。カルロだった。彼の登場に、内心ほっとすると同時に、少し照れくささを感じた。
「カ、カルロさん。こ、こんばんわ…」
またもや、ぺこりと頭を下げた。
「おう、ジュリ。まともなのはてめぇだけだ」カルロはぶっきらぼうに言ったが、その言葉にはどこか愛情が感じられた。
(ってか、私も変人扱いか…)
「さて、全員揃ったし、挨拶も済んだところで、そろそろ始めようか」
「何を?」
「作戦会議♪」
ダチュラの一言で、部屋の空気が一変した。




