第50話 敗者
「ふん、まさか邪魔を入れるとはな」
フィンが、無感情な声音で呟いた。目に映るのは、わずかな苛立ちさえも感じさせない、冷たい無関心。
「ふふふ。まぁ、約束通り、"謎の男"は回収させて頂きますよ?」
エーデルは椅子を押しのけ、ゆったりと立ち上がる。彼の背後に広がる空気が一瞬で変わる。
「あぁ、好きにしろ」
フィンは肩をすくめ、つまらなそうに呟いた。目を合わせようともしない。
エーデルは、敗者へと目を向けた。
「イグニスさん.....本来ならば、彼は勝利する筈でした。慰めの言葉のひとつも、かけなくてよろしいのですか?」
今度は、賭けの敗者へと目を向けた。
「無用だ」
フィンは即答した。声音にも表情にも、ためらいの色は一切ない。
「ふふ……そうですか。では、ついでに一つ、種明かしでも」
エーデルはくるりと踵を返し、出口へと歩き出す。その途中で、ふと立ち止まり、振り向きざまに言い放った。
「"荒地の魔女"を殺したのは、僕です」
「……!?」
フィンの目が見開かれる。今まで見せたことのない動揺が、ほんの一瞬、彼の無機質な仮面をひび割らせた。
「落ち着いて下さい。あの厄災が、何故死んだかを知る者は、この国にはもういません」
「……“もう”? だと?」
「ふふ。口が滑りましたね……いけないいけない。まぁ、あなたにだけ秘密があるわけじゃないってことです」
「……さっきから、何を言っている?」
フィンの声に、わずかに鋭さが混じる。
「私は、この国にいる能力者全てを調べさせました。この国最強の三光の剣豪もあなた方、王守の四柱も、全てをね」
言葉の一つひとつが、まるで刃のように鋭く、蝶のように宙を舞う。
「ほう。それはそれは努力家なことだな」
「ですが、あなただけは――何もわからなかった。出自も、能力も。まるで、記録の外側に立っているような……おかしいと思いませんか?」
エーデルの瞳が、静かにフィンを射抜く。
「あなた、一体、
――何者なんですか?」
フィンはしばし沈黙する。だが、次の瞬間には薄く笑みを浮かべた。
「……それはこちらの台詞だ」
空気が凍りつく。
虚ろな静寂の中、二人の間に張り詰めた糸が、今にも切れそうに震えていた。




