第53話 私の選んだ道
乾いた風が吹き抜ける、灰色の石の回廊。空は曇天に覆われ、まるで世界全体が沈黙しているようだった。
この地下施設は、外の世界と完全に隔絶されている。重厚な鉄扉に閉ざされ、時計の音すら響かない。空気は冷たく澱み、そこに確かに存在するのは、鉄と血の匂いだけだった。
「ここは、僕の私有地なので。好きに過ごしてくれて構いませんよ」
エーデルはそう言って、まるで庭を案内するような調子で笑った。
そして、私はここで1ヶ月間、“殺しの技術”を学ぶ。
“クラフト”という名の筋肉の塊が、無慈悲な訓練を担当していた。言葉少なで、感情もない。だが確かに、殺すための技術だけは徹底して叩き込んでくる。
そしてもう一人、ディルク。元傭兵で、今はエーデルの配下らしい。
いつも黙々と訓練の様子を見つめ、時折無表情のまま助言を投げる。手には、研ぎ澄まされたナイフ。それを使い、動作のひとつひとつを私の体に叩き込んでくる。
クラフトが体の使い方。ディルクが武器(主にナイフ)の使い方を教えていた。
「立て。呼吸を整えろ。肘を引け、今のお前じゃナイフが皮膚を滑るだけだ」
無機質な声が響く。
私は何度目か分からない転倒から、膝を擦りながら這い上がる。泥と血にまみれた脚はすでに感覚が薄れ、呼吸は熱く、喉が焼けるようだった。
そして、もう一つ——訓練以上に厄介な存在がいた。
訓練場の隅。こちらをじっと見つめて離れない、奇妙な男。
髪はぼさぼさ、目は据わり、ずっと唸っているような声を出しているかと思えば——
「তুমি কি জানো?」
何語かも分からない呟きが、時折、空気を切り裂くように漏れた。
何なんだこの人……。
最初は無視しようとしていたが、次第に彼の存在が視界の端で重くのしかかってくる。
それでも、私はナイフを握りしめる。掌に皮膚の感覚はすでになく、握るたびに傷口が開いて血が滲んだ。
訓練内容は単純だった。標的の急所を狙う——心臓、頸動脈、腎臓。
その動きを何度も、何百回も繰り返す。ただ、殺すために。
人間そっくりの人形を斬り、刺し、倒す。
最初のうちは嘔吐しそうになった。だが今では、息を整える程度になっていた。
けれど——
心のどこかで、まだ叫んでいる声がある。
本当に、これが正しいのか?
ダチュラが望んだのは、こんな私だったのか?
この手で、誰かを殺して。
それを“復讐”という言葉にすり替えて、何を得ようとしているのか。
「……集中しろ! 敵は待ってくれないぞ!!」
クラフトの怒号が飛ぶ。
私は立ち尽くし、自分の手を見る。
震えていた。まだ人を殺してもいないのに、この震えは止まらない。
だけど分かっている。
次は——“本物の標的”が与えられる。
この道を選んだ瞬間から、もう後戻りはできなかった。
けれど、構わない。
私はあの人を殺した“欠落者”を、絶対に——地獄に引きずり込む。




